第3部 第10話『上昇セクター:鏡合わせの迷宮(後編)』
【前回のあらすじ】
カイによって下降セクターに叩き落とされたアシュレイとグリムは、ポルクのハッキングによってセクターごと強制上昇し始める。その頃、上昇セクターでは、ヴェルミリオンが感情を捨てて「最適化」された弐号機と対峙していた。セイジはヴェルミリオンの幻術を打ち破っていくが、ヴェルミリオンはセイジの心の闇を見抜き、最後の賭けに出る。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
下降セクターで轟いた決着の音が、遥か下層へと遠ざかっていく。
「……どうやら、グリムは幕を下ろしたようだね」
ヴェルミリオンは優雅に髪をかき上げ、紫の《真・魔導外殻》の翅を広げた。
その視線の先には、流線型の青い装甲に身を包み、背部から無数のセンサーアイを展開した異形――弐号機が佇んでいる。
「……肯定する。肆号機の生体反応消失。グリムによる撃破を確認」
弐号機の声には、かつてのような迷いや動揺は一切なかった。
完全にシステムと同化し、感情をノイズとして削除した冷徹な演算機。
「だが、それは確率0.001%のイレギュラーに過ぎない。
私は同じ轍は踏まない。」
「演算終了。ヴェルミリオン、君を……排除する」
シュンッ!!
音が置き去りにされた。
弐号機の姿が掻き消え、次の瞬間にはヴェルミリオンの喉元に刃が迫っていた。
《音速機動》
シグマスーツの調整によって限界まで引き上げられた反応速度は、魔王の動体視力すら凌駕する。
「おっと、危ないねぇ」
ヴェルミリオンは紙一重で身体を逸らす。
物理的な速さ。小細工をする暇すら与えない圧倒的な速度。
「遅い。君の幻覚が展開されるコンマ数秒……その隙間こそが、私の勝利への回廊だ」
弐号機は追撃の手を緩めない。
前後左右、上下。あらゆる角度から同時に斬撃が襲いかかる。
ヴェルミリオンは幻影の蝶を盾にするが、それらは展開した端からセイジの剣閃によって切り裂かれていく。
論理と速度の暴力。
それはかつて、セイジが最も信奉し、そして一度はネビュロスに否定されたはずの戦い方だった。
「君は……まだそんなモノに縋っているのかい?」
ヴェルミリオンがバックステップで距離を取りながら、嘲笑うように告げた。
「カイに要塞ごとゴミのように廃棄されたのに……まだその『計算』こそが正義だと信じているのかい?
哀れだねぇ。」
その言葉に、弐号機の剣が一瞬ブレた。
だが、即座に思考を修正する。
「……否定する!
以前の私は、感情などというバグに囚われ、不要な廃棄物だったのだ!」
「ほう……?」
「私はシステムだ! システムに痛みはない! 孤独もない!
