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[IF]例えば、王様が

問題作、第一弾(笑)

本文中のAttentionをよく読んでから、内容に取り掛かられてくださいね。

「面を上げよ、ディアナ・クレスター」


王の命に、ディアナはゆっくりと身体を起こし、そして――。


「……言われているほど、悪い女には見えんな」


目を覗き込まれてそんなことを言われ、合わせた目が見事に点になった。






――Attention!! このお話は、「もしもジュークがディアナにベタ惚れしたら?」という設定のもと成り立つIFストーリーです。王様が本編とはまるで違うキャラクターに変貌する恐れがありますので、苦手な方はご注意を!!――






エルグランド王国にて、『王国の悪を牛耳る、裏社会の帝王』と呼ばれ、恐れられている存在、クレスター伯爵家。その末娘が側室の一人として後宮に上がったのは、つい昨日のこと。

――明けて、翌日。後宮及び外宮は、しっちゃかめっちゃか大騒ぎだった。


「陛下! 昨晩、『紅薔薇様』のもとに留まられたとはまことですか?」

「あぁ。今晩も行く約束をしてきた」


駆け込んできた重臣一同は、まさに絶句。後宮にクレスター家の娘を入れたところで、正義感に厚い国王のこと、精々嫌いまくって放置だろうと踏んでいたのに、この展開は一体何だと叫びたくなる。


「へ、陛下……。お分かりかとは存じますが、彼女はかの悪名高き『クレスター家』の令嬢ですぞ?」

「だから何だ? 実家がどれほど悪かろうと、紅薔薇には関係なかろう」

「い、いやですが、彼女自身も『咲き誇る氷炎の薔薇姫』と呼ばれ……」

「その話は以前にも聞いたが……噂とは存外、あてにならぬものだな」


現国王、ジューク・ド・レイル・エルグランドは、執務室に座ったまま、しみじみ頷いた。


「なかなかに礼儀正しく、心配りのできる、優れた女性であると感じたぞ。最近忙しくて寝る暇もないと溢したら、安眠できるという薬草茶を淹れてくれてな。おかげで今朝は、すこぶる気分がいい」

「陛下! 騙されてはなりません、それが彼女の手口なのです!」

「噂では、『氷炎の薔薇姫』とは、男を誘惑し惑わす女だそうだが。彼女は別に、私を誘惑しようとはしなかったぞ?」

「しかし、陛下を眠らせ、前後不覚の状態に!」

「あぁ、そうなった私を案じ、一晩中寝ずの番をしてくれていたようだ。朝に起きたとき、目が少し赤かったからな。疲れているのにあまり付き合わせるのもどうかと思い、早めに切り上げてきたが。……今はどうしているかな、ゆっくり休めていると良いのだか」


重臣たちは戦慄した。この国王は子どもの頃から素直な性格だったが、敵にまでその気性を発揮されては堪らない。彼女が国王に『安眠茶』とやらを淹れたのは、十中八九、王を一晩部屋に留まらせるため。親切心からなどでは決してない。それが証拠に、今後宮では、「紅薔薇様が陛下から寵愛を受けた」などという噂が広がっているというではないか。

しかし、今の王には何を言っても無駄だ。素直な彼は同時に、思い込んだら一直線で頑固な一面も併せ持っている。『紅薔薇』の親切心を信じ切っている彼に、思い違いを理解してもらうのは難しい。

この国はまさか、クレスター家のいいように操られてしまうのか。未来に多大な不安を感じながら、重臣たちは退室した。






一方後宮では、昨晩のことが信じられないディアナが、リタと寝る間も惜しんで今後の対策を練っていた。


「なんていうか、物事の捉え方が素直すぎるのよね。この顔とこの声でこれまで生きてきて、初対面から『悪そうに見えない』って言われたのは、自慢じゃないけど初めてよ」

「ディアナ様のお言葉を、そのまま素直に受け止められた、ということですか。余計な副音声一切聞き取らずに」

「そういうことになるのかしらね。何だろう、この、嬉しいはずなのに素直に喜べない感じ……」


あそこまで純粋に他人と接してきて、よくこれまで『王』としてやってこられたものだ。ディアナの見た目にすら無頓着で『悪そうに見えない』と言うのなら、善人顔の悪人が口先だけで彼を惑わすことなど、簡単にできてしまうだろう。問題らしい問題が起こっていないことが、既に奇跡だ。


