表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/37

第2部 第14話『瓦礫の法廷、沈黙の守護者』

【前回のあらすじ】

カイによってネットワークから遮断されたセイジは、自身の信じていた「効率」という絶対的な正義が崩壊し、深い絶望に囚われる。そこに現れたネビュロスは、システムダウンしたセイジを圧倒し、「感情」という名の「エゴ」こそが行動原理だと語りかけた。自身の信条が打ち砕かれたセイジは、完全に思考停止してしまい……。

※本作品の執筆にはAIを活用しています。

 グリムは瓦礫の山を歩いていた。

 墜落の衝撃で回線が混線しているのか、数分前からずっと、亡霊の念仏のようなノイズが漏れ聞こえてくるのだ。


『ザザ……こちらJ-03……定期連絡……』

『現在、E-4ポイントにて……市民の……』


 壊れたレコードのように繰り返される、感情のない男の声。

 それが誰の声か、グリムはすぐに気づいた。

 あの石頭だ。


「チッ。……まだ『仕事』してんのか、あのボケは」


 グリムは不快そうに舌打ちすると、瓦礫を蹴り飛ばして、声の発生源へと向かった。

 助けるためではない。

 あまりに耳障りで、胸糞が悪かったからだ。


          *


 市街地跡。

 かつて公園だった場所は、墜落した要塞の破片で埋め尽くされていた。


 その中心で、黄金の装甲に包まれた巨体――ジャッジレッドことレクス・クレイドは、虚空に向かって敬礼を繰り返していた。


「了解。治安維持を最優先とする。……本部、次の指示を」


 返事はない。

 バイザーには【NO SIGNAL】の文字が赤く点滅している。

 数キロ先では、彼が帰るべき要塞が黒煙を上げている。

 物理的にも、組織的にも、「本部」など既に存在しない。


 だが、レクスはやめなかった。

 セイジの通信で「カイの裏切り」を知ってしまったからこそ、彼は狂ったように形式ルールに縋り付いていた。

 認めれば、自分が人生を捧げた「正義」が崩壊する。

 だから彼は、思考を止めた。


「市民発見。」


 瓦礫の陰に、逃げ遅れた老人と子供がうずくまっていた。

 レクスが近づくと、子供が悲鳴を上げ、老人たちが石を投げてきた。


「来るな! 悪魔め!」

「あっちへ行け! お前らのせいで!」


 カキン、カキン。

 小石が装甲を叩く。

 レクスは動じないフリをして、機械的に告げた。


「公務執行妨害に該当する。直ちに投石をやめ……」

「うるさい! 消えろ!」


 拒絶。恐怖。憎悪。

 守るべき市民からの敵意が、レクスの心を削り取っていく。

 それでも彼は、「法の番人」の仮面を外せない。


 その時だ。


 メリメリッ……!!


 不吉な音が響き、半壊していた雑居ビルが大きく傾いた。

 崩落。数トンの瓦礫が、逃げ遅れた市民たちの頭上へ雪崩落ちる。


「あ……」


 レクスのバイザーに、冷徹な計算結果が表示される。

 『リスク判定:極大。本部機能喪失時の規定により、隊員の安全確保を優先せよ』


 ――見捨てろ。

 それが組織の正解だ。

 自分を拒絶した人間を助けて死ぬなど、非合理的すぎる。


 だが。

 その論理的な思考を、身体が裏切った。


「く、うぅッ……!」


 思考停止していたはずの男が、初めてマニュアルを無視して動いた。

 黄金の巨体が、轟音を上げて落下する瓦礫の下へと滑り込む。


 ズドォォォォン!!


 凄まじい衝撃。


 ビルの残骸全てが、彼の背中に圧し掛かる。


「ぐ、ぅぅぅぅ……ッ!!」


 骨が軋む。装甲が悲鳴を上げる。

 このままでは潰れる。

 だが、手を離せば下の市民が死ぬ。


(なぜだ……。誰も見ていないのに。カイも、本部もいないのに)



 恐怖で足が震える。

 彼は英雄ではない。ただの、ルールに守られて生きてきた男だ。

 死にたくない。逃げ出したい。


「(誰か……誰か指示をくれ……!)」


 心が折れかけた、その瞬間。


「おい。そこ退けやデカブツ」


 ドゴォッ!!


 横合いから伸びてきた赤熱した腕が、レクスの肩ごと天井を殴りつけ、強引に押し上げた。


「……貴様、は……」


 そこには、不機嫌そうに顔を歪めた男――グリムがいた。

 全身ボロボロだが、その瞳だけはギラギラと燃えている。


「魔王……!? なぜ、貴様が……!」

「散歩の邪魔やねん。こんな道のど真ん中でスクワットしやがって」


 グリムは悪態をつきながら、自身の《魔導外殻マギア・シェル》を変形させ、即席の支柱として天井に突き刺した。


「おい爺さんら! いつまで寝とんねん!

