[IF]行き過ぎた愛の果てに
爽やかな朝ですが、爽やかな朝には相応しくないお話です。
くれぐれも、くれぐれも、Attentionをよく読んだ上で、お進みくださいませ。。。
!!Attention!!
以下のお話は、『悪役令嬢後宮物語』本編とは全く関係の無い、完全なる番外編です。
・近親相姦、グロ表現、ヤンデレ、腹黒、ひたすらシリアス、バッドエンドに嫌悪感を覚える
・優しいお兄ちゃんのエドが好き!
・エド×クリスこそ正義!
以上に当てはまる方は、このまま黙ってページを閉じ、このお話の存在そのものをきれいさっぱり忘れ去りましょう。この注意書を無視して読み進められた場合の苦情は……受け付けてはおりますが、作者としては「だから最初に言いました」としかお返事できません。
もう一度、申し上げます。上記に当てはまる方は、ページを閉じましょう。何もコレだけが、悪役の番外編ではありません。
「むしろそういう話が好きだ!」「ま、たまには良いかな」「番外編だし許してやるかー」な、心優しいというか、許容範囲の広い読者様は、ページをスクロールし、普段の悪役とはひと味違った世界を、お楽しみくださいませ。
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「――さぁ、帰ろうか、ディアナ」
夜よりもなお深い、闇色の衣を身に纏ったそのひとは。
手にした剣から滴り落ちるアカのおぞましさすら呑み込んだ、見とれるように麗しい笑みを浮かべた――。
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若くして即位したジューク王のために、重臣たちが造り上げた美しき花園。
そこに咲く花の一つとして、クレスター伯爵家の令嬢が摘み取られたのは、夏の盛りの話であった。
貴族のほとんどは、それがクレスター家の望みであると思ったことだろう。かの家は先祖代々悪評高く、これまでは悪事を在野に限ってきたが、遂に王宮へ、政の中心へと魔の手を伸ばし始めた。その最初の一手が、娘を後宮へ送り込み、正妃へとのし上げることに他ならない、と。
……しかし内実は、貴族たちの予想とは大きく隔たったものだった。
「だから、俺は言っただろう? 王宮なんかに行ったら、ろくなことにならないって」
微笑みを絶やさず、妹の手を引きながら、クレスター伯爵家嫡男のエドワードは歩く。――彼の妹こそが、後宮へと召し上げられた後、正妃代理とまで呼ばれた娘、ディアナ・クレスターであった。
ディアナに入宮の宣旨が下ったそのとき、本人を含んだ家族一同は全力で拒否を示した。世間でどう噂されていようが、実際のディアナは心優しく慈悲深く、お人好しでいじっぱりな、ただの女の子だ。人間をただの『駒』としてしか見ないような者たちで溢れている王宮とは、徹底的に相性が悪い。
彼女を後宮にやらないために、一家は全力を尽くした。しかし時勢の悪さもあったのか、あと一歩力及ばず、無念のうちにディアナは、後宮に住まう側室の一人となったのだ。
――それでも、そこに心強い味方がいれば、運命はまた違っていたかもしれないけれど。
「……お兄様。これから、どこに行くの?」
「言っただろう? 帰るんだよ。俺たちの故郷、クレスターに」
気心知れた侍女を連れることも許されず、たった独りで後宮の住人となったディアナを待っていたのは、王からも、他の側室からも蛇蝎のごとく嫌われる、孤独な日々だった。位だけは『紅薔薇』と後宮の頂点を与えられたが、それは本当に形だけ。同じ立場の側室たちと、挨拶することすらままならない。――王が、ディアナの入宮初日に、「クレスター伯爵令嬢と関わった者は厳罰に処す」という通達を出したからだ。
それでも、ディアナは挫けなかった。侍女の服を掠め、目立たない色の鬘を被って部屋を抜け出し、後宮のあちこちを探った。そして、位の低い側室たちが不当な扱いを受けている現実を知り、自らの悪評すら利用して、彼女たちのために奔走した。
……そして、ようやく。心許せる、友と呼べる存在に、出逢うことができた。
「――待って、お兄様」
「どうした?」
「ここ。……シェイラの、部屋」
シェイラ・カレルド男爵令嬢。位は低くともその心根の美しさと芯の強さで、侍女に扮していたディアナが『紅薔薇』だと見抜き、その上でディアナ自身を信じてくれた。ディアナにとっては、後宮に入って初めて得た味方であり、かけがえのない親友……『だった』。
