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[IF]例えばこんな愛され話


な、何とかヤンデレエドの呪いを振り切りましたぞ……!

ノーマルな恋愛がお好みの方は、くれぐれも閲覧注意です(笑)





Attention!


このお話は、「ディアナに惚れちゃった王様とシェイラさんが一堂に会したらどうなるか」という、前回のIFを踏まえたもしも話です。

――大丈夫かとは思いますが、「本編以外は認めぬ!」な方は、閲覧注意くださいませ。







――園遊会の準備のために、目立たない侍女服姿で後宮の庭を廻り、各地点の確認などをしていたディアナは、奥の方から聞こえてきた声に足を止めた。


「……だろう。それは――」

「あまり――くださいませ。……!」


一組の男女が、言い争っているような声。ここが『後宮』でなければ、ついでにそれぞれの声に聞き覚えがなければ、痴話喧嘩お疲れさまですと回れ右するところだが。


(この声……シェイラと、陛下?)


夏以降、少しずつ後宮に目を向けるようになったジューク王は、散策の途中でシェイラと出会い、妙に気が合ったらしく、親しくするようになっていた。彼はシェイラのことを「忌憚なく言葉を交わせる、稀有な存在だ」と語り、身分は違えど友情を築いていたつもりらしいが、周囲からは当然そんな風には見られない。

シェイラは『寵姫』として有名になってしまい、後宮の勢力争いに否応なく巻き込まれそうになった。ディアナは、まずは正体を隠してシェイラと接触、友人『ディー』の立ち位置を確保しながら、同時に『紅薔薇』として動き、シェイラを守ろうとした。――その過程で、何故かシェイラに『ディー』イコール『紅薔薇』とバレてしまい、それ以降、どういうわけかシェイラは『寵姫』の噂を利用しながらディアナを助けてくれるようになっている。


そんな『国王』と『寵姫』が、こんな人気のない場所で、いったい何をやっているのか。漏れ聞こえてくる声は互いに刺々しく、お世辞にも穏やかとは言い難い。あの二人が喧嘩とは、珍しいこともあるものだ。

そしてシェイラはともかく、ジュークにはこんなところで油を売っている暇などないはずだ。ここは仲裁して、一刻も早くジュークをアルフォードに引き渡す必要があるだろう。


「――いくら人気のない場所とはいえ、不用心ですよ、二人とも」


誰もいないと思っていたのに、突然声が響いたからだろう。言い争っていた二人はびくりと肩を跳ね上げ、こちらを向く。柱の影からひょっこり顔を出したディアナを見て、ジュークがあからさまにほっとした顔になった。


「なんだ、ディアナか。あまり驚かせるな」

「わたくしも、できればこんな場面には遭遇したくはありませんでしたけれど」

「ちっ、違うぞ! ディアナに隠れて、こそこそシェイラと会っていたわけではないからな。ここでシェイラに会ったのは、単なる偶然だ!」

「……はぁ」


……そうか。よく考えなくともこの場面はもしかしたら、「夫の二股の現場に出くわした妻」に合致するのか。

ちなみにジュークは、相当に趣味が変わっているらしく、ディアナの入宮初日に言葉を交わして以来、頻繁に『紅薔薇の間』へ渡ってくる。「目立ちたくないから、通うならこっそり通え」と言い含めたお陰で、その事実は今のところ、ごく限られた人間しか知らないが。

――蛇足ながら説明しておくと、ディアナが王との仲を噂されていないのに、シェイラが『寵姫』と知れ渡っているのは、シェイラと仲良くなった王が昼間にシェイラを『公式訪問』したからだ。これまで公的に側室の部屋を訪れることなどほとんどなかった王の突然の行動に、後宮がひっくり返る騒ぎになったのは言うまでもないことである。


「ディー、まさかそんな勘違い、あなたはしていないでしょう?」


可憐な秋の草花を胸元に抱えた、存在そのものが可憐なシェイラが、どこか不機嫌そうな面持ちで尋ねてきた。『陛下二股疑惑』なんて考えてすらいなかったディアナは、素直に頷く。


「二人の関係、私はいちおう知っているつもり、だしねぇ。まぁ、陛下の興味が私からシェイラに移っても、私は全然困らないけど」

「何を言うか、ディアナ!」

「私もそんなのお断り……と言いたいけれど。それでディーの負担が減るなら、その方向性も考えるべきなのかしら」

「シェイラ……『寵姫』に向く悪意を引き受けようって言ってくれる、その気持ちは本当に嬉しいけれど。それだとあなたが辛くなるばかりでしょう? 私なら平気だから、無理だけはしないで」

