本当と認めて
「名田にはすごく悪いと思う。初めての大会ベンチ入りだったのに、急に外すなんて。自分がやられたら、顧問を恨んじゃうし、練習もさぼっちゃうだろうな。」
だったら外さないでくれないかな……?
自分でこれからどうなるか予測付いてるんじゃないの。顧問を恨んで、練習をさぼるってさ。
「私は、まだまだ名田は練習すれば伸びるかなと思う。」
裏をひっくりかえす→練習していないから伸びていない→へたくそ?
えっ……?
1年生を落とさないで2年生を落とすの?私って、そんなに下手なの?
隣の後輩の声が聞こえてきた。
「うわ、名田先輩落とされてるし(笑)」
「アンタも1年なのによく補欠入れるよね。すごい。」
「いや、別に普通にやってるし(笑)先輩みたいに真剣にやってないけど。まぁ、ふつーに(笑)」
最低……。ミカちゃん、殺していい?
ミカちゃんみたいなちゃらちゃらやってる後輩に負けちゃうなんて、私って何なんだろう。お盆も休まず学校に来て毎日シュート打ってたし、来れない日は家でずっとドリブルしてた。その度に親に怒られ続けたんだけどさ。はまりこむようなパソコンや、ついつい見すぎちゃうテレビも無視して。朝は授業が始まる1分前までバスケして、とにかく頑張ってきた。
今までの思い出が蘇ってきた。
ボールを打ちすぎて血豆ができた。ボールばっかりいじってて、話題についてけなかった。体育のバスケで張り切ってシュートを打ち、見事に失敗した事。部活が好きすぎてバスケの全国大会までお小遣いで一人旅した事。これはすごく勉強になった。みんなすごかったし。バレーボールでバスケのようにキャッチしちゃった事。何度もして、かなり怒られた。
じわじわとなみだが出てきた。
「こら、浜崎。しゃべるな。」
「すみませーん(笑)」
あんた、後でしめてやろっかな。ちゃらちゃらしやがって。
「それじゃあ、練習始めて。はい、解散っ!」
へっ?
話は終わったようだ。みんなが立ち上がり始める。私も立ち上がって、冷水機に向かった。
すれ違う誰もが憎い。笑いながら私をみてる。「コーチに勝った転校生に落とされた下手なやつ」って目で見てる。あざ笑ってる。すれ違う時に聞こえる会話は、くだらない事だったとしても、きっとどうせその場だけ。私がいなくなったらあざ笑うんだよ。バカだって。どうせ、名田詩緒璃はへたくそだって。ひどいよ。バカ。
亜芽。何でこの学校に転校してきたの?確かに、We are 黒星☆なわが部にきてくれたのは大きいと思う。初戦敗退ばっかりな部にも、かすかに希望の光が見えてきた。かわりに、私に見えていた薄い希望の光は閉ざされた。もう二度と、光る事はない。
水を飲んだ。他の部が列をつくった。
ひたすら飲んだ。自分の心を潤すために、飲んだ。泣いた分の水を飲んだ。顔と髪がぐっしょり濡れ、私はトイレに走った。鏡を見て、自分の姿を見て、また視界がかすんだ。背中とシャツがべっとりついているのが、練習の証。
トイレにこもろう。もう、出たくない。私の姿を見せたくない。
今までの練習時間を、かえしてほしい。っていうか、もう消えたい。
アニメで自殺するシーンを思い出した。
「待ってよ、詩緒璃。ねえ、待って。詩緒璃!」
私から希望を失った女、「石川 亜芽」の声がした。
「出てきてよ。今日は顧問に言った。詩緒璃のサポートに回るって。だから大丈夫だよ。出てきて。」
扉をがむしゃらに叩く亜芽。
「お願いだから、ねえ。私もまさかこんな展開になるなんて思ってなかったもん!」
「嘘でしょう?亜芽。どうせ、どうせ……今までレギュラーになれなかったからここに来て補欠入れてレギュラー狙えるからすごく喜んでるんでしょ?違うの?……ねえ!」
「そりゃそうだけどさ……。」
言葉を濁らせる。涙で何も見えない。
「そうなんじゃない!ひどいよ……ひっく。初ベンチ入りだったんだ。今までベンチだったから、毎日頑張ってきて、ダメだった。辛い。もう練習したくないよ……。」
「何言ってるの。詩緒璃。あなたは上手だよ。」
「嘘でしょっ?どーせ私の事、クズって……下手で……ブスって、思ってたんでしょ?帰ってよ。」
「え?」
「どっか行ってよ!ばか!」
「じゃあ、どっか行くよ。」
どこか怒った、亜芽の声。
「私は詩緒璃を一度もクズって思ったことないし、下手って思ったこともないし、可愛いと思う。いつまでも待ってるからね。名田さん。」
ばたばたと足音がした。いなくなったみたい。
…………
私って、ばかだ。せっかく亜芽が来てくれたのに。また一人友達を失った。
それを思うとちょっと切なくて。でも練習しないといけないんだと思って。まあそんな理由より、トイレが暑くて(笑)。体育館にもう一度リベンジしにいった。
顧問もコーチもいたけど、誰も何も言わなかった。
涙と汗が混じって、変な顔になったけど、何も言わなかった。亜芽は悲しそうに私をみつめるだけ。