「今宵もいらっしゃる、ようなことを仰っていましたよね、そういえば」

「来るな! って口をついて出そうになったわよ。これまで後宮に関心なかった陛下に、二日も続けて通ってこられたら、嫌な噂が立つじゃない」


実は既に立っているのだが、さすがにそこまでは知らないディアナだ。リタは主より多少現実が見えていたので、冷静に返す。


「手遅れな気もしますけど。去り際の陛下のお言葉を聞いて、今、このお部屋の王宮侍女の方々が、張り切って準備なさっていますから」

「聞いてないんだけどそれ!」

「聞かれませんでしたし。それに侍女の方々がしていることは、ごく当たり前のことですよ? 国王陛下がいらっしゃると予め分かっているのに、何も用意しない方がまずいでしょう」

「リタあなた、どっちの味方なの?」

「もちろん、ディアナ様です。しかし私としては、噂にも何にも惑わされず、ただ『ディアナ』様を見てくださったお方を、無下にする必要もないと思います」


ずばりと言われ、ディアナはうっ、と詰まった。そう――喜ばしいことではあるのだ、それそのものは。

しかし。何事にも、限度というものがある。


「あの性格で王様とか、不安しか残らない……」

「それでも、あの方がこの国の国王陛下ですからね。ディアナ様、国王陛下と仲良くなれば、案外するりと後宮から出られるかもしれませんよ」

「あぁなるほど、そういう手もあったわね。男の人に甘えておねだりとか、わたくしには縁遠い手段だったから、すっかり忘れていたわ」


ちなみに、そういう手管は今も苦手だ。かくなる上は、国王陛下と友情を結んで、穏便に後宮を去るしかない。


「――失礼いたします、紅薔薇様。茶会のご準備を、させて頂きたいのですが」


王宮侍女の声がする。ディアナは、覚悟を決めて頷いた。






片や政務を終え、片やお茶会で精神力の限界を試された、そんな二人は、日が暮れた後再び、『紅薔薇の間』にて顔を合わせていた。


「昨日よく眠れたおかげで、今日の政務ははかどった。礼を言おう」

「そのような……。わたくしは当然のことをしたのみにございます」


来るなと言っておけば良かった。ディアナは真面目に後悔していた。『名付きの間』の側室方が集まるお茶会で、「陛下が紅薔薇を寵愛している」という噂が広まっていると教えられ、しかもそのせいで『牡丹様』に睨まれて、面倒なことになったと嫌でも実感せざるを得なかったのだ。

これがただの噂なら問題はない。ディアナは笑ってかわせばいいし、逆にその噂がどう流れているか見極めることで、後宮の人間関係を把握することだってできる。

――が。二日続けて王に公式訪問なぞされてしまっては、噂の行方を見守るどころか、最悪消火活動に乗り出す羽目にすらなってしまうではないか。火のないところに煙は立たぬというが、今まさに、ぶすぶす燃えている火種に油を注ぎに来た馬鹿がいる。この油がどの程度の威力で火種を燃やすのか、正直予測がつかない。


「そんなにあのお茶が気に入られたのですか? ならば、作り方をお教えしましょうか」

「いや、教えてもらったところで、私に茶が淹れられるとは思わんからな。欲しくなったらここに来れば良いのだから、私自身が知っておくこともなかろう」


……今、何か妙な言葉を聞いた。


「今日は、昨夜あまり話せなかった分、そなたともっと話がしたかったのだが……。そういえば、そなたはあれから休めたか?」

「あれから……と仰いますと?」

「今朝、私を見送ってくれた後だ。昨夜は一晩中ついていてくれたのだろう? 身体は平気か? 目は……まだ少し赤いな」


前触れなしに至近距離に顔を詰められて、ディアナは思わず、相手が誰であるかを忘れて身体を引いていた。その様子に、国王が笑う。


「そう警戒することもあるまい? そなたは私の側室だ。……それとも、これが『氷炎の薔薇姫』の手練手管、なのか?」


思ってもみない台詞に、ディアナの瞳が凍りつく。彼女が何か言う前に、王がそっと、ディアナの頬に触れてきた。


「悪かった、冗談だ。そんな顔を、するな」


そんな顔、と言われても。自分がどんな顔をしているか、今のディアナには分からなかった。こんなにも近くで、こんな雰囲気で、男性と触れ合ったことなどない。覗き込んでくるアイスブルーの瞳は嫌いではないが、頬に感じる温もりは不快ではないが、予想をはるかに越えた状況に、ディアナの頭は恐慌(パニック)寸前だった。