「それ、全部私の台詞よ。今のディーは、『紅薔薇』として後宮の全てを取り仕切ってる。それだけでも大変なのに、園遊会なんて行事が無理矢理ねじ込まれたせいで、寝る暇もないくらい忙しいじゃない。この上さらに下らない嫉妬の的なんかにされたら、冗談抜きに潰れちゃうわ」


話しながら近寄ってきたシェイラは、ぎゅうっとディアナに抱きついて、切々と訴えた。


「私、苦しんでいるディーなんて、見たくないの」

「シェイラ……ありがとう。でも、悪意を向けられるって、本当に辛いことだから」

「平気よ。私が本物の『寵姫』で、陛下のことをお慕いしているような、そんな状況だったら、罪悪感と申し訳なさで小さくなっちゃうかもしれないけれど、こんなのただのお芝居だもの。むしろ、騙されて嫌がらせしに来る人を、しっかり確認しておくから」


私はディーの、一番の味方だからね。

そう言って笑うシェイラは、掛け値なしに美しかった。


「……俺を、無視しないでほしいものだが」

「あら陛下、まだいらしたのですか。早くお帰りください、スウォン団長様がそろそろ痺れを切らされますよ」

「体よく追い払おうとするな!」

「いえ陛下、シェイラの言う通りですよ? 早く政務にお戻りください」


そういえば、この人を仕事に戻すのが、ディアナの第一目標だった。


「ディアナ、そなたまで。……俺は、そなたのために、休憩時間を使って園遊会に使えそうな花を探そうと」

「お気持ちだけ、ありがたくいただきます」


相変わらず、定期的に軌道修正してやらないと、頑張る方向がずれていく国王陛下である。


「花を探すのは誰でもできますが、園遊会関連の最終決裁を降ろすのは、陛下にしかおできになりません。午前中にそちらへ届けた相談書と決裁書、目を通してくださいました?」

「う、それ、は……」

「決裁はともかく、相談の内容には速やかにお答えいただかなければ、それこそ園遊会の準備が滞るのですけれど」

「そ、そうだな……」


しかし、何をどう間違って、「花を摘みに行く」なんて乙女な方向に突っ走ったのか。確かに園遊会に使えそうな草花を探してはいたが。

首を捻るディアナにくっつきながら、シェイラが、滅多に見せない冷たい眼差しで、ジュークを睨んでいた。


「ほら、ディーもそう言ったでしょう? だから申し上げたのです、陛下がこんなところでサボるだけ無駄だと」

「へ? シェイラ、そんなこと言ったの?」

「どうせ、疲れた女の子は落としやすいとか、ディーみたいなタイプは以外と素朴な贈り物に弱いとか、そういう余計な助言を参考になさったのでしょうけれど。そもそもディーを疲れさせているのは、陛下ご自身ではありませんか」

「そ、そこまで言うか……!」

「私、怒っているのです。園遊会なんて行事を急に決めて、その準備を全部ディーに押し付けるなんて!」


おっと、言い争いが再燃しそうな雰囲気だ。ディアナは素早く、シェイラの頭を撫でた。


「ありがとう、シェイラ、私のために怒ってくれて。無理しないようにするから、ほら、落ち着いて?」

「……えぇ、ごめんなさい、ディー」

「シェイラが謝ることなんて何にもないわ」


微笑んだディアナにシェイラは、ずっと抱えていた花束を差し出す。


「ディー、園遊会のテーブル回りに苦戦しているって聞いたから……地面に生えてるだけだと見過ごされてしまいがちだけれど、近くで見たら華やかな花をいくつか、集めてみたの。活ける花瓶を工夫すれば、テーブルの上が明るくなるんじゃないかしら?」

