第2部 第10話『墜ちる空、混迷の赤』
【前回のあらすじ】
カイによって強制執行されたライガは暴走し、要塞の動力炉を破壊。聖断空母ジャッジメントは制御を失い、墜落軌道へと入る。
そこへ救援に駆けつけたセイジ、レクス(ジャッジレッド)、アシュレイ(ブレイズレッド)だったが、彼らは事態の元凶がカイであるとは知らず、魔王たちの仕業だと誤認する。
暴走するライガの炎が敵味方なく襲いかかる中、鉄の棺桶は雲海の下へと堕ちていく。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
空中要塞『ジャッジメント』の高度維持システムは完全に沈黙し、数万トンの鉄塊が断末魔の軋みを上げながら、真っ逆さまに雲海へと堕ちていく。
鼓膜を引き裂く風切り音と、内臓が浮き上がるような浮遊感。
世界が傾き、重力の定義が崩壊する。
「うわぁぁぁッ!?」
床が壁になり、壁が天井になる。
グリムは咄嗟に近くの手すりに掴まり、身体を支えた。固定されていない機材が、雪崩のように滑り落ちていく。その先にあるひび割れた窓の向こうには、恐ろしい速度で迫りくる雲海が見えた。死へのカウントダウンが、秒刻みで精神を削り取っていく。
「やれやれ、これじゃあ『悲劇』というより『喜劇』だねぇ……!」
ヴェルミリオンは《道化の舞》を展開し、実体を持つ分身を生成。その『もう一人の自分』に身体を支えさせ、パイプになんとかしがみつく。だが、凄まじい負荷に顔が歪んだ。分身の輪郭がノイズのように揺らぐ──長くは持たない。
「空飛ぶ鉄の棺桶で心中なんて、僕の美学には反するよ。もっと優雅に散りたいものさ」
軽口を叩きながらも、その額には脂汗が滲んでいた。彼にとっても、この状況は「演出」の範疇を超えている。
だが、この極限状態にあっても、殺意の連鎖は止まらない。
セイジ、ジャッジ、ブレイズの三人は、地下水道のアジト急襲から緊急転送で舞い戻ったばかりだった。
転送の光が消えるのと同時に彼らが目にしたのは、炎に包まれた生体調整室と、怪物と化して咆哮を上げるリーダーの姿だった。
そして、その傍らには魔王たちがいる。
状況証拠はあまりにも残酷で、そして誤解を生むには十分すぎた。
「魔王共! 貴様ら一体これはどういうことだ! 卑劣な真似を!」
黄金の重装甲を軋ませ、ジャッジレッド――レクスが吠えた。
彼は重力変動など意に介さぬように大剣を床に突き立てて身体を固定し、殺意に満ちた瞳でグリムを睨み据えている。
その瞳にあるのは、純粋な正義感ではない。「理解できない事態」への恐怖と、それを「悪のせい」にすることで精神の均衡を保とうとする脆さだった。
「話聞けや石頭! これやったんは、お前らの大好きな参謀様やぞ!」
グリムが叫び返す。だが、その言葉はレクスの心の壁に弾かれる。
「黙れ! カイが同志を傷つけるなどありえん! 貴様らの戯言になど耳は貸さん!」
レクスは聞く耳を持たない。「法」と「秩序」を絶対視する彼にとって、組織の裏切りを認めることは、自分自身の存在意義を否定することと同義なのだ。
「《断罪両断》ッ!!」
レクスが大剣を引き抜き、落下の加速を利用してグリムへと飛びかかる。
身の丈ほどある鋼鉄の塊が、要塞の質量すら味方につけて振り下ろされる。単純だが、それゆえに回避困難な絶望的質量。
「チッ、わからず屋が!」
グリムは《紅蓮拳》を合わせる。溶岩の噴出力を利用したアッパーカットが大剣の腹を打ち上げる。
ガギィィィン!!
