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最終章 世界最期の日(最終回) ーボクたちの未來ー

【キャラクター紹介】


美麗(みれい)アスカ(外見十三歳)=田中…主人公。二十七歳フリーター男子だったが、交通事故に巻き込まれゲームの世界で美少女バトルマスターとして目覚める。


三鈴聖音(みすず さとね)(十三歳)…拳銃使いのシスター。ゲームの世界の住人が中村の試作品(人口知能)であると気付いた唯一の人格で、田中と同じように現実世界での記憶を保有している。専門時代の田中・中村と同級生。


○金剛まみ(十三歳)…十二年ぶりに封印から解かれた伝説の魔女。


(おお)(かみ)るう(十五歳)…オオカミの耳を生やした小学三年生の外見を持つ召喚師。


○カミサマ=中村(外見十九歳)…自殺した青年の意思を継ぐ人工知能。アレクシス・キュラ・ダイモーン二世(ヴァンパイアの息子)のデータを使い田中を監視していた。中村と田中は専門学校時代の友人である。

「生徒たちの様子を見るとバフォメットの催眠術を思い出しますね」

異端のエクソシストさまが何を言う。

すれ違った生徒たちの顔はだれも悪魔のように目の色をかえ、シスターのいうようにまるで何者かに操られているように見えた。

バフォメット? いや。あの光景は。

「あいつを葬ったのはきみだろう。術者を失くして術だけが残るというようなこと、この世界では聞かないよ」

「悠長におしゃべりしているときじゃないわ」

「なのなの!」


石造のように固まった生徒たちの間をぬって、シスター、金剛、大上くんの俺たちはゲームの世界の中心に構える教会の前に立った。

カツン。教会の奥から物音! 一同は顔を見合わせた。ここまで俺たちの四人以外、蟻一匹、太陽でさえも時を止めているというのに、いったい何が動くというのだ。

ごくりと喉を上下させ、一呼吸つく。勢いをつけて、俺はばんと扉を開け放った。

半球型の天井に轟く鈍い音。会衆席を深紅の絨毯が二つに割いて祭壇までの道なりを作っている。突き当りのステンドガラスの壁で紳士のシルエットが振り向く。漆黒のマントを翻す彼の洗練された所作がこちらを舞踏会にでも呼ばれた気分にさせる。

「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。紳士(レディー)淑女(スアン)の(ド)みな(ジェントル)さま(メン)」

夜会服の彼が深々と上体を曲げて挨拶した。上げられた額に銀の前髪が落ち込み、氷の彫刻を思わせる青白くも美しい容姿を露にする。目に映る蝋燭の焔が血の色を連想させた。そして、ポイントは、じじ専女子を彷彿とさせる目尻の皺や疲れた影だ。彼女らが彼の犬歯にかかろうと献血のごとく行列を作る情景が目に浮かぶ。今や男に対して女が余る時代だというのに待てども暮らせども俺のモテキが来ないのはきっとこんなおやじがいるからだろ。

「おっさん。教会に吸血鬼はよせよ。ロザリオが泣くだろ」

「なかなか興味深いレディであるな。申し遅れたが、私は吸血鬼ダイモーン。ご令嬢、名前を聞かせてもらえまいか」

背後に殺気を感じて振り返れば、シスター、金剛、大上くんのみんなが生徒たちに捕まっていた。同じ手を喰わされるとは。生徒は吸血鬼に操られている(※受け継がれし者)

おい。待てよ。


「止まっているはずの時間が……」

「ああ。申し訳ないけれど少しばかり私には窮屈だったものでね。あの魔法は解かせてもらったよ」

霊獣の魔力はそんな簡単に破れるものじゃないぞ。ましてや、大上くんはその愛らしい容姿とうらはらに学院で一に二を誇る召喚師だ。

「邪気は受け付けないんじゃないのかよ。神聖な聖堂が聞いてあきれるぜ」

俺は、右腕の神経を尖らせ血管を浮かび上がらせた。ところが、どういうわけかいつものように青い炎が巻き上がらない。指先から火打ち石ほどの火の粉が散るばかり。

そうか。あの像だ。どうやら吸血鬼の邪気が学院の乙女像の力を弱めているらしいぞ。乙女像は賢者の石ならぬこの世界の動力源だ。これでは十分な魔法も力技も使えない。となると思いつくのは……銀の弾丸!