「本当!? わぁ、綺麗な花がいっぱい……これ、ダリアの変種かしら? 変わった形ね」

「こっちはコスモスの仲間なのですって。異国では秋の花といえばこれで、食器や衣類に描かれるデザインとしてよく用いられるって、以前お父様がお話ししてくださったわ」

「ありがとうシェイラ、これでテーブルのイメージが湧いてきたわ! 早速花瓶の調達と、並べるお菓子についても相談しなきゃ。あ、そうだ陛下……」


思い付いたアイディアを、とりあえず伝えるだけは伝えておこうと、ディアナは彼の方を向いた、が。


「あれ、陛下は?」

「ちょっと前に、とぼとぼお帰りになったわよ? お仕事サボっていることに、ようやく危機感を持たれたのではないかしら」

「そう。なら良いのだけれど」


彼が仕事に戻ってくれたなら、ディアナに否やがあるはずがない。

テーブルの案を部屋に帰ったらまとめないと、と脳内メモに書き込んでいるディアナに、シェイラがにっこり微笑みかけた。


「ね、ディー。まだ時間ある?」

「えぇと……うん。もうちょっとは大丈夫かな」

「なら、この辺り見て回らない? さっきの花束は別の場所で摘んだもので、この辺りはまだ見ていないの」

「えぇ、もちろん!」


爽やかな風が吹き抜ける中、少女たちは笑い合った――。






……その日、日付が変わる間際にこっそり訪ねてきたジュークは、比喩でなくやつれていた。


「あの後、執務がぎゅうぎゅうに詰められていた……」

「当然ではありませんか。休んだら休んだ分、仕事は増えるものです」

「にこりと笑って次の書類を渡してくるアルフォードが悪魔に見えたぞ」

「お言葉ですが、団長様は陛下に、相当甘い方に入りますよ」


ソファに座り、ひたすらうだうだ言うジュークを、ディアナはほいほいあやす。最初のうちは近すぎる距離に戸惑いもしたが、今となっては慣れたものだ。

ディアナにとって、ソファーで座って話すとは机を囲んで向かい合うことを指すが、ジュークの常識は違うらしく、彼は最初からディアナの隣を譲ろうとしない。部屋に二人っきりでも、机の向こう側が広々空いていても、だ。まぁ、そこは人それぞれだろうと解釈したディアナは、ジュークのしたいようにしてもらっている。


今日は特に疲れたらしく、来て座るなりソファーに横になったジュークに、ディアナは成り行き上膝を貸して、だらだら話に付き合っていた。これも最初は「えええぇ?」となったが、「人間親しくなればこういうこともある」と言われては、まぁそうなのかと頷くしかない。

ふと、会話が途切れたなぁと気付いてジュークに視線を落とすと、彼は思いの外真面目な顔で、ディアナを眺めていた。


「……どう、なさいました?」

「――昼間の、話だが」


伸ばされた手が、ディアナの頬に触れる。きょとんと首を傾げた彼女に、ジュークは苦笑に近い笑いを向けた。


「そなたへの嫌がらせで、園遊会の采配を任せたわけではないぞ?」

「……そのようには、解釈しておりませんが」

「側室たちを慰める園遊会を、そなたが成功させることで、『紅薔薇』の権限は強まる。逆に、他の者に任せては、そなたの立場が危うくなるだろう」


分かっている――つもりだ。ジュークが、彼なりに精一杯考えて、ディアナの立場を強固にするために、この決断をしたことは。

この風変わりな王様は、どういうわけか、自分を随分買ってくれているみたい、だから。


「ディアナ……辛いのか?」

「正直申し上げて、目の回るような忙しさではありますが……辛くは、ありませんよ」

「本当、か?」

「助けてくださる方が大勢いらっしゃいますから。……陛下も、含めて」


安心させるように、ふわりと微笑む。ジュークは一瞬、目をぱちくりとさせて。


「そなたは、これだからな……」

「陛下?」

「ディアナ。――俺のことが、好きか?」


鋭い眼差しの奥で、ゆらりと炎が踊っている。頬に触れられた手は、火傷でもしたのかと思うほど、熱い。

……ときどき、思い出したようにこうなる彼を、どうするべきか。答えが出せないディアナは、ただ笑って、ジュークの手からそっと逃れた。


「もちろん。偉大なる国王陛下を嫌う臣民など、この国にはおりませんわ」


『ジューク』のことも、嫌いではないけれど。彼が自分に向けてくれる『好き』と同じものでも、また、ないから。


……ふと、昼間のシェイラとの会話を、唐突に思い出した。


『ねぇ、ディー』

『なぁに、シェイラ?』

『私、ディーのこと、世界で一番大好き。……ディーは、私のこと、どう思ってる?』


もちろん、私だって大好きよ――。

躊躇いなく返した答えに、シェイラはそれはそれは、嬉しそうに笑っていた。

そしてその後、腕を取られ。


『じゃあ――私たちこれから、ずっと一緒ね』


そのときの彼女の瞳に、今のジュークと同じ炎が、見え隠れ、していたような――。


(き、気のせい、よね?)















「…………はっ!」

「おはようございます……ディアナ様? どうなさいました?」

「な……なんだか、とんでもない夢を見ていたような気がする」

「とんでもない夢?」

「天国だと思っていたら、一気に地獄……いや、むしろ禁断の花園に突き上げられたような……」

「ハイハイ、寝惚けるのはそこまでにして、着替えましょうねー」

「リタ、あの場合、わたくしどうすれば良いのかしら?」

「ディアナ様の夢の内容を知りませんので、個人的な意見になりますが」

「が?」

「――ディアナ様には天国より、禁断の花園がお似合いでいらっしゃるような気がします」

「うわぁ……」




おしまい!





シェイラのパワーアップが止まらない……!

自分の気持ちを自覚したシェイラさんは、恐らく『悪役令嬢』いち、ノンストップなキャラと思われます。

嘘みたいだろ、この子、王様相手に引かないんだぜ……?


透花さま、リクエストありがとうございました!



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