第3部 第15話『孤独な太陽と冷たい星(中編)』
【前回のあらすじ】
ついにカイが待つ統合中枢コアへ到達したライガ。カイは、かつて自身の唯一の理解者だった女性を失い、その犠牲と引き換えに選んだ「世界管理計画」を完遂することが、彼女への唯一の答えだと語りだす。ライガはその考えを否定し、二人は激突。ユナイトレッドに変身したカイに対し、バーニングレッドは満身創痍の体で限界を超えた一撃を叩き込んだ!
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
光の長剣が、再び振るわれた。
ライガは右腕でそれを弾く——だが、亀裂の入ったガントレットが悲鳴を上げた。
ジュウウウッ!!
「ぐ……ッ」
弾ききれなかった刃が肩を掠め、深紅のスーツに焼け焦げた線が走る。
ライガは床を転がり、距離を取った。
カイは追わない。光の翼を広げたまま、静かに浮かんでライガを見下ろしている。
「……どうした。もう終わりか」
「終わるわけないだろ」
ライガは膝をつきそうになるのを堪え、立ち上がった。
スーツの各所から赤いエラーランプが点滅している。排熱ダクトの音が、かつてより明らかに細くなっていた。
「カイ」
ライガは荒い息の中で、静かに言った。
「さっきの話——お前が失った、その人のことだけど」
ユナイトレッドの動きが、コンマ数秒だけ——止まった。
「……関係ない」
「関係ある」
ライガは拳を握った。
「お前が自分から話した。それだけで十分だ」
「……」
「その人がいなくなって、お前は一人でこの計画を続けてきたんだろ。誰にも頼らずに、誰にも話さずに。……何年も」
ユナイトレッドのバイザーの奥の瞳が、鋭くなった。
「同情は不要だ」
「同情じゃない」
ライガの声が、低く響いた。
「俺は怒ってる」
「……何に」
「お前に」
静寂。
ライガは一歩、前に出た。
「俺はお前に言ったはずだ。入隊してしばらく経った頃——覚えてるか」
ユナイトレッドは何も言わなかった。
「『誰もが自分の足で立って、笑い合える世界を作りたい』って、俺がお前に言った。あの時お前は、一緒に作ろうと答えた」
「……」
「俺はその言葉を、本気で信じた。お前と一緒なら、本当にそういう世界を作れると思った。だから——お前の隣で戦い続けた」
ユナイトレッドの光の翼が、微かに揺れた。
「なあ、カイ」
ライガの声が、さらに低くなった。
「あの返事は——本気だったか」
沈黙が、長く続いた。
やがてカイは、静かに言った。
「……半分は、本気だった」
ライガは、その言葉をゆっくりと噛みしめた。
「半分は——君なら本当に変えられるかもしれないと思った。レヴェリオを失ってから、唯一そう思えた人間が、君だった」
レヴェリオ。
その名前が、ライガの耳に静かに刻まれた。
「……レヴェリオ」
ライガは、その名を繰り返した。
「それが——その人の名前か」
カイは答えなかった。
だが、バイザーの奥の瞳が——深いところで揺れた。
ユナイトレッドは、静かに口を開いた。
「……彼女は」
声が、かすかに——変わった。
冷たさの中に、何か別のものが混じった。
「彼女は、私が孤独だった頃から隣にいてくれた。私の言葉を否定せず、全て受け入れてくれた。……私にとって、世界で唯一の理解者だった」
「……」
「だが私は——彼女よりも大きな理想を選んだ。世界を管理するシステムの設計者になることを選んだ瞬間、彼女は自ら去った」
カイの声が、わずかに——震えた。
「……私が彼女を必要としなくなったから、と思っていた。だが」
そこで、カイは止まった。
言葉が——出てこなかった。
「だが——本当は分かっている」
ライガが、静かに続けた。
「お前が彼女を必要としなくなったんじゃない。お前が——彼女より、その理想を選んだんだ。自分で選んで、自分で手放した」
ユナイトレッドの装甲が、かすかに震えた。
「……ッ」
「だから計画を止められない。止めたら——レヴェリオを失った意味が、なくなる。お前が自分で選んだあの選択が、ただの間違いになってしまう」
「黙れ」
「カイ」
「黙れと言っている……ッ!」
ライガは、それでも前に出た。
「俺も——お前と同じだった」
ユナイトレッドが、止まった。
「同じだと? 君と私が?」
「ああ」
ライガは、荒い息の中で静かに言った。
「俺もずっと、『正義』という言葉を盾にしてた。紛争地帯で少女を見捨てた罪悪感を、『より多くを救うため』という大義で封じてた。自分の手が汚れていることに、目を逸らし続けてた」
「……」
「お前と同じだ。大切な何かを失った痛みを、『正しい理由』という鎧で覆い隠してた。その鎧がなくなったら、自分が何者か分からなくなるから——ずっと着続けてた」
カイは何も言わなかった。
だが——バイザーの奥の瞳が、揺れていた。
「俺がその鎧を脱げたのは——グリムたちのおかげだ」
ライガの声が、静かに続いた。
「グリムに何度も殴られた。あいつの拳が、俺に教えてくれた。どれだけ正義を語っても、目の前の人間から逃げ続けてた俺が、どれだけ空っぽだったかを」
「……」
「ネビュロスは——知恵だけでは守れなかった過去を抱えながら、それでも仲間のために動き続けた。ヴェルミリオンは——傷つくことを誰より恐れながら、それでも道化の仮面の下で仲間を守ろうとした。あいつらと一緒に戦って、俺は初めて分かった。鎧を脱いでも、立っていられるって」
