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覇道戦国 ~鳳凰寺家、天下統一…その先へ~  作者: 1009


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第六十四章 ―乱世の連鎖―

一 龍野城の笑い声

播磨国、西播磨。

龍野城は、揖保川の西岸に築かれた城だった。

背後に鶏籠山があった。

標高百八十メートルの山の頂に主郭を置き、山の斜面に段々と曲輪を連ねた山城だった。

揖保川が、城の東側を流れていた。

その川が——天然の堀として機能していた。

川の向こうには、城下町が広がっていた。

漁師の家。

商人の家。

職人の家。

揖保川の水が、城下町を潤していた。

北には播磨灘が広がっていた。

西には山が続いていた。

西播磨の要衝だった。

浦上氏との長年の争いの中で、この城は何度も攻められ、何度も守り抜いてきた。

その城の一室で——笑い声が響いていた。

「わははははーーー!浦上宗景が宇喜多に討たれおった!これほどの笑い話があるかーーー!」

赤松政秀だった。

龍野赤松氏の当主。

豪快な男だった。

体格がよく、声が大きかった。

その大きな笑い声が、城の廊下に響いた。

傍にいた重臣が、少し眉を寄せた。

円山利真だった。

「——して殿。これから我ら龍野赤松はどのように動きますか?」

政秀が笑いを収めた。

顔が変わった。

豪快から——鋭さに。

「うむ、浦上からの反鳳凰寺大連合の誘いがあった時は、何の冗談だと思ったものよ」と政秀は言った。

「浦上とは長年争ってきた。今更手を組めるわけもなかろう。そう思って誘いを断り、反鳳凰寺大連合の動向を探らせておった。そしてもしものために準備だけはさせてきたが——」

