失敗もしくは自己反省
二度にわたる恐怖体験によって私の精神はすっかり参ってしまっていた。
本当に参っていた私は、すでに屋敷に着いているにも関わらずラリズに抱え上げられている状態のままであることに疑問を持つことも無かった。
ただし仮に直ぐに降ろしてもらおうとしても、きっと私には自分で自分の体を支えることすら難しかっただろう。蹲るくらいしか出来なかったと思う。
しかし時間が経過することによって、やっとどうにかこうにか傷ついた私の精神も修復してきた。
そして肉体よりも精神の修復が早かったために、未だ満足に動けない状態でありながらこの体勢に耐えられなくなっていた。
「お、降ろしてください・・・」
屋敷内でも、あらゆる場所の天井が高いため、そしてラリズが上手に気を使ってくれていたためなのか、抱え上げられた状態でありながら私がどこかに体をぶつけることは無かったけど、それ以上にこの状況は私にとっては痛かった。
抱え上げられた状態から一度目以上に苦労して、私の意志とは別のところでくっついていた体をラリズから剥がしてもらう。ただし自力では難しかったためにラリズによって。
床に足を付いてから、そのまま倒れそうになる体を自分で支えて、そして支えきれずに倒れそうになるところを支えられながらお礼だけは伝える。
しかしどう考えても今日はもうこれ以上動くのは無理だった。夕食の準備は名乗り出てくれたラリズに甘えることにして、私はもう一度お礼を言うとそのまま部屋に引っ込むことにする。
運んでくれるというラリズの言葉は丁寧に断り、しかし壁に縋り付くようにして移動する。入浴も着替えも、洗顔すらも諦めて私はベットに転がる。
何も考えられなかった。ラリズの言葉は断ったことだけがせめてもの私の矜持だった。
これ以上は本当に何も。
幸運なことに悪夢に魘されることは無かった。あの状態で夢を見たら、確実に悪夢になるだろうと思われたから朝起きたときには何も覚えていなかったことは幸運だったのだろう。
ベットの上から起き上がることも出来ずに、ぼんやりと天井を見上げる。
起き上がらないのではなく、起き上がれない。
体のあらゆる部位がまるで錆付いているようにぎしぎしと痛んで、軋みをあげているように感じてしまう。
しかしこの痛みはいつの間にか私が怪我をしていた、何てわけで感じているわけではない。
私にはこれが何か分かっている。こんなに痛いのに、誰かに話したとしても本当の意味では同情してもらえない、むしろ生ぬるい笑みが返って来そうなこれは、そう、
「筋肉痛だ」
確かに昨日の私はこちらにお世話になってから最も動いていたし、。むしろこちらに来てからの私は引きこもりに近い生活を送っていた。
甘やかされまくった私の肉体は、昨日一日の行動に耐えられなかった。
痛い。
久方ぶりに感じるこの動くたびに全身を刺すような、しかしたとえ動かずに安静にしていてもけして消えることの無い鈍い痛みは私に一つの教訓を与えた。
出来れば出したくなかった結論だけど、これ以上後回しには出来ない。
何か行動を起こす前には、確認したほうが迷惑を掛けない。