童話パロ~なんちゃってシンデレラ〜前編
朝9時からはちょこっと過ぎちゃいました、が(汗)
お祭り更新、二日目は番外編です!
あてんしょん♪
題名そのままのお話です。原作(もちろん童話の方)ブレイクばっちこい!
……いらっしゃらないとは思いますが、「そのままのシンデレラが好きなの!」という方は、閲覧ご注意を。
ではでは、物語スタートです。
――昔々あるところに、一人の女の子がいました。名前はシェイラといいますが、あるとき灰まみれの姿を笑われて以来、灰かぶり(シンデレラ)というあだ名で呼ばれるようになりました。
「シェイラ、シェイラ! 洗濯終わったわよ!」
えー、シンデレラと呼ばれていました!
……ゴホン、幼い頃の彼女は、優しい父と美しい母と一緒に、幸せに暮らしていました。しかし身体の弱かった母はやがて亡くなり、父は彼女のためにと、後妻を迎えたのです。後妻は、娘を二人、連れてきました。
そのうちに父もなくなると、継母はシンデレラを、狭い屋根裏部屋へと追いやりました。そして、彼女一人に、家中の仕事を押し付けたのです。継姉二人は、笑って見ているばかりでした。
「……ったく、シェイラみたいなか弱い子に家事を全部させようとか、何考えてんだかあのババァ。あ、そっちの野菜は私が切るから、シェイラはスープの番でもしてて」
「ありがとう。……いつもごめんなさい、ディアナ姉様」
「〜〜〜〜っもう、ほんっとうにいいコなんだからシェイラは! ごめんなんていらないの、家族なんだから、助け合うのは当たり前よ」
……訂正します、どうやら約一名は、笑って見ているばかりじゃない、みたいです。――既に登場人物たちにシンデレラする気がないようなので、ここから先は『なんちゃって』を意識してお進みください。
では。
「野菜はこれくらいの大きさで良いわよね?」
トントンとリズミカルに包丁を動かす少女の名は、ディアナ。継母の連れ子その2で、再婚によってシェイラの義姉になった、顔は怖いけど心優しい女の子です。
シェイラを虐待し、こき使う継母を嫌悪し、こうしてシェイラと力を合わせて家の中を切り盛りしています。
「……ディアナ姉様、嬉しいけれど、本当に無理はしないで。お義母様に知られたら、また叱られるわ」
「喚くしか能がないんだから、喚かせておけば良いのよ。金持ち捕まえて楽することしか考えてないんだから、あのオバサン」
「……姉様のお父様も、お気の毒なことになったのよね」
シェイラは継母のことを深くは知りませんが、どうやら継母の実の娘は一番上の継姉だけで、ディアナもまた、以前に継母が結婚した相手の連れ子らしいのです。それもあって、ディアナは出会ったときから、シェイラに親切でした。
「あー……ホラ、私のことは良いのよ。あんな性悪ババァさっさと振り切って、シェイラはこれから、うんと幸せにならなくちゃ!」
「私は、私より姉様に幸せになって頂きたいわ」
「それじゃ、二人で幸せになりましょう?」
「えぇ!」
朝陽が部屋を優しく照らす中、二人は協力して、食事の支度を続けるのでした。
「シンデレラ。今日の夜は、家中くまなく掃除なさい。わたくしは、リリアーヌとディアナを連れて、一晩出掛けますからね」
シェイラが一人で作ったように見せかけつつ、実際はディアナと合作したブランチを食べながら、継母サーラが唐突に切り出しました。……但し、唐突だと思っているのはシェイラとディアナだけで、最初に名前を呼ばれたリリアーヌ(今更ですが、シンデレラの継姉その1の名前です)は、とても楽しそうに笑いながら、母親とシェイラを眺めています。
「分かりました」という返事以外認められていないシェイラに代わって、ディアナが口を開きました。
「サーラさん、今夜、外出の予定はありましたか?」
「ディアナは本当に、自分の楽しみ以外に興味のない子ね。この間我が家に届いた通達、お前にも見せたでしょう」
「お母様、この子に言っても無駄よ。男を引っかけることしか、興味ないんだから」
愛のあるからかいのフリをして、その実ディアナを侮辱するサーラとリリアーヌの言葉を聞いて、普段は白いシェイラの頬が赤く染まります。大好きな姉への侮辱に怒っているのです。
