第2部 第16話『赤き絶唱、魂の咆哮(中編)』
【前回のあらすじ】
満身創痍のグリムは、空中要塞ジャッジメントの墜落で絶望するレクスを後にし、暴走するライガを追っていた。森では、制御不能となったライガが灼熱の破壊を撒き散らし、ヴェルミリオンとアシュレイは恐怖に怯え逃げ惑う。グリムは深手を負った体でライガの前に立ちはだかり、友を救うため、決死の覚悟で死闘へと身を投じる。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
ドガァッ!!
ライガの熱を帯びた拳が、グリムのガードを強引にこじ開け、無防備な胸板を撃ち抜いた。肺から空気が強制的に押し出され、嫌な音が響く。
だが、グリムは倒れない。血を吐きながら、ライガの腕を掴んで離さない。
「……逃がさへん……言うた……やろ……!!!」
その熱と、焼けるような痛み。グリムの必死な叫びが、ライガのシステムに侵食された脳髄を揺さぶる。
ライガの右目はシステムのログのように赤く明滅し、「障害排除」の命令を繰り返している。だが、次の一撃を繰り出す直前、ライガの左手が奇妙な動きを見せた。
意志を失ったはずの指先が、自らの胸元――厚い装甲に覆われ、何も無いはずの場所を、縋るように無意識にまさぐったのだ。
「……あ? 何や……その動き。お前、ずっとそこばっかり……」
グリムの目が鋭く光る。これまで何度も拳を交わしてきた中で、ライガが窮地に立つたび、その手が無意識に胸を求めているのをグリムは見ていた。
それは洗脳プログラムですら上書きできない、「人間としてのバグ」だった。
「システム……エラー……不明なサブルーチン……過去ログへの……不適切なアクセス……」
ライガが頭を抱え、絶叫した。その衝撃で、重く閉ざされていた記憶の扉が、凄まじい勢いで蹴破られる。
意識の深層で、ライガは再びあの白銀の男、カイと対峙していた。
「俺たちが目指したのは、そんな管理された平和じゃない! 『誰もが自分の足で立って、笑い合える世界』……そう約束したはずだろ!」
カイは冷徹な眼差しで切り捨てる。「笑顔? 甘い夢を見るな! あの日、我々が救おうとした村で何が起きた? 言葉が通じず、些細な誤解から殺し合いが始まり、誰も生き残らなかった! ……お前も見たはずだ! あの地獄を!」
記憶の扉がさらに奥まで蹴破られる。
――数年前。地球、紛争地帯の小さな村。
訓練生だったライガは、瓦礫の下で泣き叫ぶ一人の少女の手を握っていた。
「大丈夫だ、今助ける! みんな、武器を置いてくれ! 助け合えるはずだ!」
ライガは本気で信じていた。誠意を持って語りければ、憎しみ合う村人たちも手を取り合い、この子を救うのを手伝ってくれるはずだと。だが、現実は残酷だった。ライガが「対話」という名の理想にこだわった数分間が、疑心暗鬼に陥った村人たちの殺し合いを加速させてしまった。
背後でカイが冷酷に告げる。「……無駄だ。対話は判断を鈍らせ、憎しみの連鎖を加速させる」
火の手が回り、天井が崩れ始める。少女を挟んでいる瓦礫はライガ一人の力では動かない。
『お兄ちゃん……いかないで……!』
少女の悲鳴が耳を突き刺す。だが、ライガの頭は真っ白になった。
助ける方法はない。理想は死んだ。その時、ライガは**謝ることも、泣くこともできなかった。
(……謝ったら、俺が見捨てたことになる。謝ったら、俺が罪人になる……!)
ライガは何も言わず、機械的に少女の手を振り払った。
謝罪の言葉すら凍りついた心で、少女が握りしめていた父の形見の「ドッグタグ」だけを毟り取ると、感情を殺し、ただの「兵器」として戦場を離脱した。
それは、彼女の命のぬくもりを「一人の人間」として直視することを辞めるため。
「罪」を言葉で謝る代わりに、冷たい金属の「記録」として持ち去ることで、自分の心を強引にシャットダウンしたのだ。彼はそのタグを「自分を縛る鎖」と定義した。
それ以来、ライガは「笑顔」を憎むようになった。
「あんな惨劇があったのに、ヘラヘラ笑うのは不謹慎だ」「また誰かが泣くかもしれないのに、楽しむのは悪だ」。
彼が世界を白とグレーに塗り潰したのは、秩序のためだけではない。
「悲劇を忘れない」という呪いを世界に強要し、娯楽を「ノイズ」として排除することで、自分の罪悪感を麻痺させていたのだ。
(これでいい。誰も笑わなければ、誰も傷つかない。不謹慎な喜びを殺すことこそが、あの子への唯一の供養なんだ……!)
「ウアアアアアアアッ!!」
現実世界。
ライガが頭を抱え、絶叫した。
過去の「謝れなかった悔恨」と、スーツが命じる「現在の破壊衝動」。
システムが命じる「排除」と、魂が微かに叫ぶ「守りたい」という願い。
矛盾する二つの命令が、彼の人格を内側から引き裂いていく。
「システム……エラー……! 対象……グリム……!?」
右目の赤い光が激しく明滅し、振り上げられた拳が、空中で震えて止まる。
「……思い出せ、ライガ!!」
グリムが、その震える拳を両手で包み込んだ。
灼熱の装甲がグリムの手のひらを焼く。肉の焦げる臭いが漂うが、彼は決して離さない。
グリムの視線が、溶けかけたスーツの隙間から覗く、煤けたドッグタグを捉えた。
「お前が後生大事に抱えてるその『銀の札』……何があったんか、俺は知らんわ。けどな!」
グリムが至近距離で、ライガのバイザーを睨みつける。
「お前の拳はな、いつだって熱かったわ!! それを『システムエラー』やなんて言わせへんで!!」
「ガ……ァ……ハイジョ……感情、フヨウ……」
「やかましいわ!!」
グリムは気づかなかったが、彼自身から、枯渇しかけの魔力が噴き出す。
それは今までのような、怒りの赤黒い炎ではない。
ライガの痛みに寄り添い、絶望を浄化しようとする、静かで清冽な輝き。
「戻って来い、ライガ! お前のその悪夢……俺が全部、燃やし尽くしたる!!」
絶望の淵で、二つの魂が再び共鳴を始めた。
(第17話へ続く)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回はライガの過去、彼が「笑顔」を憎み、心を閉ざして「兵器」として生きる道を選んだ、その根源的な理由が明かされる非常に重要な回でした。胸元をまさぐる彼の「人間としてのバグ」や、少女から毟り取ったドッグタグが「自分を縛る鎖」として機能していたことなど、ライガが抱える深い罪悪感と悔恨を描けたかと思います。
そんな彼の絶望に、グリムが真正面から向き合い、その「熱い拳」を決してシステムエラーとは言わせない姿には、執筆しながら私自身も胸を打たれました。グリムの魔力が「静かで清冽な輝き」へと変化したように、二つの魂が再び共鳴し始めたこの展開を、楽しんでいただけていれば幸いです。
いよいよ次回、ライガの心が真に解放されるのか、グリムはどうなるのか…第17話にご期待ください!
面白いと感じていただけましたら、ぜひ下の★★★★★から評価いただけますと嬉しいです! ブックマークや、温かい感想なども今後の執筆の大きな励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!




