第2部 第11話『砕け散る空』
【前回のあらすじ】
聖断空母ジャッジメントは制御を失い、墜落軌道に突入。レクスたちはカイの裏切りを知らず、暴走するライガの原因が魔王の仕業だと誤認する。グリムはライガを救うため、満身創痍になりながら彼に組み付くが、要塞の崩壊と共に虚空へと投げ出されてしまう。セイジやアシュレイたちも彼らを追って、雲海へとダイブし、地獄への着陸まで残りわずかの中、必死に手を伸ばし合う。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
ゴオオオオオオオッ!!
鼓膜を劈く風切り音。内臓が浮き上がるような浮遊感と、全身を押しつぶす気圧の暴力。
高度 千五百メートル。
支える大地はなく、あるのは死へと続く虚空のみ。
崩壊した要塞の破片が、燃え盛る流星群となって彼らと共に堕ちていく。
地面激突まで、残された時間は数十秒もない。
「離せぇぇッ!! ハイジョ……ハイジョ……ッ!!」
その落下の中心で、きりもみ回転しながら二つの赤がもつれ合っていた。
暴走するバーニングレッド――ライガが、組み付いてくるグリムを引き剥がそうと、ゼロ距離で爆炎を放つ。
「ぐ、うぅぅ……ッ! 熱ッ……!」
グリムは瞬時に体表からマグマを噴出し、冷やし固める防御技《黒曜鎧》を展開する。
だが、ライガの熱量はその超硬度の装甲さえも飴細工のように溶解させる。皮膚が焦げる臭いが鼻をつく。
それでも、グリムは腕を解かない。
万力のように強く、ライガの身体を抱きしめたまま堕ちていく。
「離さん……絶対に離さんぞ、ライガァッ!!」
ここで手を離せば、ライガは孤独に燃え尽きながら地面に激突する。それだけはさせない。
たとえこの身が炭になろうとも、道連れになってでも、地上まで連れて行く。それが、母を失ったあの日、何も掴めなかった手で誓ったことだ。
「貴様ぁぁッ! バーニングから離れろ、魔王ッ!」
そのグリムの頭上から、黄金の弾丸が迫る。
ジャッジレッド――レクスだ。彼は背部のスラスターを全開にし、落下の加速に推力を乗せて突っ込んでくる。
身の丈ほどある処刑剣を、重力に任せて振りかぶる。
「《断罪両断》ッ!!」
当たればグリムごとライガも両断しかねない必殺の一撃。
思考停止した彼の正義は、友を救うことより「悪を排除する」ことを優先してしまっている。
「野暮だねぇ、石頭さん! 空気を読みなよ!」
ヒュンッ!
横合いから飛来した無数の光が、レクスの視界を覆い尽くした。
ヴェルミリオンが放った《夢幻蝶》だ。爆発性の鱗粉を纏った蝶が、レクスの目の前で次々と炸裂し、姿勢制御を崩させる。
「ぐっ、目くらましか! 小賢しい!」
レクスが剣を盾にして防御姿勢を取るが、爆風で軌道が逸れる。
「どけよ! 俺がバーニングを助けるんだ!」
今度はブレイズレッド――アシュレイが、足元から爆発を起こす移動技《爆炎推進》で空気を蹴り、不規則な軌道を描きながら突っ込んでくる。
「テメェら魔王に、俺たちのリーダーは触らせねぇ!」
「落ち着け、単細胞! 下を見ろ!」
ネビュロスが落下しながら魔導書を開く。
「《氷鎖・零結陣》!」
虚空から生成された冷気の鎖が、アシュレイの手足を絡め取る。
「なっ、空中で魔法だと!?」
