転校生
広い体育館も、それぞれの部がコートを使うとかなり小さく感じられる。私の部も、コートが小さい。
練習を始めるためにボールを取りに行く。
「そういえば、詩緒璃、佐藤ティーチャーに呼ばれてたよ。行った?」と、部長。
「え?行ってない行ってない。」
「早く行かないと、怖いから行ってらっしゃい。」
「分かった。」
佐藤先生は、私のクラスの担任。女性だけど、すごく気が強いし、かっこいい。まさに、イケてる大人のオンナって感じ。その分皆には恐れられてるんだけどね。
私はびくびくしながら職員室に向かった。途中で、見知らぬ制服の女の子とすれ違った。
「えっと……。先生、私に何か御用ですか?」
「ああ、名田。終礼で渡すのを忘れてたんだ。はい、親御さんへのお知らせの紙。」
「あっ、ありがとうございます。」
私はその紙をもらい、部に戻る。
「よーこが言うような感じじゃなかったじゃん。あーめんどっ。」
本音をぶつぶつ言いながらドアを開けると、そこにはさっきすれ違った制服の違う女の子が立っていた。
「あっ、あの。失礼ですが、2年2組の生徒さんですか?」
私かと思って口を開くと、そこにいた同学年の子グループが答える。
「うちは2年4組だけど?」
「あたしは2の3。転校生?」
「はい。」
「そうなんだ。うち、ミコ。ミコって呼んでね。あなたは?」
「石川亜芽です。」と、転校生。
「あめ?」
「はい。えっと、島谷ひとみさんの『亜麻色の髪の乙女』の『亜』と、草花の『芽』で亜芽です。」
「面白い名前だね。飴食べたくなってきた。あたしはユウタ。優しい歌。よろしく!」
なんだ、私じゃないんだ。自然に背中が丸くなった。
「あ、あのっ!貴方は2年2組ですか?」
振り返ると、その子だ。
「あぁ、あの子?あの子はちょっと暗いし浮いてるからほっときなって。」
聞こえてるよ。
「名前は?」
「えっと、何だっけ?名田さんじゃない?」
「そうなの?」
「うん。まぁ、知らなくて当然だけどさ。」
「何組なの?」
「うちのクラスに居なかったと思う。」
「あたしのクラスも。2の1か、2の2か、2の5か、2の6じゃない?」
「どうもありがとう。これからよろしくね、ミコ、ユウタ!ところで何部?」
「うちら剣道部だよー。」
何でこんなに聞いてるかって?それは、私が聞きたいから。すごい聞き耳立ててる。
後ろから足音がしてきた。
「すみません、あの、貴方は2年2組ですか?」
振り返る。
その子は、ボブヘアの焼けてる女の子だった。あと数週間で夏休みだけど、もう焼けてるだなんて、すごい。
「貴方は2年2組ですか?」
「はい。」
「良かった!私、石川亜芽って言うんですけど、来週からこの学校に転校するんです。2年2組に入るので、お知り合いを作ったほうがいいかなと思いまして。」
「そうなんだ。私、名田詩緒璃。亜麻色の髪の乙女の『亜』に、草花の『芽』なんでしょ?私は、詩を書くの『詩』に、へその緒の『緒』、瑠璃の『璃』だよ。よろしく。」
「うん!」
それから一息も尽かずに、私たちは仲良くなった。
「詩緒璃はバスケ部に入ってるの?」
「うん。やっと今度の大会でベンチ入りできるぐらいへたくそだけど。」
「そうなんだぁー。私もバスケやってるよ。まだまだ下手だから、毎日練習してる。この学校でもバスケ部入るね。仲間が出来てよかったぁー。」
「そうだね。」
その時。
バスケのボールを持った子が、体育館前でしゃがみこんで話していた私たちにちかづいた。
「ちょっと詩緒璃!練習してよぉ。」
「あっ、ごめん。でも紹介しなきゃ。あのね、この子今度転校してくるんだけど、バスケ部なんだって!」
「そうなの?えっ?どこまで行った?」
「県大会ベスト16。」
けっ、県大会ベスト16???初戦敗退5回目のWe are 黒星!みたいな私たちと違うなぁ。強い。
「まぁ、私は補欠でカップラーメンが出来るぐらいのみ試合に出ただけなんだけどさ。点も入らなかったし。」
なんだ、弱いじゃん。
「ほーら、ふーちゃん、詩緒璃。練習してよ。」
不意打ちで現れた部長の言葉に、私たちは部に戻ることとなった。
部長と私は、亜芽とメアド交換した。