第8話『支配の眼、反逆の声』
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
都市中央広場。そこにそびえ立つ巨大なスクリーン『支配の眼』は、24時間体制で政府のプロパガンダを流し続ける、まさに洗脳の象徴だった。
周囲には自動防衛ドローンが旋回し、蟻の這い出る隙もない厳戒態勢が敷かれている。
だが、闇に紛れる“悪”にとって、それは鉄壁ではなかった。
「――ノイズ、消去」
ネビュロスが指先を走らせる。音もなく広がる冷気が、監視カメラの回路を一瞬で凍結させ、警報を鳴らすことすら許さずに機能を停止させた。
「おやおや、誰も僕たちに気づかないねぇ」
ヴェルミリオンが広場を横切る。すれ違う警備兵たちは、彼らの姿が見えていないかのように素通りしていく。認識阻害の幻術。彼らは今、世界から切り離された幽霊のように、堂々と放送管理室へと侵入した。
制圧は一瞬だった。
職員たちを眠らせ、コンソールを占拠する。
「回線掌握。……グリム、準備はいいか」
ネビュロスの合図に、マイクを握りしめたグリムがニヤリと笑った。
「ああ。一発、かましたるわ」
ザザッ……ザザ……ッ!
突如、街中のスピーカーが不快なノイズを吐き出した。
『支配の眼』に映っていた「勤労への感謝」の映像が乱れ、ブラックアウトする。
深夜の静寂を破る異変に、眠っていた市民たちが窓を開け、広場を見下ろした。
そして、画面に映し出されたのは――ボロボロの黒いコートを纏った、見知らぬ男。
画面越しでも伝わる異様な威圧感に、市民たちは息を呑んだ。
『よォ。真面目に生きてる良い子のみんな、起きとるか?』
男――グリムは、カメラのレンズを舐めるように睨みつけた。
『俺が誰かなんて、どうでもええ。
ただ、お前らがヘコヘコ頭下げてるあの“正義”様が、死ぬほど気に入らんだけの……通りすがりの“悪党”や』
ざわめきが広がる。何者だ、あの男は。犯罪者か? 狂人か?
だがグリムは、そんな民衆の動揺など意に介さず、言葉の弾丸を放ち続ける。
『なぁ、お前ら。今の暮らし、楽しいか?
隣の奴の顔色伺って、言いたいことも言えんと、作り笑いで誤魔化して。
……それが、お前らが守りたかった“平和”なんか?』
その言葉は、鋭いナイフのように市民の胸に突き刺さった。
誰もが感じていた、けれど口にすれば消される恐怖。その核心を、この男は土足で踏み荒らしていく。
『名前が必要なら、好きに呼べばええ。
不審者でも、怪物でも、反逆者でもな。
……俺の名はグリム。お前らの“常識”をぶち壊しに来た、最悪のイレギュラーや』
『正義ってのは便利な言葉やな。
従わへん奴を悪者にできて、思考停止しても許される。
……けどな、誰かの声を力で捻じ伏せる正義なんぞ、ただの暴力やろが!!』
グリムが拳を振り上げる。その背後で、ネビュロスとヴェルミリオンが不敵に微笑んでいる。
『俺たちは、お前らの言うことなんか聞かへん。
気に入らんもんは気に入らんと叫ぶ。
それが“悪”やって言うなら、喜んで世界一の悪党になってやるわ!』
『自分の頭で考えろ! 自分の足で立て!
世界は、お前らが思ってるより、ずっと自由なんやぞ!!』
演説は、雷鳴のように都市を揺るがした。
俯いていた人々が顔を上げ、互いに目を見合わせる。その瞳に、恐怖以外の光――「疑念」と「興奮」が宿り始めていた。
「貴様らァァッ!!」
轟音と共に、放送室のドアが爆破される。
駆けつけたのは、ブレイズレッド率いる鎮圧部隊だ。
「放送終了や。ずらかるぞ!」
「アンコールはまた今度ね」
グリムたちは窓ガラスを蹴破り、夜の闇へとダイブする。
ブレイズレッドの放つ火球が虚空を焦がすが、彼らはすでに幻影の彼方へと消えていた。
残されたのは、沈黙したスクリーンと、熱を取り戻し始めた民衆のざわめき。
まかれた種は、確かに芽吹き始めていた。
(第9話へ続く)




