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今の私  作者: 夏月
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何がどうして

私は先生にいきなり放置されてしまったしまったため、食堂の椅子に座ってじっと考え込んでいた。


ちなみに先生は今何をしているのか?


答えは研究のまとめ。先生が倒れる原因になった、というより倒れるほど集中していた研究のまとめをしている。


実は先生があそこで倒れていたのは、研究に夢中になりすぎて時間の感覚を忘れていたかららしい。食事も睡眠も全てを後回しにしてその研究に取り組んでいて、そしてその結果を得たことに満足してあんな状態で倒れることになったらしいのだ。

 

出来れば知らないでいたかった情報である。


しかし今重要なのは、先生がその研究結果をきちんと把握していても、その過程を書類にまとめるようなことはしていなかったということなのだ。


私はあの後、料理のことを了解してもらえたことにほっとしながら、先生と一緒に立ち上がった。てっきり台所の使い方を教えてもらえると思っていたのだ。


だけど、先生にとってこれからの行動の優先順位はすでに決まっていたらしい。


先生は突然研究の続きがあると宣言すると、簡単に現在の研究の説明などをして、あっという間に閉じこもってしまった。


ちなみに私には、その研究の内容を理解することは出来なかった。


私に理解出来たのは先生がその研究にいかに時間をかけたのかと、そのために先生がどれだけ不摂生な生活をしていたのかである。


他に分かったことといえば、先生が倒れていたあの部屋が研究室で、その奥の、私が出口かと思って覗いたドアの先がまとめものなどをする書斎だったということだけだ。どうやら先生はそこに篭っているらしい。


私も慌ててこの後の行動を確認しようとはしたのだけど、残されたのは好きにしろの言葉だけだった。


研究が終わればまた質問に答えるとは言ってくれたけど、それがいつになるのか、はっきり言ってあの先生の様子を見る限りまったく分からない。何しろ先生からは、研究にすべて捧げているような研究者タイプのにおいを感じるのだ。


そんな訳で、私は食堂にぽつんと座っている。出来ればこれから何をすれば良いのかの指針くらいは欲しかったと思う。


そこら中に放置されている本を、いくつも手に取って確認してみた。確かに、何故か知らない文字なのに読むことだけは出来た。


ただしそれだけだ。はっきり言って内容はまったく理解出来ない。おそらく私には基本が抜けていて、これの前に読むべきものが山とあるのだ。


待っているだけなのて時間の無駄だし、何をすれば良いのかも分からない。闇雲に手をつけて事故でも起こしたら目も当てられない。私にはここの常識が無いため、一人で放置されてしまうと何がして良いことなのか、拙いことなのかの判断が付かない。


自分で考えたことなのに自分にダメージがきた。とりあえず非常に困っていることは確かだけど情けない。


「先生、私はまだこれの使い方すら自信がありません」


私は先生が渡してくれた、どうやら私を助けてくれる何かが現れるらしい召還具を見ながら呟く。空気に溶けてく自分の声が虚しくて、椅子にぐったりと体重をかける。


しばらく左腕に付けた召還具を睨んでいたが、このままでは何も解決しない。


こうしている間にも刻々と時間は過ぎているのだ。このままではお昼になってしまうし、とりあえず私は精霊を呼び出してみることにした。


この召還具にはもうすでに驚かされているため、かなりの逡巡の末の決意だった。


朝のことを思い返すと、使うのに更なる躊躇いが生まれる。あの時はあまりに驚きすぎていてそれどころではなかったのだけど、もっと詳しく確認しておくべきだっただろうか。


これはあんなことが普通におきる腕輪なのだ。地球の常識は通用しない。やっぱり最初の一回くらいは先生の前で行なうべきだろうか。


しかし私は子供では無いのだから、頼りっきりの生活を送るなんてわけにもいかない。これからの生活、そんな調子で乗り切っていけるのか。非常に簡単な方法しか教えてもらえなかったけど、先生は確かに呼ぶだけだと言っていたのだ。


覚悟を決めて、今まで見つめていた左手首の、腕輪の赤い宝石の上に右手をかざす。


いったい何が出て来るのだろう。軽い感じで先生が渡してくれたから小さな動物とかだろうか。魔法使いといえば基本は猫だろう。注意事項などは一切無かったので、危険な存在では無いと思う。


もし失敗してしまった時には、呼んでみたけど駄目だったと正直に伝えよう。何か壊すようなことにはならないだろうし、呼ぶだけだと言っていたのは先生だ。きっと許してもらえる。


「出て来い、出て来ーい」


優しく声を掛けてみたけど腕輪に反応は無い。


座ったままだと、何か間が抜けている気もしてきた。これでは駄目なのだろうか。


眉間にしわが寄った。私は平常心を心掛けながら椅子から立ち上がり、足を肩幅ほどに軽く開いて大きく深呼吸する。


とりあえず腕輪に何かをを込めるつもり、気合でも入れるつもりになって、力を込めて呼んでみようと思う。具体的なやり方は知らないのだから出来ることはしてみよう。


漫画か何かで精霊を呼び出す呪文てあっただろうか。それとも日曜日の朝の魔法少女の掛け声を上げてみるべきか。あっこちゃんやサリーちゃんの呪文でも許してもらえるだろうか。


他に私が知っている呪文なんて、ずいぶん昔のゲームくらいしか無い。ただしその場合、残念だけどファイアやサンダーなど、そのままの効果がある攻撃以外の呪文の内容は分からない。


そんなことを考えていたからか、なかなか集中できない。


しばらくその体勢でいた。


だけど次第に、恥ずかしくもなってきた。もう諦めてしまっても良いだろうか。


しかし手を下ろし、体の力を抜く寸前に、声が聞こえた。


「呼んだかな?」


そして本当に出てきた精霊っぽいの。ただし人型、どう見ても人間に見える。

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