一方、侮辱された張本人は、残念ながら物心ついた頃からこの手の悪口には慣れっこでしたので、シェイラを目だけで宥めつつ、にこりと笑ってみせました。
「えぇ、そういうわけなので、わたくしは今夜の予定を知らないのです。その通達とやらを、見せてはいただけませんか?」
「しょうがないわね。――これよ」
サーラが懐から取り出した上質紙に書かれた内容を読むにつれ、ディアナの表情に紛れもない呆れが広がります。
「王子妃候補を見つけるための、王宮主催の舞踏会? ……大人しく近い身分のお貴族様から選べばいいものを」
「王家に新しい風を取り入れよう、素晴らしい試みではないの」
「あちらの大義名分はこの際どうでもいいですが。サーラさん、一つ伺っても?」
「えぇ、なぁに?」
「――ここに、『対象者:この通達を受け取った家庭の、15歳から25歳の娘(未婚に限る)』ってありますが。コレ、シェイラも含まれるのでは?」
「……え?」
思わず顔を上げたシェイラを、サーラがきつい眼差しで睨み据えました。
「馬鹿なことを。下働きの小汚ない娘を、王族様のお目に掛けさせるわけにいかないでしょう」
「小汚ない格好で下働きをさせているのはサーラさんで、シェイラは法律上、立派なこの家の娘ですよ?」
「そんなこと、自己申告しなければ分からないわ」
「だいたい今からじゃ、ドレスが作れないでしょ。灰かぶり(シンデレラ)には、下女の格好がお似合いよ。それとも、その格好でお城に来る? 入れてもらえないと思うけれど」
サーラとリリアーヌは、声を合わせて笑います。シェイラは目に涙を溜めて俯き、その光景を見たディアナの目が、すうっと細くなりました。
「――分かりました。では、わたくしも欠席します」
「と、突然何を言うの?」
「そもそもわたくし、お見合いパーティに興味ございませんもの。慣れないドレスとヒールに疲れるくらいなら、シェイラと二人で床磨きでもしていた方が、ずっとずっと建設的ですわ」
「ディアナ!」
「気安くわたくしの名を呼ばないで。わたくしがいないことを王宮に咎められたら、『独り家に残される妹が哀れで』とでも、欠席理由を説明なさったら良いわ」
絶対零度の視線を向けられた、サーラとリリアーヌは震え上がりました。彼女たちの様子を眺めながら、シェイラは内心、こっそり首を傾げます。
普段のサーラとリリアーヌは、ディアナを可愛がるフリで馬鹿にすることなど日常茶飯事なのに、いざというときこの家で強い発言力を持つのはディアナです。最初にこの光景を見たとき驚いたシェイラは、後でディアナにどういうことか尋ねましたが、いつもハキハキモノを言う姉が珍しく、「えぇと、あの人たちは私というより私に付随する諸々に恐れをなしたというか、継承権の問題で私を蔑ろにできないというか……とにかく、いろいろあるの」と、実に要領を得ない答えでしたので、理解することを諦めました。
――閑話休題、そんなこんなで、今夜の舞踏会にはサーラとリリアーヌだけが出席し、シェイラはディアナとお留守番することになりました。
煩い二人が出掛けた後は、のんびりまったりのティータイム。赤々と燃える暖炉の前にお気に入りのカップと美味しいお菓子を並べ、ゆったりした午後のひとときを過ごします。今日の夜は、ディナーはちゃんとコースで出せとか、湯上がりにマッサージしろとか言い出す人間がいないので、実に平和に過ごせることでしょう。
「……お城の、舞踏会かぁ」
お茶の合間、会話が途切れたそのときに、シェイラがぽつり、呟きました。
いつもシェイラを気遣うディアナは、シェイラの声に含まれた、微かな羨望に気付きます。
「……行きたいの?」
「えっ、そ、そういうわけじゃないの!」
「シェイラ、嘘はナシよ。私に気とか、遣わなくていいから」
「ディアナ……」
ディアナの優しい眼差しに、シェイラは少し困った顔になりつつ、肩を落としました。
「本当に、行きたいとか、そんなのじゃなくて。ただ、どんなのかなぁって、思っただけなの」
「お城の舞踏会が?」
「こんな機会がなかったら、きっとお城なんて、外から眺めているだけだもの。……きらきらした世界なんだろうなぁって、ちょっと、想像しただけ」
