第一章 死神からの挑戦状(解決編)
「なんだ!どういうことだ」
『あんさんの実力が認められたゆーことですわ。魂を天秤にかけたとでも言いましょか』
「ふざけるなよ、お前仲間だろ。なに涼しい顔してんだ」
『あの子は、何の能力も持たへん、ただの人間の孤児や。あんたと、ちごうて自分の身の程をよーわきまえとるわ』
(くそっ)
俺は、片方だけの下駄をかなぐりすて、足の指でアスファルトを掴かむように駆け出した。
螺旋状に吹き上がる炎を見定めて、踏み込む二歩手前からジャンプの体制に入る。跳べ。ぐっと落としていた腰を絶妙のタイミングで解放する。俺の身体は、追い風に乗って空高く宙に投げ出された。
『あんさん、あほなことせんとき。これは運命なんや。誰かが死なんとあかん。せやなかったら、世界のシナリオが変わってまう』
化け猫の叫びは、突風にかき消され、どこにも届くことはなかった。
☆☆☆
鼻先に外炎のねじれる光の波を捉える。 顔に火の粉を浴びて、確信した。
予想通り、これは、ただの幻覚だ!
俺は、放物線上の頂点で、目一杯に背を反らせて、竹刀を振り下ろした。
炎は二つに割れて吹き去り、十字架にかけられた女の姿が現れた。
重力に従い地上を意識したとき、俺は、自分の置かれている状況を目の当たりにする。十字架の金属面に白光体が写り込んでいたのだ。背後に雷の刃が迫っている。
(くそっ。どいつも、こいつも……)
「俺がシナリオを書き換えるってんだろうが!!!!」
落下の圧を感じながら、上体を返して、右腕に竹刀の鋒を乗せた。天上に照準を合わせて青い光を打ち放つ。
光線は、雲を貫き、学校上空で雷と衝突、閃光と爆音を撒き散らしたのち、爆発、消滅した。
大空は、何事もなかったかのように澄み渡り、夕焼けに一番星を輝かせている。
俺はというと、そのまま、十字架から解かれたばかりの女の上に背中から墜落した。
俺「んが」
女「あで」
彼女は、俺の下敷きになって、バタバタもがいている。
ゴキブリだ。
「悪い。大丈夫か」
フードの中を覗き混んで、小さな衝撃が走った。眼鏡がすっ跳んでしまったようで、はじめて彼女の素顔を目撃することになったのだ。
切れ長の目にすっと通った鼻筋、フェイスラインで揃えられた黒々と美しいボブカット。歳は、高校生くらいだろうか。やっぱり、美人だったな。
「お前、俺を見くびるんじゃないぞ。選択肢なら俺が作ってやる。この世界で、命を選ばせるような真似は俺がさせねぇよ」
黒髪の女の子は、まだ幼さの残る目元から大粒の涙をホロホロ流した。
左目の下の涙ボクロが彼女の今までの人生を体現しているように思えた。




