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第四章 クレイジー・アバウト・ユー(完結編)

※”俺が、田中”史上初、残酷表現あり

 金剛まみは、モンスターの前に両手を広げ、自らを閃光弾のごとく白光させて立ちふさがった。衝撃波が実験室全体を飲み込み、校舎の柱が大きく(しな)る。続いて、俺の踏み切りに合わせるように、教室の窓ガラスが一斉に砕け散り、夜風にガラスの破片を舞わせた。

 モンスターに支配された少年は痛覚を麻痺させられているらしい。金剛の放った魔法は、彼を傷つけるものではなかったが、あの恐怖心への鈍感さは、動物の本能さえ感じられない。彼は、爆風に驚く様子を見せたくらいで、身体に痛みがないことを知ると、瞼を閉じることなく充血した目を剥いて魔女の足もとを窺った。あいつは、影を探しているのだ。そもそも、実験室にたどり着いたのがふたつの強い魔力に導かれてのことだと考えれば、モンスターにとって、魔女を代表する金剛のパワーは、喉から手の出るような代物であるはず。

 モンスターが影に気を取られている隙に、俺は、彼女の背後から素早く大ジャンプをかました。ツインテ―ルの毛先が天井を撫でる。見下ろすと魔女と少年の旋毛(つむじ)が並んでいた。読み通りだ。モンスターの影が大きく伸びてうねりはじめている。海面に漂う燃料オイルを思い起こす動き。想像していたより、大胆で、こちらとしては助かった。


 よし、見切れたぞ。


 俺は、アドレナリンを全快にして、その興奮のまま、少年目がけて落下。竹刀を振りかぶって、速度を上げる。彼が俺を見上げるのが分かった。その血走る目の奥に、本来の少年を見た気がする。俺は、屋上で知った彼の笑みを取り返したい。いくら身体があっても、心に自由がなければ、それは人間ではないだろう。


 地面に膨れ広がった黒い固まりに竹刀の先革が到達する。俺は棒高跳びのように、衝撃を踵から逃がして、着地を決めた。振り返ると、竹刀は影に刺さったまま、青いエネルギーの光を放出して、少年ごとモンスターを包み込んでいる。まさしく金剛と俺の強力タッグ。

 少年Aの叫びが耳をつんざいた。その声が止むころには、影がぷつりと消え、彼は床に膝をついて、教室に再びの静寂が訪れた。

 金剛が、肩で息をしながら、少年に駆け寄り、彼の顔を覗き込んでいる。衰弱と身体の擦り傷は著しいものの、意識ははっきりとして、とくに心配することはないようだ。目を凝らしてみると、彼は、皮膚の張りを戻し、頬には赤みがさしていることがわかる。

 

 俺は、彼らを背にして、ガラスの抜け落ちた窓枠の手前にある存在に顔をしかめた。漆黒のローブをなびかせ、彼女がこちらを眺めている。畔上七子くろかみななこ。瓶底眼鏡の隠れ美人は、厚いレンズの裏に、はかなげな表情を隠している。それを想像するのは容易いこと。彼女は、ボブカットの髪をさっと耳にかけ、形のいい唇を動かした。

「仕事ですから」

「カミサマか?お前の自由を奪うものは、カミサマなのか」

「確かに死税庁を統治するのは、カミサマです。私どもに職を与え生かし殺すのも、カミサマです」

 次第に話を聞くのも辛くなっていく。それでも、今、目を背けられないのは、この女の子の運命が中村に重なって仕方がなかったからだ。

「お前の仕事は、俺の魂を刈ることか?」

「そうとも言えます。あなただけではありません。ストーリーを脅かす者には必ず命の期限がやってきます。その満了した魂を回収することが我々の職務です」

「ストーリー?」

「どう説明しましょうか。この世界には、ひとつのシナリオが存在します。十二年前、いち早くそれに気付いた者たちが集い、運命を変えるために、ある動力装置を開発しました。今、学院の守り神と呼ばれるものです。それからです。シナリオを巡り、ふたつの勢力が生まれました」

「そのひとつが、カミサマ」

 つまり中村のことだ。

「……カミサマは、シナリオの描く破滅を望んでおられます」

 ≪世界最期の日≫……はっと、俺の頭にゲームのタイトルが浮かんだ。

「待て! それは違うぞ」

 俺が軽く腕を伸ばしたときだった。

 彼女が、ぴくりと眉を痙攣させたのだ。どうやら、自分の体に異変を感じたらしい。あまりに痛烈な最期である。彼女は声をあげる間もなく、内部から暴発、肢体を撒き散らして粉砕した。花火のようにほとばしる赤、赤、赤。俺は、頭から肉片を被って、血液を全身に浴びた。鉄の味。口の中に畔上の体温が染み込んでゆく。まだ体が無くなったことに気づいていないのか、床に転がった臓器がどくんと脈を打った。少年の力ない悲鳴が聞こえる。

「中村、あいつだ……」

 神は、シナリオを遂行した。俺は、プリーツスカートのポケットに手を入れ銀の弾丸を握る。これは、俺への挑戦だ。

 赤い海に佇み、血の滴るアルミの窓枠から空の月を見上げた。次第に輪郭が滲むのは、目に血が溜まりはじめたから。


――中村を切る。切らなければならない。


拳を強く握りしめた。

お読みくださりありがとうございます。

ちょうど、ゲームでいうところの【デスクを交換してください】のあたりです(笑)これから、いよいよ最終章の突入。


私は、もう何と思われようとも、誰一人読み手がなくなろうとも書きます、意地でも書ききってやります。


さて活動報告にも記しました通り、次回から不定期更新に入ります。週1回以上の更新が目標。


作者にも、迷いはない。マウスをがっつり握って心に誓うのであった。

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