「シェイラ……」
「お父様が、生きてたら。おいてけぼりにされることはなかったかなって、そんなこと言っても仕方ない、よね」
ついついディアナの視線に負けて、本音を口にしてしまいましたが、それこそ優しい姉を困らせてしまいます。何でもないと笑おうとしましたが、視線を上げたその先に、実に複雑そうな表情をしている彼女がいることに気付き、きょとんとなりました。
――嬉しそうで、心配そうで、楽しそうで、だけど寂しい……まさに、複雑怪奇と呼ぶに相応しい、そんな表情です。
「ディ、ディアナ、姉様?」
「……むー、シェイラがその気になってくれたのは嬉しい、けど」
「え、えぇ?」
「シェイラ、お城の舞踏会に行きたい?」
「姉様?」
「行きたいか、行きたくないか。正直に、はい、どっち?」
目の前のディアナは、至って真剣です。その迫力に圧され、シェイラはつい、頷いてしまいました。
「い、行きたい、です」
「よし。じゃあ、知り合いの魔法使いに頼んでくる!」
「えええぇぇ!?」
魔法使いなんて、お伽噺の中の存在です。さすがにシェイラの年齢になって、その実在を信じている者はいません。
なのにディアナは、そう宣言するなり、家を飛び出してしまいました。
シェイラは呆然と、その後ろ姿を見送ったのでした。
――ところで、暖炉の記述からお分かり頂けたかと思いますが、現在は冬。つまり、日が暮れるのはとても早いです。
ディアナが飛び出してしばらく経つと、外は急激に暗くなり、室内灯が必要な時間に突入しました。
そんな中、呆然としたままのシェイラは、暖炉の前で膝をつき、ディアナはいつ帰ってくるのかと、半ば麻痺した頭で考えていたのです。
「こんばんは。君がシンデレラ?」
――そこに、本当に前触れなく、その人物は現れました。
「ど、どなたですか!」
「あれ、ディーから話が行ってると思ってたんだけど」
「ディー……姉様のことですか?」
「あ、そうそう、ディアナ」
「じゃあもしかして、あなたが魔法使い?」
断っておきますが、シェイラは決して、厨二な病を患っているわけではありません。ただ、信頼する姉、ディアナが残した言葉を、そしてその彼女を知っているという目の前の人物を、反射的に結びつけただけです。
魔法使い、と呼ばれた彼は、苦笑しました。
「うん、それ。でも、それで呼ばれるのはちょっと危ない人と思われるから、できれば名前で呼んで? 俺は、カイ」
「シェイラと申します」
「シェイラ、ね。知ってるけど、君は今夜だけは、シンデレラ。一夜限りの、お姫様だ。分かった?」
微笑みを浮かべた魔法使い――彼の願いを聞いて、今後はカイと、呼ぶことにしましょう――の言葉には、否と言わせない何かがありました。こくりと頷くと、カイは大きく頷きます。
「さて、と。じゃあ準備しないとね。シンデレラ、悪いけど、畑からカボチャ一つ、ネズミを一匹、トカゲを三匹、捕まえて来てくれる?」
「は……はい?」
「魔法には、材料が必要なんだよ。ほら、よろしくー」
また、有無を言わせない笑みに押し切られ、シェイラは家の裏手にある畑まで出向き、カボチャを一つ、ネズミを一匹、トカゲを三匹、言われた通りに調達しました。季節モノであるカボチャはともかく、ネズミとトカゲはそろそろ冬眠の季節ではないかと案じましたが、幸いまだ頑張っている子たちがちょろちょろしていましたので、事なきを得ました。
「カ、カイさん、カボチャとその他を――わぁ!」
室内に入るなり、シェイラはネズミとトカゲの捕獲に苦労した気持ちが吹き飛びました。さっきまで真っ暗だった部屋には煌々と灯りが点り、さっきまで椅子の背もたれにかけていたボロボロの服が消えて、代わりにシンプルながらも美しい、高級感溢れるドレスが、トルソーにかかった形で出現していたのです。トルソーを挟むように、女性も二人、控えていました。
「あ、ネズミとトカゲ、見つかった? ありがとう」
「い、いえ、それよりこのドレス、どこから? それに、こちらの方々は……」
「ドレスは、そこにあった君の服を材料に、ちょちょいっと作った。こちらのお二人はドレスの精霊で、君のために特別に着付けてくれるよ」
