外への興味
先生は本当に二階を物置として使用していたようだ。
私が自室として使用している部屋以外にも、二階には幾つもの部屋があり作り付けのベッドや棚が用意されていた。ただしそんな部屋のほとんどには乱雑に物が押し込められていた。それは私がベッドを探したときに、そんな部屋に遭遇しなかったのは幸運だと思うくらいには多かった。
一応、種類ごとに分けてはあるようだけど、棚に入りきらず床にまでビンが散乱している部屋や、どう使うのか皆目検討の付かない道具に占領されている部屋もある。
しかし一番の謎は、床の上に石が積み上げられている部屋だ。
石の形も大きさもばらばらで、小指の先ほどの大きさから、私では持ち上げるのに苦労しそうな大きさの物までが纏めて置いてあるようだった。ほのかに色付いている物もあるようだけど、ほとんどはただの石もしくは岩に見える。
さらに削り出してきたばかりと思われるごつごつした物から、明らかに手を加えたと分かる物までが混ぜて置いてある。宝石のようにカットされた物から、床を滑らせれば転がりそうなほど研磨された球体状の物までがあった。
それらがすべて適当に積み上げられている。あえて言うなら私には、手の加えてあるものがそれ以外のごつごつしたものによって傷付かないのかが気になるところだ。この石も何かに利用できる物なのだろうけれど、どうしたら良いのか分からないのでそのまま放置してある。
ラリズは一応そんな部屋の掃除もしてくれたようで、私が気が付いたときにはもう埃は積もっていなかった。
ここにある良く分からない道具は、おそらく魔道具なのだと思う。私は先生から渡された腕輪の参考になればと、気分転換に併せてこの道具を見て回ることもあった。
なぜなら獣がいるという以前の先生の言葉が気になって、たとえ気分転換にでも外に出るのが怖いのだ。外の様子を伺うのは、せいぜい二階の窓を開けて覗くぐらいにしている。
しかし外は見れば見るほど外は深い森のようで、先生の言葉を想像させるような状況でしかない。今のところ獣の姿を見たことは無いが、もし万が一を考えるととても行動には移せない。何処から覗いてもここ以外には他に家があるようには見えないのだ。
ぽつんと開けた場所にこの屋敷だけが立っている。
ただ眼下に見える花畑にはとても興味があるので、そこぐらいまでなら行ってみても良いかもしれない。本当に綺麗な花畑なのだ。先生の言葉さえ無ければあそこで勉強したいぐらいだ。ただしやっぱり先生には一度確認してからにはしようとは思っているけど。
ちなみにいきなり動き出されても怖いので、道具にも手を出したりはしていない。純粋に眺めているだけだ。
私は本を読み出してまだ数日しか経っていないので、魔力への理解が進んで制御できるようになったとはとても言えないと思う。
さらに腕輪にだって勝手に魔力が取り込まれていて、呼ぶだけで精霊が出てきてくれたりもするのだから、何が引き金になって動き出すのか分からない。用心するに越したことは無いだろう。
「召還具と魔道具ってどう違うんですか?」
ある日の食事後に聞いてみることにした。
「同じものだ」
「呼び方が違うじゃないですか?」
「召還することの出来る魔道具を召還具と呼ぶだけだ」
「召還具も魔道具なんですか?」
「魔道具だ。魔石と魔術により稼動している道具はすべて魔道具と呼ぶ」
不思議な働きをするものを全般的に魔道具と呼んでいるようだ。構造が分からなければすべて魔道具と呼んで良いのだろうか。分かりやすい。
「魔道具に使う材料って決まっているんですか?」
「特に制限は無い。木材よりも金属に魔力の適正はあるが絶対でも無い」
材質のことも聞いてみた。触っただけでいきなり不思議な反応をされたら私は逃げ出す。心の準備くらいさせて欲しい。
「腕輪の金属って珍しいものなんですか?」
「珍しくは無い。金さえ出せば手に入る」
金さえ出せばって、やっぱり高価な物の気がする。普通に流通しているけど値が張るって意味じゃないだろうか。出来るだけ扱いには気を付けよう。
「この屋敷にある道具は先生が作ったんですか?」
「そうだ。他人のものを使うぐらいならば自分で作る」
そこまで言わなくて良いと思うんですけど、どうなんでしょうか。そういえば、
「先生は何の研究してるんですか?」
「私の研究は術式の効率化だ」
「使い方は自分で分かるって言ってませんでしたか?」
「魔力のある存在は本能で力の使い方を知っているが、術式への理解を深めるとさらに効率が上がる」
終わらない研究っていうやつかもしれない。効率化の先の効率化。だがそうなると、私が帰れるのはいつになるのか判らない。