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最終章 世界最期の日

 空の青に金の髪がたなびく。空気が美味しい。俺は吹きすさぶ風に顔をさらして目を細くした。ああ肌を焼く夏の紫外線。レジャーシートを伝ってアスファルトの熱を尻に感じる。汗で背中に貼りついた制服も今日はすがすがしいくらいだ。

 

 生きている。俺は、生きているぞ。


 感慨にふけっている美少女(俺)の隣で少年Aくんは弁当を広げる。彼は、まるでシャッターを切るように青空と金髪美少女を目に焼き付けようとしていた。手元の弁当をつつくときですら視線を下げず、ぽかーんと阿保面をこちらに見せている。憧れの人が横であんぱんにかぶりついていたら、たいていの人間はそうなるものかもしれない。だが、さすがに、そろそろ限界だ。これでは動物園のパンダではないか。俺が一度(ひとたび)くしゅんと、くしゃみをすれば、おお! と感激されるのは、勘弁こうむりたい。俺が抗議の思いで、じぃーと見つめ返すと彼は下を向いて頬を赤くした。なんとも複雑な気分である。ふたりの様子を見ていたシスターの三鈴さんがくすりと微笑み卵焼を口に運んだ。ちゃっかり輪の中に参加していた非モテの冴内までが目じりを下げる。


 あの血の惨劇が嘘のようだ。


 昼休みを迎えた校庭は生徒たちの元気な声で溢れていた。俺たちは、校舎の屋上にピクニック気分で弁当を囲って車座になっている。(俺は、相変わらず購買部で買った菓子パンだが)夏の屋上は特に生徒から人気がなかった。アスファルトを照り返す灼熱地獄に加え、影はタンクから伸びる小さなものとくれば、俺たちの貸し切りになることにも頷ける。わざわざ屋上を指定したのは、シスターだ。俺が好きな場所と知ってのことだろう。シスターは、事あるごとに俺の些細な変化に気付き世話を焼こうとする。


 今の気がかりは、やはり中村。カミサマとなった彼は、アレクシス王子に扮して俺を見張っていたわけだが、結局、王子はあの日を境に学院から姿を消してしまった。彼を覚えているものはなく、データまるごと消去されたことがうかがえる。


 まだ、この世界について確かめなければならないことがあるのだが、それ以前にひとつ、いや二つ俺を悩ませていることがあった。


 俺は、最後の一口を押し込み、あんぱんの入っていたビニール袋を握って立ち上がった。シスターのくぐもった表情。頼む、見逃してくれ。彼女が何か言葉を発する前に俺はその場を離れた。


 襟首に溜まった汗がじわりじわりと蒸発していく。蝉の声はここまで届かないようだ。


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