「初めまして、シンデレラ様」
「よろしくお願いしますわ、シンデレラ様」
精霊、とは言われましたが、女性二人はどこから見ても人間です。一人は金髪に蒼い瞳、もう一人は栗色の髪に翡翠の瞳、タイプは違えどどちらもとんでもない美人です。
「こ、こちらこそ、よろしくお願い致します!」
「さぁさぁ、善は急げですわ! シンデレラ様、奥のお部屋へ参りましょう」
「王族のお姫様にも負けないよう、着付けて差し上げますからね」
二人に急かされ、シェイラは奥の部屋へ入り、長らく離れていたコルセットと格闘しながら、あっという間にドレスに変身したのです。
「――さぁ、シンデレラ。鏡をご覧なさい」
金の髪の妖精に促され、視線を移した鏡には、これまで見たこともないような少女が、驚きと共にこちらを見返していました。
「こ……これが、私、ですか?」
「シンデレラ様はモトがよろしいから、こんな薄化粧でも、充分に輝いていらっしゃいます」
「髪も下手に巻くより、自然な流れを利用して結い上げた方が、美しい艶が映えましたね。文句なしの出来だわ」
うんうん頷く女性二人に、シェイラは感激して振り返ります。
「あの、本当にありがとうございました。差し支えなければ、お名前をお聞かせ頂けませんか?」
「まぁ、光栄ですわ。私、エリーと申します」
そう言って微笑む、繊細な美を宿す女性の色彩に、シェイラは覚えがありました。太陽のような金の髪と、海のごとき蒼の瞳は、愛する姉、ディアナと同じです。そのせいか、目の前の女性に、とても親近感が湧きました。
「フィフィと呼んでくださいな」
大らかに笑うフィフィは、迫力のある超美女です。どこか夜の匂いを感じさせる彼女ですが、ふとした仕草や表情が、これまたディアナを思わせました。
「エリーさん、フィフィさん。本当に、ありがとうございました」
「これくらい、お安いご用です。――舞踏会、思いきり楽しんでくださいね」
「はい!」
明るく笑って部屋を出たシェイラは、灯りが導くまま玄関へと向かい――再び、度肝を抜かれることになります。
「カイさん、こちらは……!」
「うん。カボチャを馬車に、ネズミを馬に、トカゲ三匹をそれぞれ、御者と、侍女と、執事にしてみた」
門の先に、立派な馬が引く優美な丸い形の馬車が停まり、その御者台には甘いマスクの美青年が微笑んで綱を持ち、馬車の扉を開けて執事が控え、外出必需品が入った鞄と思わしきものを提げた侍女がシェイラの到着を待ち――本当に、どこのお姫様かと言いたくなるような待遇です。
シェイラは思わず、カイを振り返っていました。
「身分不相応です!」
「大丈夫。今宵の『シンデレラ』に、文句をつけることができる人間はいないよ」
「……それも、魔法ですか?」
「魔法使いに不可能はない。知らなかった?」
カイはくすりと、イタズラが成功した子どものような笑みを浮かべ――ふと、シェイラの足に、視線を落とします。
「おっと、忘れてた」
「……え?」
「俺からの、最後のプレゼントだ。――どうぞ、お姫様?」
そう言って、彼が取り出したのは、きらきら輝く、美しい――。
「ガラスの、靴?」
「ガラスだと割れるから、ホントは水晶なんだけどね。水晶の靴って言いにくいし、ガラスの靴でいいと思うよ」
真面目なのかふざけているのかよくわからない台詞とともに、カイは流れるような動作で、シェイラに靴を履かせてくれました。
「――さぁ、これで準備は整った。行っておいで、シンデレラ。一夜限りの、夢の世界へ」
「カイ、さん」
「ただし、忘れてはいけないよ。今宵の夢は、魔法が見せる幻。十二時の鐘が鳴ったとき、全ては煙のように消えてしまう」
「じゅうにじ……」
「俺の役目は、ここまでだ」
声とともに、奇跡の魔法を使う男の姿は、闇の向こうへ掻き消えていきます。
シェイラは、去り行く彼に届くよう、声を張り上げました。
「何もかも、ありがとうございました。――行って参ります!」
飛び乗ったシェイラを乗せて、カボチャの馬車は走り出しました。
〈後編に続く〉
……シンデレラって、こんなに長い話、でしたっけ?
ちょっと想定外に長くなりましたので一旦切って、続きはまた夜にでも、お届け致します。