「ではーーー」と円山が言った。

「うむ、浦上が死んだんだ!」と政秀は言った。

その口元が、不気味に曲がった。

「備前は切り取り放題よ。龍野赤松は備前に出陣じゃーーー!」

「承知!すぐに出陣の準備をし出立させます」と円山が言った。

「わかっておろうが——一刻を争うぞ!」

政秀の声が、部屋に満ちた。

「鳳凰寺と宇喜多が動き出す前に、備前を切り取れるだけ切り取れ!」

「はっ!皆の者、聞いた通りだ!出陣だ!!急げーーー!」と円山が叫んだ。

「応ーーーーー!!!!」

城の中が、一瞬で動き始めた。

甲冑を着る音。

馬が引き出される音。

足音が廊下を叩く音。

揖保川の音が聞こえていた。

政秀は一人、それを見ていた。

「ふふふふふ——面白くなってきたわ。これぞ乱世よ——」

不気味に笑った。

その笑いは——城下に届くほど響いていた。


二 御着城の謀

播磨国、東播磨。

御着城は、平野の中に築かれた城だった。

市川が、城の南側を流れていた。

周囲を堀で囲まれた、平城と山城が合わさったような形をしていた。

石垣は低く、土塁を多く用いていた。

しかし——守りは堅かった。

平野の真ん中にあるため、遠くからでも城の旗が見えた。

城下には、商家が並んでいた。

交通の要所だった。

東播磨の中心に位置し、多くの道が交わっていた。

その城の一室で——三人の男が向かい合っていた。

小寺政職。

黒田職隆。

黒田官兵衛。

「官兵衛の言う通りになったのう」と小寺は言った。

声に——感嘆があった。

「鳳凰寺、毛利が反鳳凰寺大連合を下す。その知らせを聞けば必ず龍野赤松が動き出すと——」と職隆は言った。

「宇喜多がまさか浦上宗景殿を討つとは想定外でした」と官兵衛は言った。

二十一歳の若者だった。

しかしその目は——落ち着いていた。

焦りがなかった。

「官兵衛でも読めんことがあるのか——」と小寺が言った。

少し面白そうに。

「はっ、まだまだ未熟もの故、申し訳ありませぬ」と官兵衛は言った。

「構わん。大凡の流れは官兵衛の申した通りであろう」

「して官兵衛——我らと小寺様は今後どのように動けばよい」と職隆が言った。

官兵衛が口を開いた。

「以前からお話した通り、赤松宗家・赤松義祐殿と協力し、龍野赤松領に向けて出陣致します」

「赤松義祐殿は確かに協力してくれるのじゃな?」と小寺が言った。

「はっ、願ってもいないお誘い。是非にと——その時までしっかり準備をしておくと、確約していただきました。書状にも書いていただいた次第」と官兵衛は言った。

「龍野赤松とは、粘り強く戦うのであったな?」と職隆が言った。

「龍野赤松に勝てるなら勝ちにいきますが、無理をして勝ちを取りに行く必要はありませぬ。此度の戦は——負けぬ戦をすることが肝要かと」

「粘り強く——負けぬ戦か」と小寺は言った。

「その後はどうなる?」と職隆は言った。

「鳳凰寺を播磨に招き入れまする」と官兵衛は言った。

「そのようなことは可能なのか?官兵衛」と小寺は言った。

「此度の龍野赤松のやり方は——いくら乱世とはいえ、火事場泥棒にも等しい行為。鳳凰寺様は決して好みませぬ」と官兵衛は言った。

「鳳凰寺殿とやり取りをしている官兵衛ならば、間違いはないであろうのう」と小寺は言った。

「まさかここでお前と鳳凰寺様のつながりが生きてこようとはな——」と職隆は言った。

「これも何かのお導きかと」と官兵衛は言った。

「して、その後はどうする?」と小寺が言った。

「はっ、龍野赤松では決して鳳凰寺には勝てませぬ。龍野赤松が敗れた後は鳳凰寺様に播磨を救っていただいたお礼と一緒に、小寺様が鳳凰寺に臣従いたす旨をお伝えします」

「備前に出陣した龍野赤松に対して、赤松義祐殿と協力した我らが無下に扱われることも——ないか」と職隆が言った。

「父上、それだけではありません。鳳凰寺様は我々の行いはきちんと評価してくださいます。そのご評価を頂いた後に鳳凰寺様には後ろ盾として、その後の播磨国内での小寺様の地位を盤石なものに致したく存じます」と官兵衛は言った。