「貴様らが暴れれば、要塞の瓦礫と接触して全員死ぬぞ! 少しは頭を使え!」
敵味方が入り乱れ、落下しながらのドッグファイトが展開される。
高度計のアラートが、無情にも高度千メートルを切ったことを告げる。
その混乱の中、きりもみ回転しながら堕ちていく男がいた。
セイジレッド――セイジだ。
彼は姿勢制御すら放棄していた。
彼のマスク内のHUDには、落下する瓦礫の軌道や気温といった生存に必要な情報と共に、別のデータが警告色で点滅していた。
要塞内で見たログ。
ライガの脳に埋め込まれた『強制執行』のコマンド。
その発行者IDは、何度再解析しても『UNITE-00(カイ)』を示している。
(……間違いない。これは、バグじゃない)
回転する視界の中で、空と地面が交互に入れ替わる。
そのめまぐるしい景色に、信じていた世界が崩れ落ちる絶望が重なる。
自分たちを導いてくれた完璧な参謀。理想のために感情を殺した、尊敬すべき上官。
彼が、仲間を――ライガを、使い捨ての爆弾に変えたというのか。
「セイジ! 何をしている、援護しろ! 魔王たちを落とすぞ!」
レクスの怒号が通信機から響く。
セイジの指先が震える。
このまま黙っていれば、ジャッジたちは魔王を攻撃し続けるだろう。そして、真実を知らぬまま死んでいく。
だが、真実を告げれば――彼らの「正義」は崩壊する。
(……効率的ではない。ここで魔王たちと争えば、全員が共倒れになる確率、99.8%。
……それに、何より)
セイジの脳裏に、かつてネビュロスに突きつけられた言葉がよぎる。
『世界は、お前のちっぽけな計算式に収まるほど単純じゃないんだよ』
そうだ。私の計算はずっと間違っていたのかもしれない。
今、我が身を焼いてまでライガを必死に守ろうとしているのは誰だ? 敵であるはずの魔王だ。
彼を壊したのは、誰だ? 味方であるはずの……。
セイジは、震える指で通信回線を「全域」に切り替えた。
風圧に逆らい、喉から血が出るほどの声で叫んだ。
「――攻撃を中止しろッ!!」
普段の彼からは想像もつかない、悲痛な絶叫が空に響いた。
風切り音さえ切り裂くその声に、レクスとアシュレイが驚いて動きを止める。
「な、なんだセイジ!? どうした!」
「敵は……魔王じゃない!」
セイジは涙ながらに真実を吐き出した。
「バーニングを暴走させたコマンドの発行元は……『ユナイトレッド』だ!
カイが……ライガを強制操作したんだ!!」
「は……?」
レクスの動きが完全に止まった。大剣を持つ手が力なく下がる。
「何を……言っている? カイが……そんなこと……」
「嘘だろ!? おいセイジ、バグったのかよ!?」
アシュレイも動揺し、バランスを崩して回転する。
「事実だ! ログが残っている!
彼はライガを『部品』として消費し、要塞ごと廃棄したんだ!
……私たちは、見捨てられた!!」
絶望的な沈黙。
だが、重力は待ってくれない。
ゴオオオオオオオォォォッ!!
頭上が暗くなった。
見上げれば、要塞のメインブロック――数万トンの鉄塊が、炎を纏って真上から迫っていた。
戦闘の余波で軌道が変わり、彼らの真上に来てしまったのだ。
このままでは、全員が押し潰される。
「呆けている場合かッ!!」
ネビュロスの怒鳴り声が、凍りついた空気を叩き割った。
「真実がどうあれ、今は生き残ることが先決だ!