あるのは完璧な『解』のみ!!」
弐号機が叫び、スラスターを全開にする。
それは自分自身に言い聞かせるような、悲痛な叫びだった。
人間としての心を殺し、自分を裏切った主に尽くすことでしか、己の価値を保てない歪な忠誠。
ヴェルミリオンは、その姿を見て深く溜息をついた。
そして、妖艶に、残酷に微笑んだ。
「……そうか。君は痛みを感じたくないから、心を殺したフリをしてるんだね。」
ヴェルミリオンが、ゆっくりと両手を広げる。
その指先から、毒々しいほどに鮮やかな七色の光が漏れ出した。
「いいだろう。なら、僕が暴いてあげるよ。」
「無駄だ! 幻覚など、センサーで看破する!」
弐号機が突っ込む。
直線的で、最短距離の特攻。
だが、ヴェルミリオンは動じない。
彼はまるでオーケストラの指揮者のように指を振るい、高らかに宣言した。
「――僕のショーは、ここからが本番さ……!」
パリンッ……。
空間が割れる音がした。
「なッ……!?」
弐号機の視界が歪む。
突進していたはずの足場が消え、上下左右の感覚が消失する。
センサーがエラーを吐き出し、警報音が脳内を埋め尽くす。
『警告。空間座標、特定不能。視覚情報、論理矛盾を検知』
弐号機の周りには、無数の「鏡」が浮かんでいた。
万華鏡の中に入り込んだような、幾何学的な迷宮。
「さあ、見せてあげるよ。君が捨てたはずの……『本当の顔』を!」
ヴェルミリオンの声が、全方位から響く。
鏡の中に映し出されたのは、セイジの姿だった。
だが、それは青い装甲を纏った今の姿ではない。
森で、ネビュロスの氷に閉じ込められ、ガタガタと震えている生身のセイジ。
「……そこで凍えていろ。
データにはない『痛み』を知り、自分の計算式の冷たさを骨の髄まで味わうまでだ。
……その氷を溶かすことができるのは、理屈ではなく、お前自身の『熱(感情)』だけだ」
ネビュロスは、氷像のように固まったセイジを見下ろし、冷たく告げた。
「やめろ……! 消せ! そんなデータは削除済みだ!!」
弐号機は狂乱し、双剣を振り回した。
「《蒼閃・無双連斬》!!」
神速の乱舞。
あらゆる方向へ、残像を残すほどの速度で斬撃を放つ。
鏡を割れば、この悪夢は終わるはずだ。物理的な破壊こそが、唯一の正解のはずだ。
だが――。
ガギンッ! ガギギギギッ!!
剣が、弾かれた。
鏡は割れない。それどころか、鏡の中から伸びた「無数の刃」が、弐号機の斬撃を受け止め、弾き返したのだ。
「な……ッ!?」
鏡の中にいたのは、ヴェルミリオンではない。
「セイジ自身」が、実体を持って弐号機の剣を止めていた。
「物理攻撃? 無意味だよ。
だって君が戦っているのは、僕じゃない。
君自身が切り捨て、見ないフリをしてきた『君自身の心』なんだから」
ヴェルミリオンが、鏡の迷宮の奥で優雅に指を鳴らす。
「幻影と現実の境界なんて、曖昧なものさ。
君が痛みを感じるなら、それは君にとっての『真実』だ」
奥義――《万華鏡の終焉》。
世界が砕け散る。
無数の鏡が一斉に炸裂し、その破片が鋭利な刃となってセイジに襲いかかった。
それは物理的な斬撃であり、同時に精神を切り刻むトラウマの具現化。
「ぐ、あアアアアアアアッ!!!」
装甲が切り裂かれ、青い破片が飛び散る。
だが、それ以上に深い痛みが、セイジのシステムを焼き切っていく。
「死への恐怖」「生きたいと願った未練」。
削除したはずの感情が、傷口から溢れ出し、彼の論理回路をショートさせる。
「痛いだろう? 怖いだろう?
それが『生きている』ってことさ、セイジ!」
ヴェルミリオンの言葉と共に、最後の巨大な鏡の刃が、セイジの胸部コアを貫いた。
ドォォォォォン……!
弐号機の身体が吹き飛び、プラットフォームの床に激しく叩きつけられた。
シグマ・スーツの機能が停止し、装甲の色が急速に褪せていく。
『システム……ダウン……。再起動……不能……』
ヴェルミリオンは弐号機の横に膝をついた。
「……やっと素顔を見せたね。
計算機なんかより、今の顔の方がずっと人間らしくて素敵だよ」
上昇セクターの戦いは、静かな幕切れを迎えた。
(第11話へ続く)
第10話をお読みいただき、誠にありがとうございます!
今回はヴェルミリオンVS弐号機の戦いの決着。ヴェルミリオンの真骨頂である幻惑と精神攻撃が炸裂し、セイジの内なる「心」に迫っていく展開はいかがでしたでしょうか。
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次回、第11話もご期待ください!