「——して、鳳凰寺様への連絡は?」と職隆は言った。

「赤松義祐殿、鳳凰寺様への遣いはすでに出してあります」と官兵衛は言った。

「相変わらず判断が早いな」と職隆が言った。

「なるほどのう——よし、全て官兵衛の言う通りにいたそう」と小寺は言った。

「ははっ」

黒田親子が、平伏した。


三 移動指揮所、連鎖する報告

移動戦闘指揮所。

その建物は、備前の後方、小高い丘の上に設置されていた。

外見は——金属製の大型の箱が複数連結されたような構造だった。

アンテナが何本も立っていた。

発電機の音が、低く響いていた。

中に入ると——大きなモニターが並んでいた。

複数の映像が、同時に映し出されていた。

操作盤が並んでいた。

通信機器が並んでいた。

部屋の温度は管理されていた。

外の暑さとは別世界だった。

ヤタガラスの映像が、常時流れていた。

複数の地点を、リアルタイムで映し出していた。

その一角に——時貞が座っていた。

成瀬が横に立っていた。

小早川隆景と吉川元春が、並んで座っていた。

モニターには——鉄の静寂作戦が行われた城下町の映像が映し出されていた。

壊れた家屋。

燃えた家屋。

焼け跡。

路上に残る痕跡。

凄惨な光景だった。

そこへ——風間が入ってきた。

諜報部の風間だった。

「上様、至急ご報告したいことがございます」

「なんだ?」と時貞は言った。

「播磨の龍野赤松が——備前に進軍を始めました」

「なんだと!」と時貞は言った。

「天元——別モニターに龍野赤松を映し出してくれ」

「はい、現在の龍野赤松を映し出しました」と天元が言った。

別のモニターに——映像が切り替わった。

播磨から備前に向かう街道。

その街道に——大勢の兵士が並んでいた。

旗が風に揺れていた。

龍野赤松の旗だった。

「これは——」と元春が言った。

絶句していた。

「こんな一瞬で——動きが分かるのか?」と隆景が唸った。

「龍野赤松の動きが早いな」と時貞は言った。

「反鳳凰寺大連合の動きを探っていたのでしょう」と成瀬が言った。

「それだけではござらん——これは以前より準備を相当にしていたと思われます」と元春は言った。

「この分だと——反鳳凰寺大連合が負けたのはもちろん、浦上が宇喜多に討たれたのも知っているな」と時貞は言った。

「……はい、この後の龍野赤松はどのように動くでしょうか?」と成瀬が言った。

「鳳凰寺か宇喜多が来るまでに——備前を切り取れるだけ切り取る腹積りなのでしょう」と隆景が言った。

その時——参謀部の人間が入ってきた。

書状を持っていた。

「上様——ただいま播磨国、黒田官兵衛殿より上様宛に書状が届きました」

「見せろ」と時貞は言った。

書状を受け取った。

読んだ。

「黒田?」と元春が訝しんだ。

「官兵衛殿はなんと?」と成瀬が言った。

「——官兵衛はさすがだな」と時貞は言った。

「この事を事前に予測し、赤松義祐殿と協力して龍野赤松に出陣し、圧をかけるそうだ。それだけじゃない——我々鳳凰寺に助力を求めてきた」

「いかがなさるのですか?上様」と成瀬が言った。

時貞は書状を持ったまま、少し間を置いた。

「——官兵衛は書状で、こう書いてある」と時貞は言った。

「『龍野赤松の此度の備前出陣はいくら乱世とはいえ、火事場泥棒に匹敵する武家としてはあるまじき蛮行なり。また備前の民がこれ以上苦しむのは余りに不憫である。またこのまま龍野赤松の出陣を許せば、播磨国を始めとする周辺国はさらに荒れることが予測できまする』と」

