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プロローグ
「田中ちゃん、ぼく、夢のあるラヴストーリー書いてきてって言ったよね」
うぜぇ。
「だから、これ持ってきましたけど?」
こっちは、コンビニの夜勤明けで寝てないんだよ。
「これじゃ、ホラーでしょ。田中ちゃん、何年シナリオ書きしてんの?しっかりしてよ。200キロ越えの女とイケメンのベッドシーン?乙ゲーのどこに使う余地あるの?想像するだけで吐き気がするね」
池田さんは、何か思い出したように、口もとを押さえた。
「もう、帰っていいや」
☆☆☆
俺は、茶封筒を脇に抱え、高層ビルに背を向けて立っていた。
ちっ。池田。オフィスでただ口を開けて原稿を待ってるような糞に何がわかるってんだ。糞すぎて涙が出てくるぜ。
ああ、地球が壊れるなら、今にしてくれ。ミサイルを落とすなら、今にしてくれ。
気づけば、30手前で童貞フリーター。夢中で原稿を書いているうちに、数少ないダチもいなくなっていた。
スクランブル交差点に立ち止まって、空を見る。真っ直ぐ伸びる迷いのない青。
なあ。夢ってなんだよ。
そのとき。溢れる人並みから次々と悲鳴が沸き起こった。
トラックのクラクション音が近づいている。