単調な日々
ひたすらに本を読む。分からないことは書き出して、先生に確認することは纏めておく。
はっきり言って、内容を理解しているか聞かれたら答え辛い状況にはなっている。それでも読む。とりあえず先生から指示のあった順番に読んでみる。
先生の貸してくれた本の中には、何故こんなものがと思うような挿絵が多く載っている絵本もあった。先生が分からない。疑問は増えるばかりだ。
本の内容はばらばらで、文字の量もさまざまだった。なのに続けて読むことによって、前に記載されていた内容が理解出来ることもあった。気が付いたら前の本に戻って読み直すこともあって、量的にはあまりはかどってはいないと思う。
それでもとりあえず読み続ける。目も頭も酷使しすぎて、頭痛がしそうな現在である。こんなに本を呼んだことは学生のころでもなかった。何となく受験勉強を思い出した。
食事は先生と一緒だったり、一緒ではなかったりする。
一緒になった時は、食事をしてお茶をして質問をする。鬱陶しいかもしれないけど先生も根気良く付き合ってくれる。質問さえすれば先生は必ず答えてくれるようだ。
ただし先生は、自分の生活スタイルを変えるつもりは無いようで基本自由には生きている。私は出来るだけ自分で決めた自分の部屋で過ごすようにしているので、会えない時は本当に会えない。
聞きたいことが溜まると、気分転換を兼ねて料理に時間を掛けてみる。
ただし道具の使い方には大分慣れたけど、食事の内容にあまり変化は無い。非常食に出来そうなパンや乾物類、調味料、根菜だと思われる野菜など。現在、保存の利きそうな食べ物にはかなりの余裕があるのだけど、葉物野菜や果物にはまったくお目にかかれていない。
当たり前だ。それらは元々この厨房には無かったのだから。
ここにある材料で料理をしているのだから、調達してこない限りこの食生活が続く。しかし手に入れるためには資金が必要になるし、私の魔力は不安定のようだから我慢して何とか工夫しようとしている。
それ以外は私は基本自分の部屋で本を読んでいる。
私が自室に選んだ部屋は、窓際中央には大きなベットが置かれていて、そして窓を挟んでさらにその両側の壁に作り付けの棚が用意されている。非常に気持ちの良い、暖かな場所だったのだ。
この屋敷の二階にはここ以外にも幾つか寝室があった。どうやら基本の配置はこれで統一されているようだったけどこの部屋が一番過ごしやすい。
すべての寝室は、家具の大きさなどが変わらない分それ以外のもので変化をつけているようだった。使用している壁紙やシーツ、カーペットを始め、ベットや棚の彫刻まで違うようだ。そのために驚くほど部屋自体から受けるイメージも違った。
私の選んだこの部屋はおそらく春のイメージで整えられているのだと思う。
ベットの天蓋やカバーの刺繍、備え付けの棚や机に施してある彫刻などからは暖かな季節を連想させる。全体的にはクリーム色で、ところどころアクセントに桃色や水色、黄緑などに白を足したようなパステルカラーが入っている。
華やかに見えて落ち着いた、寛いだ雰囲気がある。塞ぎがちの気分も受け止めてくれるような穏やかさを感じる気がする。今の私に足りないものを助けてくれているような気もした。
しかし私がこの部屋を選んだ一番の理由は部屋の中央にあるベットだ。
最初に潜り込んだときから、埃にまみれていたとはいえ十分な睡眠を提供してくれたこのベットを私は気に入ってしまったのだ。どの部屋のものも素晴らしかったのだけど、一度横になったため何となく愛着がわいてしまっだと思う。
ちなみにこのベット、地球にあるホテルのベットなどを想像してはいけない。何といってもホテルにだって無いようなとんでもない大きさがある。いったい何人で寝る予定なんですかと聞きたくなるような広さだ。
ちなみに他の部屋にあったベットも総じて皆大きかった。この屋敷のベットが特別大きいのか、それともこの世界のベット自体が大きいものなのか悩むところではある。
そしてこの屋敷のベットには、デザインこそ違うものの二階にあるすべてのベットに天蓋が付いていた。
ただし部屋ごとに違うイメージで用意されているようで、受ける印象はやはりまったく違う。天蓋と言うとふわふわとしたものを私は想像しがちだったけど、男性を意識していると思われるすっきりとした物もあった。
私の選んだこの部屋のベットは幾重にも薄い布で覆われていて非常に細かな刺繍が施されている。はっきり言って地球では博物館や美術館にでもありそうな緻密な装飾である。明らかに手で行われた、どれほどの時間がかかったのか想像も出来ないようなものが随所になされている。
地球でこれを目にしたら、ちょっと横になるのを躊躇うような代物ではあった。しかしこの部屋のイメージにはぴったり嵌っている。実は私も改めてみた時は大分呆然とした。
しかし掃除を手伝ってくれたラリズはこの部屋を自室にすることに決めたのだの思ったらしく、掃除を私に任せてくれた。
というかはっきり言うと、私はこの部屋の掃除しかしていない。他の部屋はすべて彼がしてくれていた。
しかもそれは、女性の部屋を男性である自分が手を付けるわけには行かないという気遣いだったようなのである。気付いたときにはすべてが済んだ後で、今さら変えるというのは非常に申し訳無いことになっていた。
先ほどの理由は実はすべて跡付けなのである。私が気に入ってこの部屋にしたのだと思いたいのだ。