第5話『泥の味、再起の灯』
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
ノクタリアの地下深くに広がる、旧時代の地下水道跡。
湿った空気とカビの臭いが充満するその場所が、今の彼らに残された唯一のアジトだった。
「クソッ……! クソッ!!」
グリムが壁を殴りつける。拳の皮が破れ、血が滲むが、心の痛みには及ばない。
圧倒的な敗北。手も足も出なかった事実が、内臓をえぐるように重くのしかかっていた。
「落ち着け、グリム。崩落するぞ」
ネビュロスが壁際で座り込み、自身の傷口に氷を当てて止血している。その顔色は悪いが、眼光だけは鋭いままだ。
「あのリーダー格……バーニングレッドと言ったか。奴の出力は異常だ。それに、あの統率された連携。個々の力で上回っていても、システムとして完敗していた」
「システムやと? あんなん、ただの機械人形の動きやないか!」
「そうだよ。だからこそ、強いんだ」
ヴェルミリオンが、破れた衣装を直しながら苦笑する。その美しい顔にも煤汚れがこびりついていた。
「彼らには迷いがない。役割が完璧に分担されている。……対して僕たちは、ただ暴れていただけ。それでは『劇』にならない」
沈黙が流れる。
認めたくないが、真実だった。
「悪」として立ち上がったものの、彼らはまだ、ただの「はぐれ者の集まり」に過ぎなかったのだ。
グリムはずるずるとその場に座り込み、泥で汚れた天井を仰いだ。
「……ほな、どうすりゃええ。あいつらの言う通り、首輪つけられて生きるんが正解なんか?」
「まさか」
ネビュロスが眼鏡の位置を直し、薄く笑った。
「正面からぶつかって勝てないなら、ルールを変えればいい。奴らの“正義”の想定外を突く。それが“悪党”の特権だろう?」
「正攻法はヒーローに任せておけばいいさ。僕たちは、もっとズルく、もっと泥臭く、あいつらの足元をすくってやろうよ」
ヴェルミリオンが紫の瞳を妖しく輝かせる。
グリムは二人を見渡し、やがてニヤリと口角を上げた。
口の中は鉄と泥の味がする。だが、不思議と不味くはない。
「上等や。……正義の教科書に載ってへん戦い方、教えたるわ」
グリムが拳を突き出す。
そこに、氷の手と、幻の手が重なった。
「次は負けへん。ここからが、俺たちの反撃開始や」
暗い地下の底で、小さな、しかし決して消えない反逆の灯火が揺らめいた。
まだ世界は彼らを知らない。
だが、この夜、真の意味での「魔王戦隊」が産声を上げたのだ。
(第6話へ続く)