これでは、ますます中村の思い通りだ。と言っても他に選択肢もないか。


やつまで直線十五メートル。俺は、吸血鬼を睨みつけたまま後方に声を張り上げた。

「シスター、俺のこと信じてくれるか」

「……信じます!」

彼女の声をきっかけにダッシュ。こうなりゃやけだ。吸血鬼との間合いを着実な足運びで縮めていく。くそったれ。いつもなら、一っ跳びで相手の懐に入れるってのによ。普通の女子中学生とは比べものにならない脚力であるもののやはり神がかりな運動神経が恋しい。今日のような決戦の日には特に。


俺は段差を飛び越え、祭壇に並ぶ金属製の燭台のひとつに目をつけた。台に蝋燭はなく針をむき出しに尖らせている。燭台の脚を掴み取り自分の手の甲に突き立てた。吸血鬼までの距離二百四十四センチメートル。高まる心拍数。大きく瞳孔を開いて。一気に貫通した燭台を引き抜く。傷口からやつの眼球目がけて血の鞭がしなった。

「おら、てめーの好物だ!」

やつが怯むと同時、俺は流れるようにミドルスタンスで右手の燭台をシスターの後手に向けてリリース。“う”と唸り声をさせてから太腿を的にされた男子生徒がシスターを解放して床を転げまわった。これぞ、秒殺人間ダーツボード。「シスター、打て!」

俺はすっと吸血鬼の後ろに回り込み女神の像を背にして奴を羽交い絞めにした。

これがこの世界の鎖だ!

「田中くん、あなた死ぬつもり!?」

「守り神を打つんだ。悪の根源は乙女の像! 魔法がこの世界の人間を縛っているんだ!」

シスターは銃を構えさっと狙いを定める。まるで無駄のない立ち振る舞いだ。日本舞踊でも鑑賞しているように俺はぼんやり彼女の一つ一つの動作に見惚れていた。

銀の玉は魔法の世界で唯一の真実。銃が火を吹く。秒速三百六十メートル。弾丸は俺の右肩をえぐり血しぶきを上げながらも迷わず石膏の乙女の額にヒビを刻んだ。


□ □ □


■BG0001:校舎が崩壊する音

■CG0001:校庭

中村(不敵な笑み)「待ちくたびれたよ。最終ステージ到達おめでとう」

田中「ここは。みんなは?」


動くたび、びりりと静電気。頭部に鈍痛。視野にモノクロ映像が混じった。

ここは校庭か。俺と中村以外、人の気配がない。シスターは。教会は。みんなは。中村の背後で校舎ががらがらと崩れていくのに、効果音が遅れて伝わるからかリアリティが感じられなかった。

そうかマザーコンピュータを破壊したことでグラフィックが乱れはじめたのか。

中村と目線の高さが合うことに気付いた。持ち上げる左手に風穴はなく、その手首の太さがゲームキャラクター美麗(みれい)アスカのものでないことを知る。


「もう僕を切るための魔法はないね」

「ガキの首へし折るくらい拳ひとつありゃ充分だろ。俺のゴキブリ根性なめんじゃねぇぞ」

「ああ、ほんとう。がっかりする。ぼくの知っているきみはどこへ行ってしまったのか。昔のきみはただ自由を愛して孤独を恐れなかった。いつから人に媚びるようになった。いつから生きることに理由が必要になった」

“馬鹿にしやがって”と言うが早いか俺は中村に猛進。拳を薄い頬肉にめり込ませていた。やつの身体は宙に投げ出され数メートル地面を擦って止まる。

「怖いもの知らずを知りたかったら猿とヨロシクやってな。人間にはなお前と違って限界があんだわ。大人になるたびに自分の器が見えてくるわけよ。つっても、ここからが重要。耳の穴かっぽじってよく聞いとけ。人生はな、限界が見えてからが本戦(ゲーム)開始(スタート)なんだよ。えらっそうに算盤で人生弾き出したつもりになってんじゃねえぞ、糞が!」

中村は口の中を切ったようで一筋の鮮血を顎に垂らしながら身体を起こし立ち上がった。

「暑苦しさは変わらないね」

「相変わらずのガキに言われたくねんだよ」


左右のステレオが狂い画面が大きく歪曲した。


◆文章:‘Actor1’,0,通常,下

:   :¥#おい、みんな消えるのか


音声が幾重にも割れて拡声する。それでも中村は眉ひとつ動かさず俺の疑問に答えた。


「どうだろう、三鈴さんが言うように回線を辿って生き延びる者もいるかもしれないだろうね」

「お前はこれから何をするつもりだ。一本のコンピュータゲームをプレイするために肉体を捨てたわけじゃないだろ」

「新世界の神となると言ったのを忘れたか。人類が生き残るにはきみの言う人間の限界を超えなければならないだろう。自分の欲望に勝つ者が勇者という哲学者がいたが、そもそも欲望などなければ闘う必要自体ないと思わないか。人間には無駄が多すぎる。人は進化するべきときにあるのだよ。ぼくは生産性のない人間を科学の力で救い出す」

「だから破天荒な俺の思考パターンをゲーム内で収集したかったとそういうわけか。だがな、たとえお前がこの先、凡人のIQを180に上げても、サイコパスの人格を聖母マリアに組み替えても、俺は畔上(くろかみ)のことを思い出す」

