表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今の私  作者: 夏月
30/36

街のこと

「約束を一つ追加しよう。具合が悪い時は素直に言うこと」


街に入ったラリズは、門の直ぐ近くに出ていた屋台で器に入った飲み物らしきものを買って渡してくれた。


あまりにさり気なくスムーズに渡されて、私は思わず素直に受け取ってしまっていた。面食らいながらもお礼を言って、ラリズに手を引かれるまま通行の邪魔にならないところまで付いていく。


歩きながらそっと周囲の様子を窺うように見た。


ぱっと見る限り、少し離れただけなのにもう私たちを気にしている人間はいないようだった。人の気配なんて上等なものが分かる私では無いので本当にいないのかどうかは確かではないけれど、とりあえず私にも分かるほどの露骨に嫌なものはすでに感じない。


ラリズが立ち止まったところで甘い臭いに誘われてやっと器の中を覗き込むことが出来た。薄い橙色をした液体が入っていることを確認してから、喉が渇いていた私は恐る恐るそれに口をつける。


どんな物からとったのか、口に含んだそれは予想以上にさっぱりとした、しかし適度に甘みのある飲み物だった。程よい酸味のあるそれは、色さえもう少し濃ければあちらのオレンジジュースとほぼ変わらない。


しかしそれにしても、私にはラリズの判断基準が分からない。確かにあの臭いによって私は吐き気を感じていたけれど、その前に明らかに恐怖の高速移動によって体調を崩していた。


ゆっくりと口を湿らせながら、道行く人たちを確認する。周囲に敵意を持たれているわけではないことを確認一息付くと回り全てが気になった。


未だそれほど離れていない門を見上げる。


そして今度こそ私はちゃんとラリズの話を聞くことが出来る。


お金に関してはラリズが先生から預かっているらしい。気になるものがあったらまずは自分に声を掛けて欲しいと言われてしまった。さらに子供のお使い感が強くなったことに地味にショックを受ける。


ラリズが門番の人に通行証を渡したあの時、私の目には確かにそれしか映らなかった。しかし小説やテレビで見たように、あの時ラリズはあれ以外にも何かを渡していたらしい。


何かって何だ。もちろんお金だ。ラリズは賄賂によって優先的に街の中に入ったらしい。


あのときの私は上手く誤魔化せたと思ったけれど、しかしそれでも多少は不自然であったらしい。


それが良いのか悪いのかは私には分からない。少なくともラリズはそうするべきだと感じたことは確かなのだ。他の誰でもない、私のために。


「あんまりこの格好している人って居ないんですね」


意識して違う話題をラリズに振る。


「そうだね、その姿はローブって呼ばれる魔術師の服装だから。魔術師は基本的に激しい動きはしないから良いけど、普通に街中に住んでると裾が邪魔になるしね」


これはそのまんまローブって呼んでいるらしい。


「まだ私は魔術師未満ですけどね。ローブなんてまるで魔法使いみたいですね」


「俺を呼び出せるんだから立派に魔術師じゃないか。精霊を呼び出せるほどの魔力を持つ魔術師なんて早々いないよ。自信を持って大丈夫だ」


「まだ制御が覚束無くて、首輪ならぬ腕輪をジャラジャラさせてますし、先生の召還具ですけど」


「それもまた魔術師っぽいよ。可愛いじゃないか。だけど出来ればもう少し華やかなものが良かったね」


なんて答えたら良いんだろうか。とりあえずこのまま流そう。


「ぽいですか。そういえば魔術師って少ないんですか?」


「魔術師って名乗れるのは少ないね。多少の魔力を持つ人間は結構居るけど、実際に自分の力だけで使えるのはほんの一握りだけだよ。そのほんの一握りの魔術師は、こんな日中から街をうろつかないからあまり見かけないしね」


気になる点が複数あった。魔術師は日中に何してるんだろう。先生のように研究だろうか。それとも昼夜が逆転しているって言うことだろうか。しかしそれよりも気になることがある。


「実際の力だけって他に何かあるんですか?」


「魔道具を使うために必要な魔力ってことだね。すでに完成している魔道具を使うんだったらほとんど魔力を使わないよ」


「魔道具を使うのにも魔力って要るんですか?」


「ほんの少しだけどね。動かすだけだったらほとんどの人間が出来ると思う。ただ少し値が張るから店とかだったら使用しているところも多いけど、一般の家だとなかなか手が出ないだろうね」


「先生の屋敷の中には溢れてましたけど、普通の生活で魔道具って珍しいんですか?」


「屋敷に明かりが点く魔道具ってあっただろう。あれは魔光具って呼ばれているけど比較的よくある物だと思う。ただし品質はばらばらで、屋敷にあるあれほど明るくなる物はほとんど無いね。良い物になれば便利だけど、品質が悪い時はランプや蝋燭にでも火を点けるほうがよっぽど明るいよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