第一章 死神からの挑戦状(二)
黒いローブの女は、ふわりと宙に浮いたかと思えば、頭から床にスライディングした。おそらく、効果音をつけるとしたら、あれだな。
ずででででーーーん。
「あでっ」
彼女は、俺の足もとで女豹のポーズを取りながら、ひいひいおでこを摩った。どんくさい奴だな。だが、フードの下から垣間見えるシャープなフェイスラインが、瓶底眼鏡のお約束“取ったら美人”を期待させる。
「はっ、これは失敬。えー。昨日も申し上げました通り、わたくし、死税庁から派遣されて参りました徴収人でございます。今回、あなたさまの魂が満了致しましたので回収いたしたく再度お伺いした次第であります。はい」
ああ。ご苦労様です。とでも、言ってしまいかねない、さらりとした口調だった。しかし、そのペースに乗せられないのが大人というものである。
「間に合ってます」
「いえ、これは、一度決まったことですので、返していただかなくては、困ります。それに、わたくし事で大変恐縮なのですが、この一件を逃したら、今度こそ、後はないと上司に念押しされておりまして」
泣き落としのつもりか。
「そこで粘られても返事は変わらないからね。それに、あなたに魂を譲って、俺になんのメリットがあるの。いまどき、銀行に行ったって、粗品たんまりで帰れるでしょうよ」
「メリット…… ですか。」