「……うまい文言ですな、上様のお心をわかった上で書かれてありますな」と成瀬は言った。

「全く同感だ」と時貞は言った。

「おい——このことを宇喜多に遣いを出して教えてやれ」

「はっ、ただちに」

参謀部の部下が敬礼して、即座に立ち去った。

「天元、熊谷に繋げ」と時貞は言った。

「熊谷殿に繋ぎます」と天元が言った。

「上様——なんでしょうか?」とモニター越しに熊谷が言った。

「熊谷——鉄の静寂作戦終了後で悪いが、医療班と治安維持部隊をただちにそっちに回すから、現場に到着したら早々に引き継ぎをしろ」と時貞は言った。

「その後、熊谷たちには龍野赤松の備前侵攻を止めてもらう」

「龍野赤松——ですか?」と熊谷は言った。

「詳しくは天元に説明を聞いてくれ。どうだ、やれるか?」

「はい、やります」と熊谷は言った。

「こちらの被害は一切認めない。龍野赤松側は——死者はなるべく出すな。ただしこちらの生命が脅かされる場合には、その限りではない」

「はっ。ところで上様——十六式機動戦闘車を使用しても?」と熊谷が言った。

「構わない。何ならアパッチも使って、空から圧をかけろ」と時貞は言った。

「了解しました」

「頼りにしているぞ、熊谷」

「勿体なきお言葉です。では——」

通信が切れた。

元春が、しばらく動かなかった。

「——鳳凰寺ではこれが普通なのか?」と元春は言った。

声に——驚愕があった。

「こんなに即座に、簡単に——」

「これでは乱世に生きる全ての大名は、誰も勝てるはずがない。あの信長でさえも——」とびっくりした隆景が言った。

「しかし次から次に——」と時貞は言った。

呆れたように。

「全ての動きが連動しているのですな」と成瀬は言った。

「隙を見せれば、即喰われる。それが乱世です」と隆景は言った。

時貞は少し間を置いた。

「——けど」

その声が変わった。

「今回の南蛮人の蛮行は全くの別物だ」

時貞の顔が——抜き身の真剣のようになった。

「俺はこの件は——絶対に許すつもりはないぞ」

成瀬が、喉を鳴らした。

隆景が、冷や汗を拭った。

元春が、拳を握った。

モニターには——龍野赤松の進軍が映し出されていた。

そして龍野赤松は、備前にある浦上の支城を次々と落とし始めていた。


四 宇喜多、馬を飛ばす

宇喜多軍の全軍が、備前に向かって馬を走らせていた。

陣を引き払ったばかりだった。

三千の兵が、街道を埋めていた。

馬の蹄が、地面を叩いた。

土煙が上がった。

直家が先頭に立って馬を走らせていた。

「——急げ!急げ!」と家臣が叫んだ。

馬の速度が上がった。

兵士たちが、荒い息をつきながら走った。

武具が揺れて音を立てた。

街道の横の田んぼが、後ろに流れていった。

「直家様——南蛮人の被害はどれほどのものになっているのでしょうか?。我らが備前に戻るまでに、鳳凰寺殿が解決してくれれば——」と剛介が馬を並べながら言った。

「今は考えるな——動けるだけ動く。それだけだ」と直家は言った。

低い声で。

しかし——その声の奥に、焦りがあった。

「我々が血を流して作り上げた備前を———南蛮人どもに好き勝手にされてたまるか」

直家の目が、前方に向いた。

備前の方向だった。

その時。

街道の後方から——奇妙な音がした。

エンジン音だった。

「——なんだ、あの音は」と家臣が言った。

全軍が速度を落とした。

「みなのもの一旦——止まれーーー!」と家臣の大声が飛んだ。

三千の軍が、ゆっくりと止まった。

土煙が、静かに収まっていった。

そして——街道の後方から。

「宇喜多家の方々とお見受けいたす!宇喜多直家殿はおられますかーーー?」

スピーカーを通した大きな声が、街道に響いた。

直家の馬が驚いた。

直家自身も——驚いた。

「——なんて大声だ?」

そして——二輪の乗り物が、街道を走ってきた。

バイクだった。

鳳凰寺の通信兵が、バイクに乗っていた。

「——なんじゃあれは!」と家臣の一人が叫んだ。

「馬ではない——鉄の乗り物が——走っている!」

兵士たちがざわめいた。

バイクが直家の前に来て、止まった。

「宇喜多直家殿でいらっしゃいますか?鳳凰寺時貞様より宇喜多殿へご伝言がございます」と通信兵は言った。

「貴殿は鳳凰寺の者か?」と傍の家臣が言った。

「はい」と通信兵は言った。

「鳳凰寺殿はなんと?」と直家は言った。

直家は驚きを顔に出さなかった。

しかし——内心は激しく動揺していた。

(馬でも牛でもない、鉄の乗り物が走っている——これが鳳凰寺の力か)

