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勇者になった少年・外伝  作者: Precious Heart
インディゴ王国記『騎士王』編
2/3

『異邦人』

こんにちは。

Precious Heartです。

遅くなりましたが、『勇者になった少年・外伝』、インディゴ王国記『騎士王』編、第1話『異邦人』をお楽しみ下さい。


 sideA-1


 インディゴ王国の辺境の村『ベルンハルト』


 真上から見たら中心角がほぼ45度の扇状の国土の中、海岸線に近い貿易区でもなく、扇の支点に近い行政区でもなく、かと言って各地に点在する市街地などの交流区でもない。

 インディゴ王国と南西のブラウ共和国を隔てる大山脈の麓に位置する、人口がわずか千人程度の農村である。

 他に特徴と言えば、温暖な気候と豊かな四季に加え山の高低差もあり、稲だけではなく豊富な種類の果実が収穫される事で知られているぐらいだ。

 そして、現在の季節は秋であり、ちょうど収穫の時期なのだが、ここで1つ問題が発生していた。


 それはーー


「ファルコティアだーー!!」


 ーー猛獣の発生である。





 元々、この季節は稲や果実を求める害虫や害鳥が多く発生し、それを餌とする猛禽類、更にその上に君臨する猛獣が増える時期だ。

 しかし、猛禽類より上の動物に関しては、国の騎士隊が予め討伐を行い、国民への被害は殆ど発生してなかった。


 だが、今年の夏。


 国王が流行病により崩御され、事態は一変した。

 王子が新国王になり、王の側近であるはずの近衛隊の解散を皮切りに、騎士隊に代わる国軍の創設など様々な勅命が下ったのだ。

 当然、一番被害を食らうのは国民であり、本来騎士隊の仕事である討伐作業が国軍には引き継がれず、今に至る。





 農作業を止めて逃げまどう農民達。


「糞ったれ!」


 若い農民の1人が舌打ちすると慣れない剣を手に取り、上空を見据えて構える。

 その視線の先にいるのは、空に浮かぶファルコティア。

 猛獣に分類されるファルコティアだが、その実大型の鳥だ。

 体長は約5メートル、翼長は10メートルを超えるファルコティアの恐ろしい所は、その巨体を宙に保つ事が出来る筋力と鋭い觜である。

 収穫シーズンに入り、既に2人がその觜の犠牲に遭っていた。

 若い農民は憎い仇を前に剣に力を込め、


「力を込めるのはいいが、少し抜け。

 肩がガチガチでそれでは初動が遅れる」


 不意にそんな声が聞こえた。

 若い農民は驚いて声がした方を振り返る。

 そこに立っていたのは見たこともない20歳前後の青年。

 背中には大きめな布で巻かれた、恐らくは大剣を背負っている。

 逃げまどう農民達の中で、平然と立っている青年は場違いにも程があり若い農民は目をパチクリさせる。


「あんたは……?」


「余所見するな。来るぞ」


 青年の言葉にハッとし、若い農民はファルコティアに慌てて向き直る。

 ファルコティアは翼を一回羽ばたかせると、折り畳み猛スピードで一直線に農民に突っ込んで来た。


(速い!)


 農民はそう判断した瞬間に剣を振り下ろすが、


「ぐわぁぁあああ!」


 ワンテンポ遅く、肩を突かれた農民が剣を手放し悲鳴を上げてのた打った。


「立て。次が来る」


 青年はのた打つ農民に声をかける。

 農民は痛みに耐えながらファルコティアを見上げ、悟った。


 勝てないと。


 あくまで自分達は餌でしかないのだと。


 ファルコティアの目を見て悟ってしまった。


「ふむ」


 青年は戦意が折れ立ち上がれない農民を見て頷くと、


「仕方ないか」


 と、1つため息をつき、農民の剣を拾い構える。


「手本を見せてやる」


 そう言って、ファルコティアに対峙した。

 その構えはあくまで自然体。

 覇気のかけらも感じられないその姿勢に、ファルコティアは新しい獲物として青年をロックオンする。

 そして、農民を襲った時と同様に突撃をかけ、


 青年から凄まじい量の剣気が放たれた。


 ファルコティアは反射的に身を捻り回避するが、その時には既に真っ二つに斬られた後だった。

 斬られたファルコティアは勢いよく地面に激突し、農民が見るとファルコティアは事切れていた。


「一体、何が?」


 農民から驚きの声が漏れる。

 ファルコティアが斬られたのは分かるが、その過程が一切見えなかった。

 それほどまでに青年の剣技は圧巻だった。

 そして、当の本人はと言うと、


「すまない、少し刃こぼれしてしまった」


 と、何事も無かったかの様に剣を農民へと返した。


「あ、ああ」


 農民は気を取り直して青年から剣を受け取る。

 確かに多少刃こぼれしていたが、返り血はさほどついていなかった事から、単純に剣が衝撃について来れなかったのだろう。

 そもそも農民が持てる様な剣は切れ味が悪く、猛獣を真っ二つに叩き斬る事自体無理な話しなのだ。


「それじゃあ」


 青年はボーとする農民にそれだけ言い残し、この場から立ち去ろうとする。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」


 それを農民が慌てて引き止めた。

 

「……何だ?」


 青年が鬱陶し気に農民を振り返る。

 その仕草、180はあろうで長身、そして精悍な出で立ちに思わず農民は声を詰まらせる。

 たが、ここで何も言えなかったら、ベルンハルトの名折れ。


「俺の名前はエーミル=ベルンハルト。

 ベルンハルトの村長の息子だ。

 貴方に個人的にも村としてもお礼を述べたい。

 貴方の名前を教えて頂けないだろうか?」


 農民ーーエーミルは勇気を出して名乗った。

 因みに、この世界には一般的に家名と言うのは存在しない。

 家名があるのは王家や貴族と言った階級の人達のみ。

 それ以外では、自分が所属する村や町、団体等の名前を後ろに付け、「どこどこ出身の某」と言う意味合いで名乗るのが通例である。


「……立花 剣」


 青年が面倒くさそうに呟き、


「えっ?」


 と、エーミルが声を上げる。

 だが、それは決して声が小さくて聞こえなかったからではない。

 青年の名前がもつ意味に気づいたからだ。

 漢字で表せる名前を持つ者。

 そう、それすなわちーー


「呼び名としてはツルギ=タチバナ。

 気づいた様だが、異邦人だ」


 ーーという事であった。



いかがだったでしょうか?

外伝と本編も合わせて、今後とも宜しくお願いします。

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