火花が散り、互いに弾き飛ばされる。足場が悪いため、二人とも壁際まで滑っていく。
その混乱の中心で、ただ一人、重力を無視して暴れる怪物がいた。
「ウガアアアアアアアッ!!」
暴走したバーニングレッド――ライガだ。
彼は足裏と背中のスラスターから爆炎を噴射し、無重力空間を泳ぐように跳ね回りながら、周囲の壁や床を無差別に溶解させていた。
そこには、かつてグリムと拳を交わし、不器用ながらも「誰かを守りたい」と願った青年の面影はない。あるのは、システムに食い尽くされた破壊の衝動だけだ。
「おいバーニング! 目ぇ覚ませよ! 俺だ、仲間だろ!」
マグマのような装甲を纏ったブレイズレッド――アシュレイが、瓦礫を蹴ってライガの前へと躍り出る。
普段は粗暴な彼だが、その声は震えていた。いつも背中を預けていたリーダー。誰よりも熱く、誰よりも優しかった男が、こんな姿になるなんて信じたくなかった。
彼は両手を広げ、友を止めようとした。
だが、ライガの虚ろなバイザーが彼を捉えた瞬間、返ってきたのは容赦のない拳だった。
「ハイジョ……対象、ハイジョ……」
ドガッ!!
ライガの拳がアシュレイの腹部にめり込む。
「がはッ……!?」
アシュレイがくの字に折れ曲がり、機材の山に叩きつけられる。
「ってぇな……! マジかよ……!」
痛みよりも、拒絶された事実が彼の心をえぐる。
「ブレイズ!」
セイジが駆け寄り、ライガとアシュレイの間に割って入る。
蒼き流線型のスーツが光り、双剣が展開される。
「解析看破!」
ライガの振るう豪腕を、セイジは紙一重で回避する。
それは反射神経ではない。敵の筋肉の動き、視線、熱源反応から攻撃軌道を瞬時に演算し、未来を予測して動く彼独自の戦闘スタイルだ。
最小限の動きですれ違いざまに斬撃を入れる――はずだったが、セイジの剣はライガの装甲を浅く撫でるに留まった。
(斬れない……いや、斬りたくないのか?)
自分の論理に、感情というノイズが走る。
「無駄だ、ブレイズ。彼の思考回路は完全に書き換えられている。今の彼にとって、我々はただの『障害物』だ」
セイジは淡々と告げるが、その声には隠しきれない動揺が混じっていた。
「そんな……嘘だろ……」
セイジは冷静にライガの動きを捌きながら、バックグラウンドで要塞のログ解析を続けていた。
彼の脳裏に、一つの疑念が浮かび上がる。
(バーニングの状態異常……外部からの干渉痕跡がない。内部システムからの『強制執行』コマンド……発行IDは……)
そのIDは、紛れもなくユナイトレッドのものだった。
(カイ……君が、これを? 効率のために、仲間を部品として消費したというのか?)
セイジの指先が微かに震える。論理的な思考回路が導き出した「真実」を、彼の心が拒絶しようとしていた。信じていた秩序が、足元から崩れ去っていく感覚。
ズズズズズ……ン!!
要塞がさらに大きく傾く。今度は垂直に近い角度だ。
全員が壁に叩きつけられる。
『警告。高度二千メートル。地表激突まで、あと六十秒』
「時間がない!」
ネビュロスが 絶対結界で落下物を六角形の氷の結晶を組み合わせた多重障壁で防ぎながら叫ぶ。
「このままでは全員道連れだ! 脱出するぞ!」
「出口なんて瓦礫で塞がってるよ! 美しくない最期だねぇ!」
ヴェルミリオンが毒づく。
「なら壁をぶち抜くしかないやんけ」
グリムが、炎の中で暴れまわるライガを見据える。その瞳には、恐怖ではなく、燃えるような決意が宿っていた。
「……あいつを連れてな」
「グリム、まだそんな甘い希望を抱いているのか?」
ネビュロスが冷徹に制止する。
その目は、感情を排した計算結果だけを見ていた。
「あれはもう人間ではない。ただの暴走するエネルギー炉だ。いくら炎に耐性あるお前でもいずれ灰になるぞ」
「うるさいわボケ! 希望ちゃうわ、これは俺の『意地』じゃ!!」
グリムは叫び、空中で身を屈め、魔力を溜める。
足場にした鉄骨がミシミシと悲鳴を上げる。
グリムが駆け出す。
垂直になった床を蹴り、瓦礫を足場にして、ライガの懐へと飛び込む。
かつて、自分は村を守れなかった。母を救えなかった。
だからこそ、目の前でまた過去を繰り返したくない、手放すわけにはいかない。
「そこを退け、ジャッジ! 俺はあいつを止める!」
「させるか! 悪にバーニングは渡さん!」
レクスが立ちはだかり、巨大な処刑剣を盾のように構える。
「《威圧の盾》!」
大剣の側面から衝撃波が発生し、金色の防御壁となる。物理攻撃を弾き返す鉄壁の守り。
だが、今のグリムには通じない。
全身の《魔導外殻》からマグマのような魔力を噴出させ、限界を超えて加速する。
「邪魔やぁぁぁッ!!」
ドゴォォォォン!!