 3秒で消えろ! でないとこいつごと焼き殺すぞ!!」


 グリムがドスの効いた声で恫喝する。

 その明確な「殺意」が、逆に市民たちの生存本能を叩き起こした。

 彼らは悲鳴を上げて走り出し、一瞬で安全圏へと消えた。


「……チッ。逃げ足だけは速いな」


 グリムが鼻を鳴らす。

 支えを失ったビルの重量が、さらに増す。


「おい、タイミング合わせろよ。……せーのッ!」

「……うおぉぉッ!」


 二人は同時に瓦礫を横へ放り投げ、バックステップで回避した。

 ドゴォォォン!!

 ビルが完全に崩壊し、先ほどまで彼らがいた場所を粉砕した。


 もうもうと舞い上がる粉塵の中。

 レクスは膝をつき、肩で息をしていた。

 対するグリムは、瓦礫の上に腰を下ろし、懐から潰れたタバコのような菓子を取り出して咥えた。


「……助けたのか」

 レクスが呆然と問う。

「私を……敵である私を、なぜ」


「あ? 勘違いすんな」

 グリムが煙を吐くように息を吐く。

「お前の独り言が耳障りやったんや。ノイズの発生源を止めに来ただけや」


「……独り言だと? 私は本部へ定時連絡を……」

 レクスはふらりと立ち上がり、


「本部、応答せよ。こちらジャッジレッド。

 ポイントE-4にて、崩落事故発生。次の指示を……」


 ザザ……ザザッ……。


「指示をくれ……誰か、正解を教えてくれ……」


 その姿はあまりに惨めだった。

 主人が死んだことに気づかない忠犬のように、あるいは壊れた玩具のように。


 グリムは苛立ちを隠さず立ち上がった。

 カツカツと足音を鳴らし、レクスの目の前まで歩み寄る。


「……カイ……応答を……」

「うっさいねんボケェ!!」


 バキィッ!!



「あ……」


 レクスは目を見開いた。


「黙れ」



「目ぇ覚ませや!!」


 至近距離での怒声。

 グリムは、哀れみと軽蔑の混ざった目で、レクスのバイザーを睨みつけた。


「本部は落ちた! カイはお前を捨てたんや!

 いつまで『圏外』の神様に祈っとんねん!!」


「……ッ!」


「お前の大好きなルールブックはもう燃えた! ここには上司もおらん!

 あるんはな、泥だらけの人間と……『どうしたいか』っていう自分の意志だけや!」


 ドンッ、と突き飛ばされるレクス。


 もう、どこにも繋がらない。

 物理的に切断されたその断面は、残酷なほど「終わり」を示していた。


 ――ああ、終わったんだ。


 絶望。だが同時に、ずっと頭の中で響いていた「正しくあれ」という強迫観念のノイズが、プツリと消えたのを感じた。


「……自分の、意志」


「……私は、助けたかった」

 レクスが独り言のように呟く。

「法だからじゃない。あの子が泣いていたから……身体が動いたんだ。

 私は……あの子を助けたかったんだ」


 それは、彼が初めて口にした、マニュアルに載っていない「本音」だった。


「……ケッ」

 それを見たグリムは、つまらなそうに鼻を鳴らした。

「やっと静かになりよったわ。

 ロボットの世迷い言よりは、マシな面構えになったやんけ」


「……グリム」

 レクスが顔を上げる。

「貴様は……こうなることが分かっていて、私を?」


「知らんわ。勝手に妄想すんな」

 グリムは背を向け、ひらひらと手を振った。

「俺はもう行くぞ。……ライガの野郎が暴れとる。シメに行かなあかんからな」


 遠くで、獣の咆哮と爆発音が響いていた。


「借りは……返させてもらう。いつかな」

「へッ。期待せんと待っとくわ」


 グリムは一度も振り返らず、炎の向こうへ消えていった。


 誰の命令でもない。

 ただ、一人の人間として、仁義を通すために。


(第15話へ続く)

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!


今回は、感情剥き出しの「魔王」グリムと、ルールに縛られた「石頭」レクス、という対照的な二人をフィーチャーしてみました。壊れた世界の中で、レクスが初めて「自分の意志」と向き合う瞬間を、グリムがぶっきらぼうながらも後押しする構図が描けたかな、と思っています。グリムの「耳障りやから」というセリフは彼の彼らしい優しさの表現ですね(笑)。彼らの奇妙な関係性が今後どうなっていくのか、ぜひ想像を膨らませていただけると嬉しいです。


もし少しでも面白いと感じていただけましたら、画面下の★★★★★から評価をいただけますと、今後の執筆の大きな励みになります!

ブックマークや感想なども、作者は大変喜びますので、ぜひお気軽に残していってくださいね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