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第四章 クレイジー・アバウト・ユー(九)

暗がりの教室は、月の光が薄いベールのように広がり、その全貌を見せていた。床には、砕け散った実験器具や爆風で飛ばされた椅子の残骸が無造作に散らばっている。モンスターと化した少年がその中心でこちらに狙いを定めて構えていた。今にも飛びかかってくる勢いだ。俺と金剛まみは、前方の少年の呼吸を肌で読み取り、相手の出方を見ている。まさに一触即発の張りつめた空気。息苦しいくらいだ。


「あなたも隙をつかれたのね」


金剛は、あいつから目を離さず話す。俺と呼吸を合わせるためもあるのだろう。今となっては、お互い一人であのモンスターを相手にする自信がなかった。それにしても、“あなたも”ということは、金剛も俺と同じように己の精神世界に閉じ込められていたらしい。


「よくモンスターの術から逃れることができたな」


俺は敵の気配に気づくことすら出来なかった。


「私には、すでに魔法がかかっていたから」


ああ。あの惚れられ薬のことか。なるほど、二重に術を施せば、その分、効果も半減する。


「闇の中であなたのことを思い出したのよ」


おっ俺の? なぜか蒸気と共に冷や汗。


「ええ、この魔法を解かないまま、消滅させられてたまりますか」


ツインテールのおじさんとしては、ほっと胸をなでおろす気持ちのほかに、何処か、もの悲しさもある。気を取り直して、そろそろ目の前に直面した問題を解決しようか。


「金剛、もう一度あの光を出せるか。今、俺のところに飛び込んできたときの、あの魔法だ」


「その言い方、気に入らないわ。まるで、私が好き好んであなたの胸にダイブしたように聞こえるじゃない!」


ああ、あれは見事な頭突きだったな。俺は、何も聞こえなかったことにして、そのまま右腕を頭上に掲げ、手の中に青い稲妻を走らせた。

 金剛も俺の意図を即座にくみ取り、うちに気をため込んでいる。


この敵、最大の特徴は、実体を持たないことだ。人間の心の闇を、影から影に移り行くヤドカリ型。たとえ器になっている人間を攻撃しても本体にダメージを与えることはできない。もし、このモンスターを捕らえるなら、憑りついている人間から離れる一瞬を狙うしかないだろう。


俺は、一本に納まろうとする青い光を両手で握りなおす。それが竹刀であることがわかるくらいになって、切っ先を敵に向けた。


「金剛、ぬかるなよ」


「言われなくても」


彼女は、瞬時にボルテージを上げ、光をまとって、少年Aに走り出す。

 捲りあがる白衣の裾から、細い腿を見せ、彼女はモンスターの目前で魔法を発動した。


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