――扉を開けて、室内の様子を窺う。誰もいない部屋はがらんとしていて、ただ棚や机に置かれた小物類が、ここに確かに人がいたのだと、教えてくれているかのようだった。
「……何か、形見の品でも、もらって行くか?」
「――それは、できないわ。私は、シェイラの親類縁者でも、何でもないもの」
「彼女の親類縁者は、もう皆、この世の住人じゃないんだ。一つくらい、お前が彼女を偲ぶ、想い出の縁になってもらっても、罰は当たらない」
兄の言葉に導かれるように、少女はふらふらと、室内を歩き――半開きになった引き出しの中から、可愛らしい一冊の帳面を取り出した。
「それは……?」
「シェイラの、日記帳。前に、見せて、もらった、ことが……!」
紡ぐ言葉は力を無くし、親友の日記を持つ指が震える。――それでも必死に涙を堪えるディアナを、彼は優しく抱き寄せた。
「我慢しなくて、いい。――お前は、よくやった」
「シェイラ――――!!」
幸せなとき、太陽の光を浴びて輝く海原のように美しい蒼の瞳。それが今は曇り、嵐に踊る波のように灰色に揺らめく。溢れ出した涙がエドワードの肩を濡らし、そのままディアナは崩れ落ちた。
――慟哭の音が、ただ、部屋を満たしていく。
シェイラという味方は、ディアナに紛れもない幸福をもたらした。けれども、その時間は長くは続かない。
これまで後宮に全く興味のなかった王が、ちょっとしたきっかけからシェイラと出逢い、彼女を寵愛するようになった。シェイラ自身は、噂に惑わされてディアナの真実を見ようともしない王に、嫌悪と侮蔑を感じていたようだが、権力者の望みは絶対。拒むことは、赦されない。
やがてシェイラは、ジュークの寵愛を利用して、親友――ディアナの待遇を改善することを思い付く。危険だと止めるディアナに、シェイラは混じりけのない、労りと感謝の微笑みを向けた。
『――あなたが、本当の『紅薔薇様』になれたら。きっと、後宮は、そしてこの国は、もっともっと良くなる。あなたのためだけじゃなく、その先にある全てのために、私は決めたの』
それが、シェイラがディアナに遺した、最期の言葉となった。
王の寵愛を恣にし、お飾りの『紅薔薇』に実質的な権限を与えようとするシェイラは、正妃の冠を欲する者たちにとって、目障りこの上ない存在と成り果てたのだ。ディアナも必死にシェイラを守ろうと動いたが、ただの『侍女』にできることなど、たかが知れている。……駆けつけたそのとき、シェイラはもう、息をしていなかった。
ディアナは、親友を殺した犯人を見つけるどころか、『寵姫殺害』の濡れ衣を着せられ、罪人の部屋に監禁される。刻一刻と迫る処刑を、むしろディアナは待ち望んだ。シェイラと、同じ場所に逝きたい、と。
そして迎えた、『紅薔薇』処刑の日――王国全土で、反乱の狼煙は上がる。
佞臣の甘言を疑うことなく、奸臣の讒言に踊らされ、これまでの王国の繁栄を逆行させるかのような政策ばかりを打ち出す王に、国民の不満は募りに募っていた。王国の未来を憂える者たちは、水面下で密かに手を取り合い、打開策を探る。なんとか政を正道に戻し、民に幸福をもたらしたい。
だが、王はここに来て中央集権型の政治を唱え、王国の土地は全て王家のモノ、貴族はすべからく王家に領地領民を返上せよと言い出した。今の王に民を直接支配などさせては、民の苦境は火を見るよりも明らかだ。
――こうなっては、王を滅ぼすより他に、方法はない。
心を決めかけた彼らを後押しするかのように、『寵姫殺害』、そして『紅薔薇処刑』の報が届く。王が最後まで『紅薔薇』――ディアナ・クレスターの真実を見ようとしなかった現実は、数少ない忠臣たちの心すら、王家から離れさせる起爆剤となった。後宮での彼女の振る舞いを曇りなく眺めれば、国のために、民のために、わずか十七歳の少女が心と力を限界以上に尽くしていることくらい、すぐに分かるはずだったから。
王宮にも同士を得た『反乱軍』は、傀儡のジューク王と彼を操る陣営、そして王に愛されその権力を使うことしか頭にない後宮の側室を一掃するべく、この日、反旗を翻した。勝利を確信して油断しきっていた王宮の奸臣たちは、大した反撃もできないまま、次々と倒れ伏すことになる。そもそも、王宮を守る騎士たちすら、約半数が『反乱軍』に寝返っていたのだから、勝敗など戦う前に既に明らかだった。
『反乱軍』の、目的は二つ――王宮完全制圧と、囚われた『紅薔薇』の救出だ。その両方が成されてこそ、彼らの意義がある。
