少年、勇者になる。
「痛っ・・・」
思わず僕はそう言葉を漏らした。
頭は何かに殴られたかのようにガンガンし、まぶたが以上なまでに重たく、開けられない。
暗い視界の中で、僕は体をよじった。
「なに・・・?
僕、なんで痛いんだっけぇ・・・」
働かない頭で必死に考える。
さっきまで、僕は何をしていた?
パソコンのデータをクリックして・・・それから?
そんな思考を巡らせていた、その時。
「あ、もしかして起きました?」
明るく高い声が僕の耳についた。
瞬間、痛みは無くなり、まぶたもスウッと軽くなっていく。
僕は目を開き、ぼやけた視界に焦点をあわせた。
まずはじめに見えたのは、木で出来た天井。明らかに自分の家ではないその光景に驚き、慌てて飛び起きる。
続いて起き上がった僕の目に映ったのは、白いワンピース、さらにサラサラの黒い髪、そして、
青い羽をした妖精の様なモノの姿だった。
「あ、起きましたか!じゃあ早速手続きを・・・ってえええ!?なんでもう一回寝ようとしてるんですかー!?起きて!起ーきーてー!」
妖精っぽいモノがなにか言っているが、僕は無視して、寝かされていた固い床に頭をつける。
これはきっと夢だ。妖精なんてこの科学社会には存在しないのだから。
いけない、16歳にもなってこんな夢を見るとは思ってもみなかった。現実に戻らなければいけないなぁ、僕。
「夢じゃないですー!現実!現実!ほら、起きてください!
貴方は勇者に選ばれたのですから!」
妖精らしきそれが僕の頭をペチリと叩く。手は百円玉サイズなのにも関わらず、そこそこのダメージがあった。
ダメージが、あったのだ。
「いたい・・・って、もしかして
ゆめじゃない・・・?」
さっきからそう言ってるじゃないですか!と妖精みたいなのは頬を膨らませる。が、何かを思い出したような顔をして、僕に言った。
「じゃあまぁ起きたということで、勇者になるための手続きをして頂きますね!」
「ゆ・・・う、しゃ?って何・・・?」
すると妖精のようなもの(もう妖精でいいや!)が待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。
「いい質問ですね。では教えて差し上げましょう!
今この国、アニディアは魔物に狙われておりまして、どうしようかと国王様が困っていらっしゃったのです。
そこである魔術師が異世界から戦えそうな人物を呼ぶことを提案しまして、特定の人物の家に転送魔法を振り撒きました。」
じゃあ、僕がクリックしたあのデータは、その転送魔法だったのか?と僕は少し考えて、まだ話を続ける妖精にもう一度目を向けた。
妖精はさらに喋る。
「しかし残念なことに、勇者を家に戻すための『帰還プログラム』という魔法道具が、魔物を従えた魔王に盗られてしまったのです!
というわけで貴方には魔王を倒し、魔法道具を取り返す勇者になっていただいたと、そういう訳です。」
「うん。だいたいは理解した。けど僕は明らかに戦えそうな人物ではないよね?」
部活も入っていない、運動も嫌い。そんな僕が何故勇者になってしまったのだろう。
僕がそう訪ねると、妖精は少し悩んだ。
「うーん・・・?
魔力とかが高いのなら、運動は関係ないですよね・・・
ステータスを見てみるのはいかがですか?」
「ステータス?」
「はい。じゃあ目を瞑って、『ステータス確認』と唱えていただけますか?」
僕は言われた通り目を瞑ると、小さく呟いた。
「えーと、『ステータス確認』。」
すると、目の前に青い画面が広がり、いろいろな数字が映し出された。
「おおーっ!これがステータス?
ゲームみたいだな」
「そうですねー!あ、ステータスは常人の数値を『10』としての表示です。つまり普通の人ならステータスが全部10なんですよ!」
「ふぅん・・・さぁ、僕はどうかな?」
期待に胸を膨らませつつ、画面を上から見ていく。
「攻撃が21、防御が20、すばやさが35、魔力が23・・・あんまり良くないですね、どれもザコ魔物レベルです。」
「ええーっ」
じゃあ僕は何故呼ばれたんだ!と言おうとした瞬間、妖精が凍り付いたように動かなくなった。
「ど、どうしたの!?」
「っ・・・う、運6523000・・・っ!」
数値を見て嬉しそうに震える妖精とは反対に僕は少し悲しくなった。
僕はどうやら、運だけの勇者になってしまったようだった。