表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今の私  作者: 夏月
24/36

一夜明けて

やっぱり未だ未熟ということらしく、私の魔力を抑えるための用意だったらしい。


しかし宣言だけ宣言すると、先生はまた閉じこもってしまった。正直この展開に慣れ始めている私がいる。先生の行動も普通にスルー出来そうだ。


しかし翌朝一番、昨日の行動をした自分を罵りたくなった。先生が私に渡そうとする物を見て泣きそうになっていた。


「これ、必要なんですか・・・?」


「必要だ」


私は水色の布の上に置かれた、大量のそれを恐る恐る受け取ることになった。どんなに嫌がろうときっと結末は変わらないのだから、駄々をこねても仕方が無いのだ。


それは鈍い光を反射する金属だった。通常ならその濡れたように光る銀色には人を惹きつける魅力があるはずである。


「こんなにいっぱい・・・?」


「これは普通の金属より吸収する魔力の量が多い。数で補え」


出来れば私は直視したくない。それはどう見ても、私がトラウマを作った金属で作られている腕輪だった。


ただし今はめているものとは大きさは違っている。腕に通していない状態で直系が10cmくらい、幅が5mmくらい。繋ぎ目が無いところは同じようだけど、宝石などは付いていない。


しかし見た目、触れた感じ共に金属そのものであるところは、今腕にはめている腕輪ととそっくりである。こんなにたくさんあるのに拍子抜けするくらい軽いところも同じだった。


ただし今私が先生から受け取った腕輪の数は一つや二つではない。


数で補えと言った先生の言葉どおりに何十個もある。いくら腕にはめている物より随分細いとはいえ、これだけ付けたら私の手首もさぞやがっちり固定されるだろう。正直私は前言を撤回したくなっている。


本日私が起きて下の階に降りていった時には、すでに先生の準備は終了していたようで食堂で私を待っていた。


先生の姿を見つけてしまった私には、寝過ごしたのかと思って冷や汗が流れた。ちなみに焦って確認にしたところ、実際には私はいつもよりも早いぐらいの時間にちゃんと起きていた。


いつも大体眉間にしわを寄せ、青白い顔をして、不機嫌そうな先生ではある。


しかし本日の先生の機嫌は今まで見た中では最も悪いようだ。体中から近寄るな、話しかけるなという空気が滲み出ている気がする。何も知らない子供が見たら泣き出しそうなほどだ。


私はそんな先生を気まずい思いで見ることしか出来ない。これほど不機嫌な様子の先生を見ると、止めたほうが良いのかなという気もひしひしとしてくる。我侭だったのかもしれない。


しかしそのために用意してもらっているのだ。せっかく準備してもらったものが無駄になってしまうので、ここまで来たら中止も言い出せない。


私は初めての街での買い物、不足していた野菜や果物を入手出来ることに多少は浮かれていた。食に対してこれほど積極的になるとも思っていなかったので自分でも驚いている。食べ物って大切だと痛感した。


だからこそ口に出したことだったのだけど、まさかこれほど不機嫌な先生を見ることになるとは思わなかった。


「一人で出掛けても街まで辿り着けない」


先生に釘をさされてしまう。眉間のしわが深い。


私はさらに前言を撤回したくなった。溜息を吐きそうになるのは我慢する。


何故なら私は、誰かに頼むのは申し訳ないと思ったから行きたいと言い出したのだ。


私の今回の目的は街に行くことではなく、野菜や果物などの食材を手に入れて食生活の改善を目指すことだった。新しい食材を手に入れることが目標である。実は私自身が街に買い出しに行かなくても、誰か他の人に食材を仕入れてもらうだけで十分に目的は達せられる。


しかしいきなり最初から躓いてしまった。


一人で行くという選択肢が無い以上、私の行動は前提から破綻してしまっている。


私の隣ではすでにラリズが待機してくれている。私が召還したわけでは無いからきっと先生が呼んだのだと思う。先ほどの先生の言葉とあわせると、何故彼がここにいるのか簡単に予想がつく。


きっと彼は私の買い物に付き合うためにここにいる。先生の中で私の本日の行動は、ラリズに付き合ってもらいながら買い物をすることになっている。


これは予想して然るべきことだったのかもしれない。ほぼ何も知らない引きこもりが初めて外に世界に触れるのだから、確かに通常なら付き添いが必要だろう。


実際、私が屋敷の外に出たのは数えるほどしかない。それですら屋敷の裏にある花畑に行ったことや、気分転換の体操をするのに外に出ただけである。屋敷が見えないほど離れることになるのは正真正銘これが初めてだ。


だけどこの屋敷はとても深い森の中にあるのだから、しょうがないことだと思う。


ちなみにラリズには忘れないうちに謝っておいた。結局先生との会話では別のところで決着してしまったけど、気になっていたのは確かなのだ。私みたいなのは特に出来ることは、出来る時にやっておいたほうが良いだろう。


しかしそんな私の様子を見て、先生はさらに気分を降下させたらしい。これ以上深くなりようが無いと思われる眉間のしわが更なる進化を遂げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