「それではお伝えします」と通信兵が言った。

「反鳳凰寺大連合敗北と浦上宗景が討たれたことにより、龍野赤松が備前に進軍しているとのことです」

「——なんだと!間違いないのか?」と直家は言った。

「はっ、すでに時貞様が確認済みです」

直家は少し間を置いた。

「——あい分かった」と直家は言った。

「鳳凰寺殿にはくれぐれも感謝を伝えてくれ。後日必ずお礼に上がるとな」

「はっ、それでは失礼いたします」

通信兵が敬礼した。

そしてバイクを反転させた。

走り去っていった。

エンジン音が遠ざかっていった。

「殿——あれは一体?」と家臣が言った。

直家は前を向いた。

「あれが——鳳凰寺だ」

その言葉には、様々な感情が込められていた。

驚愕。

感嘆。

そして——確信。

「皆のもの!聞いた通りだ!我らが備前を龍野赤松に好き勝手されてたまるか!急いで備前に戻るぞ!!」

「応ーーーーー!!!」

宇喜多軍の声が、街道に響いた。

馬の蹄が、再び地面を叩き始めた。

土煙が上がった。

三千の兵が——一気に速度を上げた。

先頭の直家が、馬の首を叩いた。

「——飛ばせ!」

馬が、最高速で駆けた。

宇喜多軍が、備前に向かって全速力で突き進んでいた。


五 備前の支城、炎上

備前。

浦上の支城の一つが、戦場になっていた。

城は——備前の山間に作られた小さな城だった。

石垣は低かった。

木製の柵が主な防壁だった。

しかし——小高い丘の上にあり、周囲を見渡すことができた。

城の中には、三十名ほどの守備兵がいた。

反連合の合戦でほとんどの兵力を取られていた。

残ったのは——老いた者と若い者ばかりだった。

そこへ——龍野赤松の軍勢が押し寄せた。

五百名だった。

「——攻めろ!速さが全てぞ!」と円山利真が叫んだ。

龍野赤松の足軽が、丘を駆け上がった。

「——来たぞ!来たーーー!」と城の守備兵が叫んだ。

「弓を引け!弦を引け!」と老いた指揮官が叫んだ。

弓が引かれた。

矢が放たれた。

数本が、登ってくる足軽に当たった。

「——うっ!」と足軽が倒れた。

しかし——残りは止まらなかった。

「かまわん——進め!」と円山が叫んだ。

足軽たちが、柵に向かって走った。

柵が揺れた。

押された。

「——押し返せ!全員で押し返せ!」と守備兵の指揮官が叫んだ。

三十名が柵を支えた。

しかし——五百対三十だった。

柵が——外側から叩かれた。

ドン。

ドン。

ドン。

繰り返し叩かれた。

「——崩れるぞ!退け!退け!」

守備兵が後退した。

柵が、外側から引き倒された。

足軽が、雪崩を打って城に入った。

接近戦が始まった。

守備兵が、刀と槍で応戦した。

しかし——数が違った。

一人に三人が向かった。

刀が交わった。

槍が突き出された。

「——負けるな!踏み止まれ!」と指揮官が叫んだ。

しかし守備兵が次々と倒れた。

傷を負った者が膝をついた。

力を失った者が、地面に崩れた。

指揮官が最後まで立っていた。

「——降伏する!命だけは——!」

円山が手を上げた。

「——止めろ!抵抗をやめた者を殺すな!」

戦闘が——止まった。

守備兵が、武器を置いた。

地面に膝をついた。

「——よし」と円山は言った。

「この城は取った。すぐに次へ行くぞ!」

龍野赤松の旗が、城の上に立てられた。

「——次の支城はどこだ?」

「——北に三里ほど行ったところに——」

「行くぞ!急げ!」

龍野赤松の足軽たちが、また走り始めた。

円山が馬を走らせた。

「——速さが全て。次の城も落とすぞ!」


六 赤松政秀、急転

「——わはははーーー!備前は切り取りし放題じゃ!ここを落としたら次に行くぞ!」

赤松政秀が、馬上で叫んだ。

別の支城の前だった。

この城も、すでに落とし始めていた。

守備兵が少なかった。

龍野赤松の前衛が、城門を叩いていた。

木の扉が揺れていた。

「——もうひと押しじゃ!」

その時。

後方から、馬が駆けてきた。

伝令だった。

「——ご注進ーーー!」

馬が止まった。

伝令が飛び降りた。

「——一体なんじゃー!今は取り込み中ぞ!」と政秀は言った。

