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今の私  作者: 夏月
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先には立たず

ラリズを不快にさせた理由も分からないままに謝りたくなった。ぼんやりしていた思考も冷や水を浴びせられたように一気に冷静になる。


思い返せばラリズは前回呼び出してしまったときも、今日顔を合わせてからも不機嫌な顔を見せたことが無かった。彼はいつも穏やかな笑顔を浮かべていて、常に柔らかな対応をしてくれていた。


だけどそんなラリズに対して私はいったい何をしているのか、あんまりではなかっただろうか。


前回はろくにやり方も分からない状態で無理矢理呼び出し、今回は我侭を言った私のせいでこんなところまで付き合せている。しかも時間短縮のために運んでくれたのにも関わらず、不機嫌な態度を取りお礼すらも言っていない。


普通ここまでされたら不機嫌にもなるだろう。自分のことばかりだった私自身が恥ずかしくなる。


と思ったところで、ラリズは今まで列の最後尾を目指していたと思われる行き先をいきなり変更させて歩き出した。手を繋いだままだった私も、もちろんその後を付いていくことになる。


どうやら列の先頭、土壁の途切れているところを目指しているらしい。

 

推測を立てながら、私は前を進むラリズの様子をそっと窺う。


謝罪の言葉をつむぐためには話しかけなければならない。しかし先ほどまでの自分の行動を考えるとなかなか思い切りが付かなかった。


先ほどまでよりも幾分か歩みがゆっくりになったおかげで、私の呼吸は多少楽になっていた。いきなり近付くから余計に辛いのだ。少しずつならば覚悟も出来るし、この臭いにも次第に慣れていくだろう。


ものすごく酷いわけではないのだけど、これはいったい何からの臭いなのだろうか。もしかしたらこれだけ人が集まっているのだから、何か臭いのきついものを運んでいる人がいるのかもしれない。


私たちの居たところからは少し距離があったけど、それでもラリズはゆっくりと進んで行く。しかし近付くにつれ、腕を繋いでいるにもかかわらず時々私を窺うように見下ろすようになった。


私は謝罪の言葉を考えながらも、ラリズの様子に不可解なものを感じてしまう。


私を見下ろすラリズの顔にはすでに不機嫌な色がなくなっていたからだ。むしろ私の方が彼に対して怒っているように、心配げに私の様子を窺っている気がする。原因が分からず次の行動に悩む。きっと私の眉間には皺が寄っていると思う。


ラリズは列に並んでいる人たちを無視したまま、その二人へと迷い無く進んで行く。


列に並ばなくて良いのだろうか。私は列に並んでいる人たちに見られている気がするのだけど。


不安に駆られた私が軽く腕を引いて歩みを止めさせようとしても、ラリズはお構いなしにそのまま進んで行く。ただ私のほうをちらりと見て穏やかな微笑をくれ、握り締めた手に僅かに力を込めてくれたけど私はそんなものが欲しいわけではない。


説明をして欲しい。大丈夫なのだろうか。


少し時間は掛かったけれど、それでもちゃんと目的地に着いてしまいそうだった。ちなみ目的地は私が思った通りにやっぱり土壁の途切れていているところ、列の先頭が目的地のようだ。


そこではファンタジーの定石通りに門番の人が検問を行なっているようで、二人の男性が列に並んでいた人たちと話している。


二人の男性は、私がここがファンタジーの溢れている世界だと知ったときに想像したそのままの鎧を着ていた。飾り気などがまったく無い、おそらく人体の急所のみをカバーしている分かりやすい鎧である。


こんな急に目の前に出ることにならなければ、列に並びながらきちんと確認が出来たものをと思ってしまうと少し悔しい。


ざっと見た感じ、金属で出来ていることは間違いないと思う。私の腕にはまっているようなおかしな効果もおそらくは無さそうだ。あちらでの鉄にごく近いもののようで、どちらかと言えばこちらの方が私には馴染み深いものに見えた。


とうとう列の先頭についてしまって、年甲斐も無く尻込みをした私は思わずラリズのほうに体を寄せていた。


「すみません、連れが具合を悪くしてしまって・・・」


しかし緊張で体を硬くしてしまった私と違って、ラリズの声はどこまでも穏やかだった。


思わず私は門番らしい人たちから視線をラリズに移してしまったけど、一歩下がった私の位置からではラリズの顔は見えない。


「これが通行証何ですけど、確認してもらえますか?」


ラリズが門番へと何かを渡す。手の平に収まるほどの大きさの板状の何かで紐がついているもののようだった。


今まで別々に行動していた男性たちは、何故か片方の門番がそれを受け取るともう一人も近付いてきた。二人は覗き込むようにしてそれを確認している。


しかし手の中のそれを裏返すと、今まで険しい顔で高圧的に動いていた二人が笑顔になった。


思わず私は拍子抜けしてしまい、訳が分からずラリズの様子を窺う。


いきなり友好的になった二人は、それを笑顔のままラリズに返した。


一度驚いていたようにも見えたけど、あれは何が書いてあるものなのだろうか。

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