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今の私  作者: 夏月
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後悔は後で

私は今、これ以上無いほど前言を撤回したいと思っている。


今日はすでに朝から何度もそう思っていたけれど、今現在が最高潮である。


何故なら私は現在ラリズに子供のように抱え上げられ、そしてとても信じられないようなスピードで森の中を移動している。全ての物が認識することが困難なくらいの速さで後ろへと流れていく様子を、呆然と眺める状況に追い込まれている。


ラリズは見渡す限りの森の中を、空中に浮かんだ状態で危なげなく進んでいく。木々の上に出るほど高い場所まで昇ると、空を飛ぶ存在の標的になりやすいという理由で進む場所は森の中だ。


私にはそんな知識は無いので、ラリズの説明に耳を傾けているだけである。ただし親切に説明されても、それに答えるだけの余裕が私には無い。何かと戦闘になるくらいならそれで良いと思うのみである。


この森はあまり背の高い草は生えていないようで、歩く分にはそれほど問題は無いと思う。


しかしそれはあくまでも歩く状態ならばで、木々の間にそれほど余裕があるわけではない。


明確な道もない森の中をこのスピードで移動するラリズは、いったいどういう存在なのだろう。周囲の木々たちがまるで自分から、ラリズのために道を明けているように見えるくらいだった。


私は出来れば目を瞑って全てをやり過ごしてしまいたかった。


事実ラリズに説明されながらも、森を進み出した当初は目を閉じてしまっていたのだ。だけどこのスピードで動いていると分かっている以上、遊園地の絶叫系の乗り物と同じで目を瞑って周囲の状況が分からないと余計に怖い。


だから結局私は両目を開いて、前方を見つめることしか出来なかった。現在進行形で私はいっそ気絶してしまえたらと、現実を直視したくないくらいの恐怖を感じている。


私はラリズが街へ行くのに、まさかこんな手段を取るとは想像もしていなかった。こんなことが待っているならば絶対に街に行きたいなどとは言い出さなかったものを。


ちなみに今の私の服装は、淡い水色の上着の上にさらにもう一枚羽織っている状態だ。


映画などで魔法使いが着ているコートのようなもの、ローブのようなものを着ている。ただし色は映画のようにはいかず、上着よりもさらに爽やかな水色をしている。


今私の両腕に下がりまくっている、先生に今日渡された腕輪の下の布がこれだった。


形だけなら本当に映画の中のローブのように見える。たっぷりとした布が使われていて、胸元で一度止める形になっている。大きなフードが付いていて、袖口も広く採られている。これを着ると多すぎる腕輪も上手い具合に隠れるようだった。


ちなみにラリズは、この前私が呼び出したときに着ていたものとは別の服を着ている。赤系の服であることは変わらないけど、前回のときに着ていた服は比較的きっちりとした服だったのに今回は幾分かラフなものになっている。私が呼び出したときには背中に流していた髪も、今回はゆるく紐で縛っていた。


ちなみに現在の私は、背負われているわけでも抱き上げられているわけでもない。いざという時に両腕を使えないのは困るというラリズの主張から、ラリズの左腕の上に腰掛けているような状態でいる。さらに恥ずかしながら、羞恥心よりも恐怖心が勝って私は腕を回してしがみついていた。


私が強引に自分を納得させた食堂で、注意点を確認した時からこの状態であった。


ちなみに街での注意点は、


一つ、勝手な行動は取らない。

一つ、声を掛けられても知らない人には付いていかない。

一つ、もし逸れてもラリズが見付けるまで動き回ったりはしない。


だそうである。


泣きたくなった。


まるで子供と母親の約束事である。母親は学校の先生に置き換えても良いかもしれない。


しかしラリズは、反論しようとした私を後ろからいきなり掬い上げるように持ち上げた。何が起きたのか理解できなくて、呆然としているうちに注意点を繰り返され話がまとまっていく。


私は特別身長が小さいわけではないし、あちらでの情緒不安定な生活と、こちらに来てからの強制的なシェイプアップによって、以前よりは多少はすらりとしたかもしれないが所詮それだけだ。あくまでも平均的な体格であると言えると思う。


だから私はとても片腕に乗せられような重さではないはずだ。


なのにラリズは揺らぎもしない。驚くくらいの安定感で危なげなく立っている。精霊って皆こんなに力持ちなんだろうか。


どちらにしろ抱え上げられている状態であることに変わりは無いので、私は今度こそかなり抵抗した。今までは言い出したくても言えなかった「買って来て下さい」も繰り出してみた。


しかし私には先生とラリズを説得することが出来なかった。


先生から借りた地図に載っていた、この屋敷と街の位置はかなり縮小されているということで、私が歩いて街に行こうとすると何日もかかるんですって。そしてせっかく用意したものを無駄にされるのは先生には我慢ならないそうですよ。


分かりました。私が諦めるべきなんですよね、これ。私が言い出したことですもんね。


どうやら諦める以外の選択肢が私には無いらしい。


何故ならラリズは私を持ち上げてから一度も降ろしてくれないし、そのつもりも無さそうなのだ。


喚く私をすっぱりと無視して、先生と普通に会話して普通に何か受け取って普通に出てきた。先生は見送りにすら出てきてくれなかった。


こちらに来てから私には諦めるものが多すぎると思う。泣きたい。

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