しばらくの時間が、過ぎた後。王はふと、ディアナから手を離すと、立ち上がった。


「――休むか」

「え? えと、あの、はい」


何がどうなっているのかまるで分からないものの、知らない気配が遠ざかり、ディアナは心の底から安堵していた。こくりと頷き、王が寝台に入るのを見届けようと後に続く。

……と、寝台の前までやって来た彼は、くるりとこちらを振り返った。


「何をしている? 早く入れ」

「え? いえ、陛下に入って頂かなくては」

「それでは、またそなたが寝ずの番をするだろう。それは許さん、ここで寝ろ」

「しかしそれでは、陛下に休んで頂く場所がなくなります」

「心配するな、俺もここで眠る。……そなたの隣でな」


彼の発言に、顔が強ばったのが鏡を見なくても分かった。寝台に、二人でと、それはつまり。

パニック再びかと思われたが、王は笑って首を横に振る。


「何もしない。だが、この部屋に寝台は一つしかないだろう? 二人で休もうと思ったら、同じ寝台を使うしかない。……そなたは、俺と寝台を共用するのは嫌か?」


ここで嫌と答えてしまうのが不敬であることくらいは、さすがのディアナにも飲み込める。ジュークの様子は本当にただ休みたいだけのように見えて、昨日徹夜したディアナとて、眠いのは同じだ。


「――分かりました。では、お言葉に甘えまして」


ルームシューズを脱いで、ディアナは寝台に潜り込んだ。意識して奥の方に収まると、ついで入ってきた国王に腕を引かれ、中程まで戻される。


「そんなに寄らなくても、この寝台は広い。邪魔にはならん」

「……みたい、ですね」


大きい上にふかふかなので、うっかりすると隣に人がいると忘れてしまいそうだ。

国王より先に眠るわけにはいかない、と思いつつ、昨日からの疲れが限界だったディアナはふかふかに誘われるように、夢の世界へと旅立っていった――。




隣で眠る彼女が深い眠りに落ちたのを確かめて、ジュークはそうっと、彼女の肢体を腕の中に抱き込んだ。引き締まっているのに柔らかいその身体に貪りつきたい衝動にかられつつ、怯えていた彼女を思い出してぐっと耐える。

昨日、噂とは裏腹にそこまで悪そうに見えなかった彼女に興味を抱き、寝ずの番をしてくれた彼女が心配でもあり、再びこの部屋まで足を運んだ。初めて間近で見た彼女は、言われているような『悪女』とは程遠く、むしろ――。


(無垢で、臆病な、可愛い娘だ)


男を知らないまっさらな反応が可愛く思え、ついいたずら心を出して、本気で後悔した。『氷炎の薔薇姫』と呼ばれた瞬間、晴れた日の穏やかな海だった瞳が、突然嵐の色に染まって。……傷つけてしまったと、悟った。

慰めようと触れた手を振り払うこともなく、ただ未知への恐怖に怯えていた少女を、ジュークはもう、『悪女』だとは思えなかった。


守りたいと、思った。彼女自身は悪女でもなんでもないのに、謂れのない風評によって貶められ、傷付いている彼女のことを。

手離せないと、思った。怯えながらも真っ直ぐに『自分』を見てくれる、澄みきった海の眼差しを。

――彼女の全てが、欲しいと思った。身体も、心も、何もかも。


……あぁ、これが。


『ジューク。本当に、心の底から望むものは。決して手離してはいけませんよ。それは、あなたが『あなた』であるために、必要な『何か』なのですから』


優しい声を思い出し、腕の中の温もりに幸福を感じながら、ジュークは静かに、眠りについた。





感想欄のツッコミの嵐に、お祭り時はどうしようかと思いました(笑)

「誰コイツ?」ってなりますよねー……。


gomajuurouさま、リクエストありがとうございました!


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