グリムの《紅蓮爆脚》が、レクスの構えた大剣の芯を捉えた。
防御の上から叩き込まれた、魂の乗った一撃。
「ぐ、うぅぅ……ッ!?」
パワー自慢のレクスが、その圧力に競り負ける。大剣ごと吹き飛ばされ、よろめいて落下していく。
その隙を突き、グリムはライガに組み付いた。
「捕まえたぞ、バカ野郎!」
ノーガードのタックル。
ライガの全身から放たれる超高熱が、グリムの装甲を焼き、皮膚を焦がす。
ジュウウウゥ……ッ! 肉の焼ける音が響く。
「離せ……ハイジョ……!」
ライガがグリムの背中を殴りつける。
ドスッ、ドスッ、と鈍い音が響く。グリムの口から血が溢れる。
「……あぁクソッ、熱いし痛いなァボケェッ!……!
けどな、お前の心の痛みほどやないやろ!
勝手に壊れて終わった気になんなよ! お前をぶっ飛ばすんは俺の役目やぞ!!」
その叫びが、ライガの虚ろな意識に届いたのか。
振り上げられたライガの拳が、一瞬だけ止まった。
だが、無情にも要塞の崩壊は限界を迎える。
バキィィィィン!!
二人が立っていた外壁が、根元からへし折れた。
轟音と共に壁が剥がれ落ち、眼下に広がる雲海と、急速に迫る地上が露わになる。
支えを失った空間が、重力に従って千切れ飛ぶ。
「うわああああああッ!!」
グリムとライガ、二人の身体が要塞の外――何もない虚空へと放り出された。
重力が内臓を押し上げ、風が肌を切り裂く。
「グリム!!」
ネビュロスとヴェルミリオンが叫び、躊躇なく穴へと飛び込む。
「バーニング!!」
アシュレイたちもまた、後を追って虚空へダイブした。
燃えながら墜ちていく巨大な鉄塊。
その周囲に散らばる、七つの小さな点。
高度千五百メートル。
死へのカウントダウンが加速する中、彼らは空中で必死に手を伸ばし合う。
「捕まれェェッ!!」
自由落下の猛烈な風圧の中、それぞれの想いが交錯する。
地獄への着陸まで、あとわずか。
(第11話へ続く)
今回も『墜ちる空、混迷の赤』をお読みいただき、誠にありがとうございます!
聖断空母ジャッジメントの墜落という、息を呑むような展開の中、キャラクターたちの様々な思惑が交錯するエピソードとなりました。レクスの揺るぎない(良くも悪くも)信念、アシュレイの友を思う気持ち、そしてセイジが真実に気づき始める瞬間の葛藤……それぞれのキャラクターが極限状態で何を想い、どう動くのかを描けていたら幸いです。特に、グリムの「諦めない」という強い決意が、この絶望的な状況をどう変えていくのか、今後の展開にご注目いただければと思います。カイの冷徹な一手が、思わぬ波紋を広げていきますね……。
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それでは、また次話でお会いしましょう!