「お伝えします!赤松宗家、赤松義祐と小寺政職が協力して、我が領内に出陣してきたとの知らせです!」と伝令が叫んだ。

「なんじゃとーーー!」

政秀の顔が変わった。

「赤松宗家に小寺め——人の居留守に卑怯千万!この機に討ち取ってくれようぞ!」

政秀が馬を止めた。

「——隊を分ける!」

周囲の将たちが集まった。

「円山は引き続き備前を切り取れるだけ切り取れ。改めて言うが、今回は速さが大事ぞ!」

「はっ!」と円山が言った。

「残りはわしと一緒に龍野赤松に戻って、宗家と小寺の連中を討ち取るぞ!」

「応ーーーー!!!!」

龍野赤松軍が二手に分かれた。

円山率いる三百が、備前に留まった。

政秀率いる二百が——龍野城に向けて馬を走らせた。

「——急げ!急げ!龍野まで一息で戻るぞ!」

政秀の馬が、街道を駆けた。

先頭に立って。

後ろに二百騎が続いた。

蹄の音が、大地を震わせた。

土煙が、後方に流れた。

政秀は前だけを見ていた。

「——赤松宗家め、よりによってこんな時に——」

怒りと焦りが、政秀の顔に現れていた。

しかし——その目には、まだ自信があった。

「——龍野は落とさせん。絶対に」

馬が、さらに速度を上げた。

播磨の街道を、龍野赤松の旗が飛ぶように進んでいた。


七 城下町、夜明けの惨状

備前の港町。

夜明けの光が——城下町の惨状を照らし出していた。

南蛮人たちが占拠し、暴れ回った跡だった。

家屋の半分が燃えていた。

焼け跡が、朝の空に煙を上げていた。

崩れた壁が、路上に散らばっていた。

梁が折れて、道を塞いでいた。

路上には——人が倒れていた。

何人も。

何十人も。

あちこちに。

動かない者がいた。

呻いている者がいた。

ただ座り込んでいる者がいた。

何が起きたのかを、まだ理解できていない者がいた。

子供の泣き声が、焼け跡の奥から聞こえていた。

助けを呼ぶ声が、どこかから聞こえていた。

「——誰か——誰かいるか——」

弱々しい声だった。

それが、夜明けの城下町に響いていた。

血の跡が、石畳の上に残っていた。

引きずられた跡があった。

倒壊した建物の下から、布が見えていた。

その布が——かすかに動いていた。

「——生きている——」と誰かが言った。

城下町の外に避難していた者たちが、戻り始めていた。

自分の家を探していた。

自分の家族を探していた。

「——父上——父上はどこだ——」

「——お母さん——お母さーーーーん!」

子供の声が上がった。

返事がなかった。

子供が走り回っていた。

焼けた家屋の前で立ち止まった。

何もなかった。

あったはずの家が——なかった。

子供が——地面に座り込んだ。

動かなかった。

そこへ——遠くから音が聞こえてきた。

エンジン音だった。

複数の車が近づいてくる音だった。

城下町の外の街道から——鳳凰寺の車両がやって来ていた。

医療班の複数台の車両。治安維持部隊の複数台の車両。

そして——先に現場に乗り込み、十六式機動戦闘車前で、指揮を取っていた熊谷が気づく。

「——やっと到着したか」と熊谷は言った。

車が止まった。

扉が開いた。

鳳凰寺の兵士と医療班が、車から降りてきた。みな、余りの状況に脚がすくんで動かなくなっていた。

「——なにをボヤッとしている!すぐに動け!まずは状況確認を徹底しろ!」

熊谷の声が、朝の空に響いた。

全員が一瞬で正気に戻る。

「はっ!」

全員が敬礼して、即座に動き始めた。

熊谷が周囲を見た。

城下町の惨状が、朝の光の中に広がっていた。

辺りを改めて見渡し、熊谷の顔が——わずかに歪んだ。

感情を、抑えこんだ。

「この部隊の責任者は誰だ?」

「はっ!この治安維持部隊の隊長は自分であります!」

熊谷の前に出て敬礼する隊長がいた。

「山並大尉だったな?」と熊谷は言った。

「はっ!」

「わかっているとは思うが——」と熊谷は言った。

「ここにいるのは全員が非戦闘員だ。それに今は乱世だ。いつ誰が襲ってくるかわからない。守るのはお前たちだ」

「はっ」

「気を引き締めろ。敵だと判断したら迷わず撃て。こちらの生命が最優先だ。敵の生命の心配まではするな!いいな!」

