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覇道戦国 ~鳳凰寺家、天下統一…その先へ~  作者: 1009


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プロローグ ―崩壊と転生―

神奈川県某市、六畳一間のアパート。

真田琢磨は三連休の最終日も、朝からパソコンの前に陣取っていた。カーテンを閉め切った部屋に、モニターの青白い光だけが煌々と照り、空になったエナジードリンクの缶が三本、デスクの隅に並んでいる。

「よし……内政フェイズ、完璧だ」

モニターには戦国シミュレーションゲーム『覇道戦国』の画面が映し出されていた。今年春にリリースされた本作は、歴史考証の精密さと圧倒的な自由度で発売直後からゲーマーの間で熱狂的な支持を集めた作品だ。キャッチコピーは「オリジナルの武将を作って戦国時代を生き抜け。覇者になれ、目指せ!天下統一」。

琢磨がこのゲームに出会ったのは発売初日のことだった。以来、他のことが何も手につかなくなった。食事は適当に、睡眠は最低限。三十歳の独身サラリーマンとして、連休のすべてをこの一点に費やしてきた。

画面の中では、伊豆七島をモデルとした架空の島嶼群——鳳凰寺七島——が映し出されている。

琢磨が作り上げたオリジナルの戦国武将は、鳳凰寺家当主・鳳凰寺時貞。御年十二歳。

「十二歳で、ね」と琢磨は一人笑う。

幼い当主という設定にしたのは意図的だった。経験値の低さをゲームシステム上のハンデとして受け取りつつ、AIによる補佐を最大限に活用する構造を作りたかったのだ。そのために、琢磨はゲームのオフラインモードで使用できる改造MODを駆使した。

通常の戦国時代設定に、二十一世紀の軍事技術、医療技術、情報通信技術を完全移植する——前代未聞のカスタマイズだ。

鳳凰寺七島には陸海空、三軍に相当する装備が揃っていた。最新鋭の戦闘機、イージス艦を凌ぐ軍艦、精密誘導ミサイル、核兵器。さらには多目的軍事衛星群まで軌道上に配備した。兵士たちは迷彩服を着込み、甲冑など一切身につけない。彼らは武士ではなく、軍人だ。礼節を重んじ、命令系統に従い、戦場では冷静に任務を遂行する。

医療体制も同様だった。島内には二十一世紀の大病院に匹敵する設備が整い、最新の医療機器と知識を持つ医師団が配置されている。

そしてすべてを統括するのが、量子コンピューターを基盤とした高度AIシステム——「天元」。

鳳凰寺家にとって最適な戦略を立案し、情報を集積・分析し、あらゆる兵器運用のサポートを行う。鳳凰寺家の頭脳であり、時貞の右腕とも言うべき存在だ。

「天元、現状の戦力評価を」と琢磨は口癖のように呟く。

もちろんゲームのキャラクターは返事をしない。だがモニターには数値と分析が流れ、その圧倒的な国力が可視化されていた。

戦国時代の他の大名たちとは、隔絶した力。

それが鳳凰寺家だった。

その時だった。

ドン、と大地が唸った。

「ん?」

最初は小さな揺れだった。だがそれはすぐに激しさを増した。エナジードリンクの缶が倒れ、キーボードが滑り落ちる。部屋全体がぎしぎしと悲鳴を上げ、窓の外から何かが崩れる音が聞こえてくる。

巨大地震。

「まずい——!」

琢磨は立ち上がろうとした。

その瞬間、頭上の本棚が傾いた。歴史書、軍事書、鈍い背表紙が次々と崩れ落ちてくる。避ける間もなかった。

視界が、暗転した。


…。

…………。

「…………殿」

声が聞こえた。

低く、しかし抑えた緊張感を帯びた男の声だ。

「殿!目を覚ましてくださいませ!」

(俺は……)

意識が浮上してくる。だが何かがおかしかった。身体が、小さい。手足が軽い。そして——空気が違う。エナジードリンクと埃の匂いではなく、潮風と木と土の匂いがした。

琢磨は目を開けた。

天井があった。だが漆喰のアパートの天井ではない。磨き上げられた木の梁が走る、広大な空間だ。畳の感触が背中にある。

「お目覚めになりましたか!御身に障りは?」

声の方を向くと、四十がらみの武骨な顔の男が膝をついていた。だが奇妙なことに彼は甲冑ではなく、地味な軍服のような装束を着ている。

(……誰だ、この人は)

だが同時に、琢磨の脳内に情報が流れ込んできた。この男の名、立場、来歴。長年の忠義と、信頼の蓄積。

——成瀬一郎。鳳凰寺家参謀長。

「……成瀬か」

声を出して、琢磨は自分の声に驚いた。

変声期前の、少年の声。

ゆっくりと起き上がると、視野が低くなった。見慣れた自分の手ではなく、細く小さな子供の手が視界に入る。

(俺は……鳳凰寺時貞に……なっている?)

「殿、一体何が起きたのか——我らも把握できておりません。突然見知らぬ土地に……」

成瀬の言葉を、琢磨は手を挙げて制した。

考えろ。状況を整理しろ。

三十年間培ってきた思考の癖が、パニックを押さえ込む。

(地震があって、本棚が倒れてきた。そして目が覚めたらゲームの中……いや、ゲームの設定が現実になった世界に来ていた?、ということか…)

馬鹿げている。だが、目の前の光景はあまりにもリアルだ。

「成瀬。今の我々の状況を教えてくれ。兵はいるか。天元は使えるか」

「はっ!兵、全員揃っております。天元も正常稼働中。島の設備も一切の損傷なし。ただ……現在地が不明でして」

「わかった。まず情報収集を最優先とする。配下を使って周辺の情勢を洗い出せ。特に——どの大名が今何をしているか、それを重点的に」

「御意!」

成瀬が下がる。

琢磨——いや、今は鳳凰寺時貞として——は立ち上がり、窓の外を見た。

海が見えた。島だ。鳳凰寺七島の、どれかだろう。青い海が広がり、漁船が遠くに浮かんでいる。空は抜けるように高く、江戸時代よりさらに昔を感じられる、汚れのない空気がそこにあった。

(もしかしたら本物の戦国時代?……に来てしまったのかもしれない)

感慨よりも先に、思考が動き始めていた。

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