あの瓦礫を砕かなければ、全員ミンチだぞ!」
「砕くって……どうやってだよ! 足場もねぇのに!」
アシュレイが叫ぶ。
「足場なら、私が作る!」
ネビュロスが魔導書を開き、真下の空中に魔力を放つ。
《氷晶浮島》
大気中の水分が瞬時に凝結し、巨大な氷のプラットフォームが形成された。
落下速度に合わせて高度を下げる、即席の足場だ。
「乗れ! 全員だ!」
「……了解!」
セイジが即座に反応した。
彼はスラスターを噴かし、レクスとアシュレイの腕を掴んで氷の上へと着地させる。
グリムとヴェルミリオンも、滑り込むように着地した。
その腕の中には、暴れるライガが抱えられている。
「ウガアアアアッ! ハイジョ……ハイジョ……ッ!!」
「暴れんなボケ! じっとしとけや!」
ライガは理性を失い、自分を助けようとしているグリムにすら牙を剥く。
至近距離からの熱線がグリムの顔面を焼こうとするが、グリムは頭突きでそれを逸らした。
「痛っ……! テメェ、帰ったら覚えてろよ!」
敵味方が入り乱れ、狭い氷の上で肩を並べる。
上を見れば、視界を埋め尽くす鉄と炎の壁。
「……クソッ! わけわかんねぇけど、死んでたまるかよ!」
アシュレイが両手のガントレットを構え、氷を踏みしめる。
「《灼熱噴火・火柱》!!」
巨大な火柱が鉄塊を炙る。
「迎撃する……! 今は、それしかない!」
レクスも迷いを振り切るように大剣を構えた。
「《審判の杭》」
衝撃波の塊を撃ち出す。
「合わせろ! 一点集中や!」
グリムがライガの首根っこを掴んで押さえつけながら、足に溶岩を集中させる。
「手ぇ貸せポンコツ! お前の火力も使うぞ!」
「ガアアアッ!!」
ライガの無差別放射と、グリムの蹴りが合わさる。
「《紅蓮爆脚》・改!!」
「演算完了。弱点は中央部!」
セイジが叫び、双剣を交差させる。
「《双刃連破》!!」
「美しくない鉄屑だねぇ!」
ヴェルミリオンが、毒を纏った無数の短剣を投擲する。
「《紫毒牙》」
「凍てつけ!」
ネビュロスが氷の槍を生成し、射出する。
「《氷晶弾》!」
敵も味方もない。
ただ「生きたい」という本能の下に、6つの力が一つになった。
「「「「うおおおおおおおおッ!!!」」」」
ズガァァァァァン!!
空中で大爆発が起きた。
巨大な瓦礫が粉々に砕け散り、燃え盛る破片となって四散する。
最悪の直撃は免れた。だが――
『高度、三百メートル! 衝撃に備えろ!』
セイジの警告。
足場の氷も砕け散り、再び自由落下が始まる。
「ネビュロス、クッション頼むで!」
「注文が多い! ……極大氷結魔法――《凍滅零界》!!」
カッ!!
地上の森が、一瞬にして白銀に染まった。
数キロメートルに及ぶ木々が、分厚い氷と雪のクッションに覆われる。
「突っ込むぞォォッ!!」
グリムはライガの襟首を掴み、自分の懐へ無理やり引き寄せる。
「絶対離すなよ! 落っこちても知らんで!」
ドォォォォォォォォォン!!!!!
7つの流星が、氷の森へと激突した。
舞い上がる氷煙。砕ける木々。
視界がホワイトアウトする。
意識が、衝撃と轟音の中に溶けていった。
…………。
……。
静寂。
燃える森の爆ぜる音だけが、遠く聞こえる。
瓦礫と氷塊の下から、一本の手が突き出した。
ボロボロの黒コート。グリムだ。
《魔導外殻》は砕け散り、全身血まみれだ。
「……ッ、はぁ、はぁ……。死ぬか思たわ……」
全身激痛。骨が数本いかれているのがわかる。
だが、彼は這い出した。
すぐに腕の中を確認する。
「……あ?」
いない。
掴んでいたはずのライガの姿が、どこにもない。
激突の衝撃で、弾き飛ばされたのか。
「あの馬鹿、どこ行きよった……!」
グリムが悪態をつく。
遠くの森から、獣のような咆哮が聞こえる。
それは、まだ暴走を続ける「彼」の声だった。
「……チッ、手のかかる野郎やな」
散り散りになった仲間たち。
明らかになった裏切り。
そして、野に放たれた破壊の化身。
地獄のサバイバルが、幕を開けた。
(第12話へ続く)
今回もお読みいただき、誠にありがとうございます!
高度1500メートルからの落下、迫り来る要塞の瓦礫、そして明かされる衝撃の真実と、今回は息つく暇もない展開だったかと思います。
特に、セイジの葛藤と、彼が下した決断が、この絶望的な状況を打破する大きな転換点になったと感じていただけたら幸いです。ネビュロスの「不確定要素」という言葉が、この極限状態でセイジの心にどう響いたのか、ぜひ想像しながら読んでいただけると嬉しいです。
信頼していたカイの裏切り、そして迫りくる数万トンの鉄塊……絶体絶命の危機に、彼らがどう立ち向かうのか、次話以降にもご期待ください!
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それでは、また次回お会いしましょう!




