第2部 第7話『鋼の迷宮、揺れる赤心』
【前回のあらすじ】
ポルクが開発した魔力結晶化デバイス「魔導外殻マギア・シェル」を装着し、魔王たちは新たな力を手に入れた。ライガを救うため、彼らはバーニングレッド率いる「正義の味方」と森で対峙。魔導外殻を纏い変貌したグリムはバーニングと激突、ヴェルミリオンとネビュロスも敵を分断し、四対三の総力戦が幕を開けた。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
「オラオラオラァッ! 逃げんじゃねぇぞ、スカした野郎!」
夜の森を焦がすほどの爆炎が、幾重にも炸裂する。
ブレイズレッドが両手の平から放つ火球は、一つ一つが手榴弾並みの威力を持ち、着弾するたびに大地を抉り取っていく。
だが、その灼熱の嵐の中を、一匹の紫の蝶のように舞う影があった。
「熱いねぇ。でも、単調だよ」
ヴェルミリオンだ。
彼が纏う紫の《魔導外殻》は、昆虫の外骨格のように滑らかで、関節部からは常に幻覚作用のある鱗粉が噴出している。
ブレイズの放った火球が直撃する――と見せかけて、その身体が陽炎のように揺らぎ、すり抜ける。
実体がないのではない。
攻撃が当たる瞬間に、自身の位置を数センチずらし、さらに幻影で「当たったように見せかけている」のだ。
「クソッ、どこだ! 出てこい!」
ブレイズが焦燥の声を上げ、周囲を闇雲に焼き払う。
視界は紫の霧に覆われ、平衡感覚すら怪しくなってくる。
自分が本当に敵を追っているのか、それとも自分の影と戦わされているのかすらわからない。
「君は焦りすぎだ。……カイに認められたくて必死なのはわかるけど、そんなにガツガツしてちゃ、誰も見てくれないよ?」
霧の奥から、嘲笑うような声が響く。
それはブレイズが一番触れられたくない、心の柔らかい部分を正確に衝いていた。
承認欲求。功名心。
「俺を見てくれ」という叫びが、空回りして暴力に変わる。
「テメェ……! 俺をナメるなァッ!!」
ブレイズの拳が空を切る。図星を突かれた苛立ちが、彼の動きを雑にさせていく。
一方、戦場の反対側では、静寂と轟音が交錯していた。
「演算完了。氷壁の強度は前回比250%……。物理破壊は非推奨」
セイジレッドが冷静に告げる。彼のバイザーには、目の前にそびえ立つ巨大な氷の城塞の構造図が表示されていた。
だが、隣に立つジャッジレッドは聞く耳を持たない。
「問答無用! 力で押し通る!」
ジャッジが大剣を振り上げる。
数トンの質量を持つ鋼鉄の塊が、氷壁に叩きつけられた。
ズガァァァン!!
鼓膜を破るような衝撃音。氷の破片が散弾のように飛び散る。
だが、氷壁は健在だった。
ヒビ一つ入っていない。
それどころか、砕けた破片が自律的に動き出し、ジャッジの装甲にまとわりついて凍結させていく。
「学習しないな」
氷の城塞の頂上。
蒼き結晶の鎧を纏ったネビュロスが、冷ややかに見下ろしていた。
彼の指先には魔導書が浮遊し、戦場全体の魔力分布をリアルタイムで書き換えている。
「お前たちは『システム』に頼りすぎている。
与えられた力、与えられた命令……。そこに『自分』がないから、想定外の事態に弱いのだ」
「黙れ! 私は……法に従うだけだ!」
ジャッジの叫びは、どこか悲痛に響く。
自ら考えることを放棄し、システムの歯車になることで心の平穏を保ってきた男。
ネビュロスの言葉は、その脆い殻を内側からノックする。
*
そして、戦場の中央。
そこでは、次元の違う殴り合いが行われていた。
ドガァッ! ズドォン!!
衝撃波だけで地面が陥没し、巨木が爪楊枝のように折れ飛ぶ。
赤黒い溶岩の鎧を纏ったグリムと、真紅の科学スーツを纏ったバーニングレッド。
二つの「赤」が、真正面から激突していた。
「排除……排除……」
バーニングの動きに迷いはない。
右腕のヒート・ガントレットが唸りを上げ、正確無比にグリムの急所を狙う。
回避も防御も最小限。ダメージを顧みない、特攻兵器の動きだ。
グリムはその全てを、正面から受け止めていた。
拳を受け流し、肩でタックルを弾き返す。
「排除排除って、壊れたラジオかお前は!」
ドスッ!