「はっ、肝に銘じ、全隊員に通達します」と山並が言った。

「よし——では引き継ぎを始めよう。我々にはあまり時間的余裕はないからな」と熊谷は言った。

城下町の中では——医療班が動き始めていた。

倒れている者の傍に、医療班員が跪いた。

「——息があります!」

「——担架!担架を持ってきてください!」

「——こっちも!」

次々と声が飛んだ。

治安維持部隊の兵士が、城下町の要所に配置された。

出口を塞ぐ者。

路地を見張る者。

倒壊した建物の周囲を確認する者。

「——生存者の確認を急げ!全員が総員確認だ!一人も見逃すな!」と山並が叫んだ。

治安維持部隊が、城下町を網羅し始めた。

倒壊した建物に入った者がいた。

「——中に人がいます!生きています!」

「引き出せ!急げ!」

建物の梁が持ち上げられた。

中から、老婆が引き出された。

「——大丈夫ですか!」

老婆が目を開けた。

「——水を——水を——」

すぐに水が渡された。

老婆が水を飲んだ。

「——大丈夫だ。大丈夫だ」と兵士が言った。

別の場所では。

子供が倒壊した建物の前に座っていた。

「——母ちゃんが——母ちゃんが中に——」

「どこだ!どこに入ったんだ!」

子供が指をさした。

兵士が、崩れた建物に向かった。

木材を持ち上げた。

重かった。

別の兵士が加わった。

「——もう一度!」

木材が持ち上がった。

その下に——女がいた。

「——息があります!生きています!」

女が引き出された。

子供が駆け寄った。

「——母ちゃん——!」

女が目を開けた。

子供の手を握った。

そのかたわらで、熊谷と山並が引き継ぎを行っていた。

「——武装南蛮人の捕縛状況。全員制圧済み。死亡者が二十八名、残りは捕縛。現在、別の場所で拘束中」

「了解しました」

「大砲五門——全て無力化済み。南蛮人が持っていた火縄銃などの武器は一箇所に集めて部下を立たせて保管中だ。城下町内部の安全確認は——まだ全域は終わっていない。継続して確認を」

「はっ」

「人質の状況——千名近くが解放済み。ほとんどが城下町の外に誘導された。しかし城下町内部に残っている者もいる可能性がある。確認を続けること」

「了解しました」

熊谷が山並の目を見た。

「——頼んだ。後はお前たちに任せる」

「はっ。熊谷少将——」と山並が言った。

「次の任務があるのですね」

「ある」と熊谷は言った。

「龍野赤松の備前侵攻を止める」

山並が頷いた。

「——任せてください。ここは我々が守ります」

熊谷が山並の肩を一度叩いた。

言葉はなかった。

それだけで十分だった。

熊谷が振り返った。

「——全員、集合!龍野赤松に向けて出発する!」

熊谷の部隊が集まった。

車両のエンジンが始動した。

「——行くぞ」

車両が動き始めた。

城下町の外へ向かった。

街道に出た。

備前の空が、青く広がっていた。

その空に——ヤタガラスが静かに飛んでいた。

龍野赤松の進軍を追っていた。

城下町の後方では——山並が全体を見渡した。

医療班が走り回っていた。

治安維持部隊が動いていた。

「——全員、気を引き締めろ!まだ終わっていないぞ!」と山並は叫んだ。

城下町が——少しずつ、動き始めていた。

焼け跡から、声が聞こえた。

泣き声だった。

助けを呼ぶ声だった。

そして——生きている人の声だった。

夜明けの光が、その声を照らしていた。

備前の朝は——長かった。

しかしそれは続いていた。

止まらなかった。


(第六十五章へ続く)


赤松政秀は自分のことは棚に上げるタイプでした(^◇^;)

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― 新着の感想 ―
楽しく読ませていただいています。 少しの間違い、その時に存在していない人物、 事柄など脳内補完が得意な自分としては 全く気になりません。小説って作りごとですよね。 また、そもそも歴史書は正しいのか?と…
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