親父は神様なのか~コンビニ編~
親父は神様なのかシリーズ二作目。
是非お立ち寄りください。
神原透(17)は高校卒業を控えた普通の学生である。
同級生達が次々と進路を決める中、透は未だに進学することに躊躇いがあった。
その主な理由は父親が原因だ。
透の父、神原一輝には多少妙なところがある。
それは、自分を「神様」だと思っていることである。
思っているだけなら、まだいい。
透は幼い頃から耳にタコができる程、
「透、俺は神様なんだぞ。すごいだろ。」と、聞かされ続けてきた。
勿論、透は信じていないし最近では相手にもしていない。
とはいえ、肝心な問題はそれだけではない。
父、一輝は自称神様野郎だけではなく、現在無職なのである。
そうなると当然、進学という選択は難しくなる。
透は常日頃から、この状況をなんとかしなければと頭を痛めている。
透は青春を楽しむ余裕のない不幸な高校生なのである。
「暑いなー。夕方でも、この暑さは異常だな。」
夏真っ盛りの、この時期は昼間蓄積された熱がなかなか下がらない。
学校から帰宅途中の透は吹き出す汗を拭いながら歩いていた。
ようやく自宅近くのコンビニが見えてきて、
「ちょっと寄っていくか。」と、足を早めた。
すると、正面から見慣れた顔と声がやってきた。
「透~!おーい!」
親父だ。
嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってくる。
「親父!大きな声で呼ぶな。恥ずかしい。」
「照れるな、照れるな。思春期かこの野郎。」
「で、何やってるんだ。こんな所で?」
「ああ、あんまり暑かったからなビールでもと、思ってな。」
「そうですか。いいご身分で。」
「まあな、神様だからな。ハハハ。」
透の悩みは当分解消されそうにないようだ。
二人は一緒にコンビニの店内に入った。
「おぉー!なんと涼しい。まるで天国だな、透。」
「神様が天国って……」
だがそう言いたくなるのも分からなくもない透であった。
「ふーっ、本当に生き返るな。」
「おい透。なにボサッとしてるんだカゴ持ってこい。」
「あ、ああ。」
一輝は水を得た魚のように店内を駆け回り、次々とカゴにビールやお菓子、雑誌を放り込んでいく。
そして、あっという間に買い物カゴは山盛りとなった。
「いやー買ったな。」
「親父、重いよ。」
「透、早くレヂに置け。」
透は両手でカゴをレヂに置いた。
それを素早く、黒メガネの男性店員が捌いていく。
「ありがとうございます。三千八百五十三円になります。」
透は、ふと一輝の方を見た。
すると一輝は素知らぬ顔をして少しずつレヂから離れていくではないか。
「親父!」
一輝は何も応えずに、もじもじしている。
「ハァー」
透は仕方なく財布を取りだし、なけなしの五千円を支払った。
ふとレヂ横にある張り紙に目がとまった。
(アルバイト急募。年齢、経験不問)の張り紙だ。
店員の名札には(店長、佐々木)の文字。
「あの、ちょっとお尋ねしたいのですが」
「はい。何でしょう?」
「アルバイトって、まだ募集してますか?」
「してますよ。前にいたバイトの子が急に来なくなって、大変なんですよ。ハハハ」
「あの……あれなんですけど、雇ってもらえませんか?」
透は一輝を指差した。
「こら透。誰がやるって言った。俺は人に頭など下げないぞ。神なんだから。」
「やっぱり駄目ですよね。あんなの。」
すると店長佐々木は少し考えてから、
「いや、面白い。」
「え?」
「え?」
神原親子は驚いた。
「私、結構変な人好きなんですよ。自分自身もよく変わり者だね、なんて言われたりするんで。でも条件があります。」
「変な人って、さらって言ってんじゃねえ。」
怒る一輝を尻目に透は、尋ねる。
「あの、条件って?」
「君もここでバイトしてくれないか?お父さんの監視役として。それが条件だ。」
「おい透。止めておけ。変な気おこすな。」
だが一輝の制止は透には届かなかった。
「分かりました。俺やります。一応コンビニのバイト経験あるんで頑張ります。親父を立派に更正させてみせます。」
「よし採用!二人でお父さんを立派な大人にしよう。透君。」
「はい!店長。」
盛り上がる二人を他所に一輝は一人盛り下がっていた。
「おいおい君達、勝手に決めるんじゃないよ。俺は神様なんだよ。聞こえてますか……いや聞こえてないなハハハ」
こうして神原親子は夕方からコンビニのバイトに入ることとなった。
――後日
「さあ!今日から頑張りましょう。」
「はい!」
「嫌だ、俺帰る。観たいテレビあるし。」
透は嫌がる一輝の首根っこを掴みレヂへと運んだ。
「じゃあまず俺がレヂやるから親父はサポートしてくれ」
「……」
「返事は!」
「はいはい」
間もなくしてお客第一号が現れた。
透は手際よく捌いた。
「ありがとうございました」
「……」
「こら親父。ちゃんと頭下げろよ」
「馬鹿野郎。頭なんて下げられるか!」
その二人の様子を、にこやかに頷きながら店長佐々木は見守っている。
やがて次のお客が現れた。
「はい。お弁当温めで。かしこまりました。」
「ほら親父、これ温めてきて。」
透は弁当を一輝に手渡し接客に戻った。
「なんだよ。どうすんだよこれ。」
ふと見ると揚げ物の調理用の油が目に入った。
「ああ、これにぶちこめばいいのか。」
弁当をまるごと油に入れる一輝。
バチバチ!と妙な音に気が付いた透がやってきて、
「おいおい!何やってんだよ親父。もういいから袋詰めしてきてくれ」
「へいへい」
一輝は手際よく客の商品を袋に叩きこんだ。
「おい!おっさん。何でホットコーヒーとアイスクリームを一緒の袋に入れるんだよ!溶けちまうだろ!」
「なんだと貴様!神に向かってその暴言、許さん。」
「バシ!」
その時、後ろから透の拳が一輝の頭を捉えた。
「いてっ!透、お前親に手をあげたな。」
「そんなことよりお客様に謝れ。」
「嫌だ!」
「本当に申し訳ありませんでした。」
「透。神の子が簡単に頭を下げるな。」
「いいから謝れ!」
「絶対にあやまらない!」
そんな二人のやりとりを遠巻きに見ていた店長佐々木は、
「フフッ。やっぱりいいなあ親子って。」
「あーっ!もういい。俺は怒った!」
一輝は両手を高く挙げた。
その瞬間、全ての人と時間が止まった。
この世界から色が消え、モノクロの世界が支配した。
「よし。これは大技だから少ししかもたん。今のうちに、おさらばせねば」
そんな白黒の世界で唯一、色を失っていない人間がいた。
――透だ。
「お・や・じ!」
「透、さすがは我が息子。これも効かないとは」
一輝は二、三歩後退りし、そして一気に逃げ出した。
「逃がすか!」
二人はコンビニを飛び出し、そして二度と戻らなかった。
それから数日後。
透は、そのコンビニを避けるように通学路を変えた。
一輝はというと、懲りずにコンビニに通っている。
そして何故か店長佐々木と妙に気が合うようで二人は、すっかりと仲良しになっていた。
透の苦悩は、この先もまだまだ続きそうだ。
暦の上では、もう秋なのだが暑い日々もまだ続きそうであった。
(完)
ありがとうございました。
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