王宮の攻略よりも、『紅薔薇』の救出の方が、ある意味難関だった。彼女が捕らえられているのは、迷宮と名高い後宮の最上階、罪を犯した側室のための部屋。当然、罪人が逃げられないよう、万全の警備が敷いてある。そこを、どう攻略するか。――悩む『反乱軍』の前に、その男は涼やかな微笑みと共に現れた。
『私が、先陣を切ります。突入隊の方々は、後からどうぞ』
一瞬前まで無人だった空間に突然湧いて出た男を、知らないものはいなかった。そして、それ故に、誰からも異論は挙がらなかった。
――妹を救うために、兄が出てくるのは、まるでおかしいことではなかったから。
エドワードは宣言通り後宮に突っ込むと、出会った人間は兵士だろうが騎士だろうが、侍女だろうが女官だろうが側室だろうが、委細構わず一刀の下に切り払った。それも、即死させるのではない。致命傷を負わせながらも一瞬で昇天はできない、どう足掻いても数分は苦しまなければならないような、そんな絶妙の切り方で、ひたすらに殺戮を続けたのだ。後宮にいるのは全部敵とばかりの容赦のない攻撃に、後ろを走る突入隊は恐怖したものの、やはり止める声は皆無だった。――彼の妹が受けた仕打ちを思えば、ここで我が物顔をしてのさばる者たちは、これくらいの報いがあってしかるべきだろう。
一直線に最上階を目指しているつもりで、実はひたすらエドワードの後ろを走っているだけだった突入隊は、彼が最初から後宮の中にいる人間を皆殺しにするつもりだったことに、監禁部屋の前まで来てようやく気付いた。その頃には、後宮の中は自分たち以外、正常に息している気配がなかったのだ。
兄妹の再会を邪魔しないため、突入隊は死体の処理と残党狩りに散って――だから、ディアナの慟哭を邪魔する者は、どこにも存在しなかった。
――この日。数百年の繁栄を誇ったエルグランド王国は、その歴史に終わりを告げた。王と主だった臣は処刑され、王国は共和国に形を変え、貴族と平民の共同議会によって、政治が行われていくことになる。
その、新たな歴史の中に、『クレスター伯爵家』の名が刻まれることは、ついになかった――。
『……エドワード様。ディアナ様を、どちらに?』
泣いて泣いて泣いて、最後には気を失ってくず折れたディアナを抱き抱え、後宮の裏口から脱出したエドワードに、クレスター家が抱える隠密集団『闇』の首領、シリウスが声を掛ける。
泣きすぎてうっすらと腫れた妹の目元を撫でて、エドワードはうっとりと微笑む。
「心配しなくても、ちゃんとクレスターに連れて帰るさ。……ま、俺たちでクレスター『伯爵家』は終わり、だけどな」
『満足、ですか。全て思い通りに事が運んで』
「何のことだ?」
シリウスと言葉を交わしながら、エドワードの心はそちらに向いていない。腕の中で弱々しい呼吸を続ける、最愛の妹しか、今の彼は見ていないのだ。
ディアナの入宮が避けられないと分かったとき、二重三重に手を回し、王が彼女を毛嫌いするように、あわよくば妹が後宮内で孤立するように仕向けた。――自分以外の男がディアナに近付くなど、冗談ではない。
ディアナが後宮で、生涯の親友とも呼べる存在に出逢ったと知ったとき、ちょっとした偶然を演出し、ジューク王をシェイラと引き合わせた。控え目で芯の強い、けれども身分低く立場の弱い彼女は、英雄になりたい愚かな青年が好む女性の典型例。引き合わせさえすれば、情勢が勝手に彼女を葬ってくれる。――ディアナの『一番』は、どこにいようと、兄の自分であるべきではないか?
結果として国が滅んだのは、完全なる副産物だ。ディアナの真実に王が気付かないよう、裏でいささか動きはしたが、それだけであっという間に王宮が魔の住処になったのだから、遅かれ早かれそうなる運命だったのだろう。
――全ては、ディアナを、最愛の少女を、この腕に取り戻すため。彼女に、ひたむきに愛してもらうために。
初めてできた親友を、無惨に喪った可哀想なディアナ。その復讐すら、できなかったディアナ。
立ち直るには、かなりの時間を要するだろう。
でも――大丈夫。
「俺が、これからはずっと、傍にいるからな。ディアナ――愛してる」
陶酔のままに口づけた少女の唇はとても甘く……どこか、てつの味がした。
近親相姦モノ、と聞いて連想したのが、
エドの行き過ぎた愛→ヤンデレだったという……単純思考で申し訳ありません。
ほ、本編は、明るくいきたいと思います!(何の言い訳だ)
こんな感じになりましたが、いかがでしたでしょうか?
藤色さま、リクエストありがとうございました!