「潔癖症だな、ほんとうお似合いだよ」

「あん?」

「田中、ぼくたちはそれぞれ別の正義を磨いてきただけなのかもしれないな」


彼は、ズボンのポケットに手をねじ込み上方を見た。つられるように俺も視線を巡らせる。白。何もなく、ただ白い世界がどこまでも続く。キーボードのデリートを押し続けたように、崩壊した建物の瓦礫も、空も削除され、いつの間にか俺たちはただ白い箱の中に取り残されていた。


これが終末。


「中村、だったら勝負しないか。どちらの正義が人間を生かすか」

「ほう。面白いね。田中が現実世界を全クリしたころに最終決戦かな。で、何を持ってして勝者が決まる」

「んー。どれだけ人を笑わせられるか」

「漫才師か」


俺たちは笑った。今より少し子供で今より少し未来を夢見ていた頃に戻って。


彼は背を向けて俺から遠ざかる。

ブラウン管テレビの壊れる瞬間を思い出すようだ。

彼の後ろ姿は陽炎のように揺れ、ところどころノイズを走らせながら、さっと塵になって消え失せた。


残された景色は、ホワイトアウト。








def test_def

text=”カミサマを倒し未来を変えたくば現実世界を攻略しろ”

width =180

hight =WLH

x = (514 - width)/2

y = (416 - height)/2

self.contents.draw_text(x,y,width,height,text)

end

end









□ □ □



空調の音。薄目を開けて、天井が学院のものでないことに気付く。気になっていた違和感の正体は酸素マスクだ。入院費どうなるかな、そんなことを思ってまた目を閉じた。



中村……









俺は、集中治療室から個室に移り一年半を意識のないまま過ごした。目覚めてからは検査と半身麻痺のリハビリを受ける毎日である。今日も、俺は布団で上半身を起こして何をするでもなく窓の外に広がる昼下がりを眺めていた。

「田中くん! またリハビリさぼったらしいじゃないですか」

来たか。

荒々しい声と共にナース服の女性が病室のドアを引き開けた。

豊かな胸元にプレートの三鈴の文字が光っている。三鈴さんは当総合病院の看護師であり一か月前、偶然廊下で鉢合わせた。(ちなみに俺は彼女の担当外だ)八年ぶりに会う同級生の第一声が“シスター!!”であったにも関わらず彼女が聖母マリアの微笑みを見せたことを覚えている。もうすぐ二十八歳になろうという三鈴さんは、十九歳の頃と変わらない清い女性だった。きっと、それは彼女が子供を授かっても歳を重ねても衰えない内から湧き上がる美しさなのだと思う。今思い返せば、中村のヒロイン像とは専門学校時代の三鈴さんのことだったのかもしれない。


「ぼんやり夢の続きでも考えていたんでしょう?」

「えっ、まあ」

彼女は休憩時間のたび俺の個室に顔を出しては部屋の換気などしていく。休めばいいのに。

「私が拳銃使いだったそうですね」

「まあ」

三鈴さんは窓枠に片手をかけ寝癖のついた俺に笑いかける。

「強かったですか?」

「そりゃあ……」

彼女の眉がひくりと持ち上がったので、慌てておどけたふり。

「そういえば、俺に気があるのか聞き忘れたな。はは」

「もしかしたら、私分かるかもしれません」

優しい木漏れ日が彼女の頬を揺らし、しっかりとピン止めされた栗毛の一本一本を金糸に染めてゆく。俺は魂を抜かれたように途方もなく彼女を見つめていた。

「なして?」

「同じ血が流れているのでしょう?」

彼女は専門学校を卒業してすぐ世界的に珍しい大病で闘病生活を送った。(この体験が彼女を看護の世界に導いたのだが)もしシスターの三鈴さんの記録が流失したとしたら、この時期が怪しいと俺は睨んでいる。彼女は病院の管理体制こそ疑いはしなかったものの、俺が昏睡状態で見た夢の話を熱心に聞いてくれた。

「俺ね、また専門時代を彷彿とさせるバカ丸出しのシナリオを書こうと思う。片手でもタイピングはできるからね。完成したら誰よりきみに一番に読んで欲しい」

「もちろん」

たった四文字の言葉から滲み出る彼女の笑顔は同情や励ましからくるのではないとわかる。

俺の右肩の傷がずきりとうずいた。

お読みいただきありがとうございました。


性転換×コメディ×R15とくれば、大半の方がパンチラ属性の愛らしいラヴコメディを想像なさったのでは。

なんじゃこれは! あほじゃわ! と思いながら、お付き合いくださったあなたは天使です。

もう一度お礼をm(__)m


つくづく文章で伝えるというのは孤独で難しい作業ですね。


さて、作者はしばらく、公募用の小説と向き合うため”なろう”からは離れます。


また短編の投稿や落選した作品を分割して連載することがあるかと思いますので、偶然お目にかかれることを願ってお別れしましょう。


( ´Д`)ノ~バイバイ


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