第一章 死神からの挑戦状(四)
4本の脚先が俺の頭部を押さえつける感触がある。この生き物がしゃべっているらしいが姿は確認できない。天井に並んでいる蛍光灯がちらと見えるだけで、肝心の物体に目が届かないのだ。俺は、しばらく白目を剥いた顔を死神女にさらしていた。
『お客さん、我が儘ゆ―てもろたら困りますわ。こっちかて慈善事業しとるんやないんやから』
おっさんの声を発する個体は、後ろ脚で俺の側頭部を一蹴りして、死神女と俺の間に華麗な着地を見せた。
胡坐の俺を見て“なんでジャージねんな”と残念そうに項垂れる。
猫?違う。背中に生えた翼に、口から飛び出した二本の牙。
珍獣としか言いようがない。見たこともない生物だった。
『大人しくこの子の鎌にかけられるか、せやなかったら、少々手荒なことさせてもらうことになりますけど、どないします』
(死ぬこと前提ッ!?)
「おい、俺だって生きる権利くらいはあるはずだぞ!」
『お嬢さん、権利ちゅーんは、義務を果たしてる人の言葉でっせ』
(なんなんだ、この獣)
『聞きましたで。あんさん、昨日の戦いで、えらい無様な負けっぷりやったらしいやないですか』
俺が保健室で目覚める前の話か。確か、シスターから死闘を繰り広げたと聞いたな。
『“カミサマ”からの陰謀を防ぐんがあんさんの御役目。これでも、勤めを果たしてるて言えるんでっしゃろか』
(気にくわん)
『ええですか。お客さん。よう聞きなはれや。神さんが唯一、人間に与えた慈悲が寿命や。長生きして何になります。みっともない姿さらすだけや。惜しんでもらえるうちに、魂手放しておくんが、賢い選択やないですか。この世界は、あんさんがのうなっても、びくともしまへん』
自分のつくった世界からも不用扱いかよ。冗談じゃねぇ。俺が、望んでこの世界に目覚めたとでも思ってやがんのか。こちとら、女になっても謙虚(!)に生きてやろうってーのに勝手なこと抜かしやがって!
俺の不服な表情を読み取ったのか化け猫はある提案を持ち掛けた。
『それでも、ここに留まりたいて言わはるんやったら、おたくの存在意義を証明してもらわな。ちょうど、明日、この学校にモンスターが表れるて情報が入ったんですわ。あんさんの実力、この目でしかと見極めさせてもらいましょ。結果次第では、うちから上に掛け合っても構いませんわ』
(お前がモンスターだろ)
「あの……」
死神女がやっと開いた口を、獣は睨みをきかせて黙らせた。
(好かん。化け猫だ)
【クエスト00 モンスターを倒して、死税庁から市民権を獲得せよ】