グリムの拳が、バーニングの腹部に突き刺さる。
だが、バーニングは表情一つ変えずに、カウンターの肘打ちを返してきた。
グリムの頬が裂け、血が飛ぶ。
「……痛いなァ、クソッ」
グリムは血を拭い、ニヤリと笑った。
「けどな、全然効かへんわ。
……お前の拳は、こんなに軽くなかったはずやろが!!」
グリムが踏み込む。
《魔導外殻》のリミッターを解除。背中の排気口から、赤黒い魔力が噴出する。
「うおおおおおッ!!」
渾身の右ストレート。
それは技術でも速度でもない。
「目を覚ませ」という、魂の叫びを乗せた一撃。
ガギィィィン!!
バーニングのガードごと、その身体を吹き飛ばす。
巨木を三本なぎ倒してようやく止まったバーニングは、ゆらりと立ち上がろうとして――膝をついた。
『エラ……ー。思考回路に……ノイズ……』
無機質なバイザーの奥で、赤い光が明滅した。
完璧に書き換えられたはずのプログラムに、亀裂が入る。
痛み。熱さ。そして、目の前の男への「感情」。
それらがノイズとなって、洗脳の鎖を揺さぶる。
「思い出したか?
俺と初めて殴り合った時の痛みを。……お前が守りたかったもんの重さを!」
グリムは追撃の手を緩めない。
ここで情けをかければ、ライガは一生、人形のままだ。
歪められた友の魂を、拳の痛みで叩き直すための荒療治。
「グ……う、あ……」
バーニングが頭を抱える。
その様子を見て、後方のセイジが動揺する。
「バーニング! あいつ、システムに異常が……」
「退がれ、ブレイズ。……これは、ただの故障じゃない」
セイジが呟く。
彼のバイザーには、ライガの脳波データが表示されていた。
そこには、洗脳プログラムに抗うように発生した、強烈な「自我の波形」が映し出されていたのだ。
それは、科学では説明のつかない、魂の抵抗。
「……撤退だ」
セイジが即座に判断を下す。
「ライガの再調整が必要だ。このままでは暴走し、機体が自壊する」
「逃げるのかよ!」
ブレイズが喚くが、セイジは無視して煙幕弾を投下する。
白い煙が戦場を覆う。
「覚えておけ、魔王。……この勝負、預けておく」
ジャッジが悔しげに捨て台詞を吐き、バーニングを回収して姿を消した。
静寂が戻った森。
《魔導外殻》を解除したグリムは、荒い息を吐きながら大の字に寝転がった。
「……逃げられたか」
「だが、手応えはあった」
ネビュロスが眼鏡を拭きながら言う。
「あのバーニングレッド……最後の一瞬、攻撃を躊躇った。洗脳は完璧ではない」
「だね。心までは殺しきれてない。君の愛のムチが効いたんじゃない?」
ヴェルミリオンがからかうように笑う。
グリムは、空を見上げた。
夜が明け、白々とした空が広がっている。
「次は……必ず連れ戻す。
首輪引きちぎってでもな」
その頃。
帰還したジャスティスフェイス本部では、カイ(ユナイト)がモニターを睨みつけていた。
「馬鹿な……。思考制御に『抵抗』だと?」
画面の中のライガのデータは、異常な数値を示していた。
それは、計算外の「感情」というバグだった。
(第8話へ続く)
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!
今回の第7話は、魔王戦隊とジャスティスフェイス、それぞれのキャラクターたちの内面に深く切り込む回となりました。
特にグリムとバーニングレッド(ライガ)の戦いは、単なる力の衝突ではなく、まさに魂のぶつかり合い。グリムの「目を覚ませ」という渾身の一撃が、ライガの心の奥底に届いた瞬間は、書いていて非常に熱くなりました。彼の洗脳が完全に解けるのか、それともまだ一波乱あるのか、ぜひ今後の展開にもご期待ください。
また、ヴェルミリオンの幻惑術や、ネビュロスがジャスティスフェイス側の「システムへの依存」を突きつける描写も、今回注目していただきたいポイントです。彼らが「自分」を見つける日は来るのでしょうか……?
少しでも楽しんでいただけたなら、画面下の★★★★★から評価をいただけると大変励みになります!
ブックマークやご感想も、執筆のモチベーションに繋がりますので、ぜひお気軽に送ってくださいね!
それでは、次話でまたお会いしましょう!




