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今の私  作者: 夏月
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確認そして帰り道

きちんとした家の中にある店には入らずに、長く伸びた道の両脇にある露天の品物を見ながらラリズに確認していく。


今まで私が先生に教えてもらっていたことの多くは、魔術の知識を深めるためのものだ。私がする質問のほとんどが先生から借りた本の内容に対してだったけれど、本の多くが魔術についての内容だったので自然とそうなってしまう。本の中には先生がどうしてこれを持っているのか分からない、明らかな子供向けの本も多少はあったけれど。


本来成長していくに当たって誰に習うことも無く自然に身に付いていくものがほとんどなのだと思うけれど、今の私にとっては全てが珍しい。


ラリズに質問をしながらも、私の両目は落ち着き無く露天の上を彷徨っていた。並ぶ商品の多くが屋敷では見たことの無い物で、あれもこれもと目移りして全てが気になってしまう。


何と言っても、今覗いている露天には主に野菜をが並んでいるのだ。


いろんなことに流されぎみだったけれど、無理をしてまでして来た本日の目的を私は忘れてはいない。ラリズにどこに行きたいのか聞かれた時には、真っ先に野菜を扱っている店を希望した。


すると私の希望を聞いたラリズは、店の中には入らずに真っ直ぐにここへ連れて来てくれた。


門を潜って直ぐのところにある、この通りにある露天に並んでいる品は何と言っても普通の店の中のものよりも新鮮なことが特徴らしい。


「これはどんな味なんですか?」


ナスのような形をでトマトのように赤く色付いている野菜を密かにラリズに確認する。もし一般的に広く知られている野菜だとしたら周りの人に訝しく思われそうなので、あくまでもこっそりと聞いてみる。


「結構苦いよ。生では食べられないと思うから違うのにしたらどうかな」


その答えに少しショックを受ける。トマトもナスも生で食べられるものだっただけに。


しかし多少苦くても、その苦味を美味しく感じる野菜もある。けれどこれがどれほどの苦味なのか、生では食べられなくても調理しだいで美味しくなる物なのかも、気にはなってもまさかここで試食させてもらうわけにもいかない。とりあえず次のものに期待して今回は諦めることにする。


しかし何度か同じようにラリズに確認していたのだけど、思っていたようにはなかなか進まない。


いくら本を読んでいたとしても実物の無い状態では、あくまでも分かった振りをしていただけで現実では上手くいかない。戸惑うことばかりだった。予想以上に私がこの世界のことを知らないということ、食べたことの無い食物を口頭だけで相手に伝えることが難しいということだけは、これ以上無いくらいはっきりしていた。


何と言っても私には、こんな感じあんな感じと聞いても、その例えに出てきた何かすらも理解出来ない。ラリズは嫌な顔一つしないで、あらゆるものを楽しそうに私に教えてくれているけれど、だからこそ余計に申し訳なく感じてしまうのが現実だ。


非常に残念には思いながらも、今回は自分で選んで買うことを諦めるしかなかった。


予想以上の惨事に相談した結果、野菜の選出はラリズが露天の人に交渉してくれることになった。ラリズにまかせっきりのものがまた一つ増えて、これもまた申し訳なく感じるけど苦渋の選択である。


何と言っていくら朝早くに屋敷を出てきたといっても、このままでは野菜選びだけで日が暮れてしまいそうだった。せっかく来たから出来るだけ多くのものを持って帰りたいと言うのが本音だけれど、それに囚われすぎて時間が足りなくなる、何てことになったらもっと困った事態になる。


諦め悪くぐずぐずとしながらも、私は結局はラリズに迷惑を掛け通すことを選択した。


しかし行動方針が決まってしまうと、今までの行動が嘘のようにあっという間に荷物が増えていく。


幾ら言っても荷物持ちすらもさせてもらえない私は、ただラリズに付いて行くことしか出来なかった。どうやら今回の私は、初めてのお使い以下の行動しか出来ないことが確定してしまっているらしい。


「さてと、一度に持って帰れる荷物はこれくらいかな。十分かな?」


結局今回街には本当に私のわがままだけで来ただけらしく、私希望の野菜めぐりだけで買い物が終了しそうだった。このままでは店の中には一度も入らずに今日の用事が済みそうだ。


それにしてもラリズは持ち帰るための荷物を実に手際良くまとめていく。生の野菜がほとんどなのでひどく量があるのだけど、それを持って帰るのに適した形へと手早くまとめる。


そしてラリズは何もすることの無い私に、確認するように問いかけた。今日の行動からして彼のその言葉にはおそらく他意は無いのだろうけれど、微妙に私の胸が抉られる。


「ありがとうございます。だけどちょっと多かったんじゃないでしょうか?」


黙り込むわけにもいかず、とりあえず見る見る内に増えていったその荷物の量に対しての私の思いだけを伝えることにした。


「このくらいなら大丈夫だと思うよ。と言っても、人間が一度に運んでも不自然じゃない量しか運べないから、あまり種類は多くないけどね」


人間が、一度に、ということは、ラリズは実際にはどれほどの量を運べるのだろう。気になるところではあるけれど、聞くのも怖い気がするのでこのままスルーする。


私はこれから、今日街に付いたその時からずっと考えないようにしてきた問題について直面する。


「帰ろうか、あそこに」


そう来たんだから帰らなくてはいけない。来たんだから。


私は、いつか、帰る。


「そうですね、帰りましょうか」


とりあえず私は先生の待っているあの屋敷に帰る。そして私は今日のお礼を言おう。


ちなみにずっと考えないようにしていた屋敷への帰り方については、私は今度こそラリズを説得する。

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