「そしてグリムの白炎が——俺が少女に謝れなかった罪悪感も、正義という名の逃げ場も、全部焼き切ってくれた」
ライガは、胸のドッグタグに触れた。
「そして——グリムの白炎が、その怖さごと焼き切ってくれた。あいつの炎は、痛みを与えるんじゃない。呪いを浄化するんだ。俺が少女に謝れなかった罪悪感も、正義という名の逃げ場も——全部」
ユナイトレッドは黙って聞いていた。
「お前にも——本当は、誰かにそうしてほしかったんじゃないのか」
ライガの声が、低く、しかし真っ直ぐに響いた。
「レヴェリオが去った後も、ずっと一人で抱えてきた全部を。誰かに焼き切ってほしかったんじゃないのか」
静寂。
ユナイトレッドのバイザーの奥で、何かが揺れ続けていた。
「……私は」
かすかな声だった。
「私は——正しい。この計画は正しい。レヴェリオへの誓いは——」
「カイ」
「……正しいはずだ。正しくなければ——」
「カイ」
「正しくなければ、全てが——っ!!」
ユナイトレッドが動いた。
感情が——冷静さの膜を破って滲み出た速さだった。
「《光翼斬》!!」
背中の翼から光の粒子が一斉に散布され、その中心をユナイトレッドが光の剣を構えて突き抜ける。
光の嵐がバーニングレッドを全方位から包んだ。
「ッ——!!」
ライガは腕で顔を庇う。光の粒子が装甲を焼き、視界が白く飛んだ。
ユナイトレッドの剣が、胸板に突き刺さる。
ドォォォンッ!!
「ぐあァッ!!」
衝撃がスーツの内部まで貫通し、ライガの身体が吹き飛んだ。
床を転がり、壁際まで叩きつけられる。
「……ッ、は……ッ」
立ち上がろうとする。
だがその瞬間、足元の重力が急激に増大した。
「《重力統制》」
床がライガを飲み込もうとするような圧力。全身に三倍の重力がかかり、膝が折れる。
「ぐ……う……ッ!」
立てない。押し潰される。
「……お前の言葉など、不要だ」
ユナイトレッドが、ゆっくりと歩み寄った。
その声は冷たかった。
だが——どこか、必死だった。
「私は正しい。この計画は正しい。感情を排除したシステムこそが——誰も傷つけない、唯一の答えだ」
「……カイ」
「黙れ」
「お前は今——俺の言葉を否定したいんじゃなくて、自分自身を納得させようとしてる」
「……ッ!」
「俺には分かる。同じだったから」
ライガは床に両手をつき、震える腕で体を起こした。
重力が三倍かかっている。一センチ動くたびに、全身が軋む。
それでも——動いた。
「なぜ立ち上がる」
カイの声が、低くなった。
「なぜだ。論理的に考えれば、今すぐ諦めるのが最善だ。エネルギーはほぼ尽きている。重力に抗える体力も残っていない。……なぜ、まだ動こうとする」
「お前には——分からないのか」
ライガは、重力に押しつぶされながら、顔を上げた。
「諦めたら——お前が一人になるから」
カイは、止まった。
「……何?」
「お前はずっと一人だった。レヴェリオが去ってから、ずっと。誰にも話せないまま、誰にも頼れないまま、この計画を抱えてきた」
「……関係ない話だ」
「関係ある。だって——」
ライガは、震える腕で体を起こし続けた。
「俺が諦めたら、お前にそれを言える奴がいなくなる。お前の間違いを、正面から言える奴が」
ユナイトレッドは——動けなかった。
「レヴェリオはお前の全部を肯定してくれた。でも俺は——お前の間違いを、お前の目の前で言える」
「……ッ」
「それが——仲間だろ」
沈黙が、最上層を満たした。
カイの《重力統制》が——わずかに、揺らいだ。
ライガはその一瞬を逃さなかった。
最後の熱を右腕に集中させる。
「《爆熱剛拳》!!」
排熱ダクトが火を噴く。重力に逆らい、渾身の右拳を叩き込む。
ユナイトレッドが咄嗟に腕を交差させた。
「《反転障壁》!!」
重力のベクトルが反転し、ライガの拳の力がそのままライガ自身に返ってくる。
ドォォォンッ!!
「がァ……ッ!!」
自分の力で、自分が吹き飛んだ。
床を転がり、止まった。
スーツのエラーランプが、全て赤に変わっている。
排熱ダクトの音が——消えかけていた。
「……ッ」
ライガは、倒れたまま、天井を見上げた。
ガラス越しのノクタリアの夜空。
その向こうに——管理された白とグレーの街が広がっていた。
(第16話へ続く)
いつもお読みいただきありがとうございます!
今回はライガとカイ、二人の内面に深く踏み込む中編となりました。カイが必死に自分に言い聞かせようとする「正しさ」の言葉、そしてライガが自身の過去と、グリムたちとの出会いを語る場面は、執筆しながらも胸に迫るものがありました。
特にカイの「レヴェリオ」への思い、そして彼が選んだ道が、どのような感情の軋轢を生んでいるのか——その葛藤が少しでも伝わったなら幸いです。ライガの言葉が、カイの閉ざされた心にどう響いたのか、引き続き見守っていただけると嬉しいです。
いかがでしたでしょうか?
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次回も心を込めて執筆してまいりますので、引き続き応援よろしくお願いいたします!




