第2部 第5話『鎖で繋がれた英雄たち』
【前回のあらすじ】
魔王たちが反撃の狼煙を上げた頃、ジャスティスフェイスの本部では、不穏な静寂が支配していた。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
聖断空母ジャッジメント、生体調整室
そこは、正義の名の下に封印された、組織の最も暗い秘密が眠る場所。
薄暗い照明の中、培養液のような緑色の液体に満たされた円筒形のカプセルが、不気味な光を放っていた。
その中で、ライガ・アラン(バーニング)は眠っていた。
全身に無数のチューブや電極が繋がれ、脳に直接データが書き込まれていく。
かつて戦場を駆け巡った強靭な肉体は、今はただの検体として、ピクリとも動かない。
時折、電極から走るパルスに合わせて、彼の眉間が苦痛に歪むだけだ。
その異様な光景を、強化ガラス越しに見つめる三人の男たちがいた。
アシュレイ、レクス、セイジ。
かつてライガと共に戦い、背中を預け合った仲間たちだ。
「……おい。これは何の冗談だ?」
アシュレイ(ブレイズ)が、震える声で呟く。
彼はガラスを乱暴に叩いた。ゴンッ、と鈍い音が静寂を破る。
「再教育って聞いたぞ。こんな……脳みそ弄り回して、あいつを何にするつもりだ!?
これじゃまるで、壊れたオモチャの修理じゃねぇか!」
「静かにしろ。…」
セイジ(セイジレッド)が小声で制するが、その顔色は青ざめ、額には脂汗が滲んでいる。
彼は手元の端末を操作し、カプセルのデータを盗み見ようとしていたが、その手が小刻みに震えていた。
「黙ってられるかよ!
俺たちはヒーローだろ!? 誰かに『すげぇ』って言われるために、誰かを守るために戦ってるんじゃねぇのかよ!
こんな……自我もねぇ人形になって、誰が俺たちを称えてくれるんだよ!」
アシュレイの叫びは、空虚なドックに木霊するだけだ。
承認欲求の塊だった彼にとって、「個人の意志」を奪われることは、死よりも恐ろしいことだった。
自分が自分であることを誇示できなければ、戦う意味がない。
ライガの姿は、彼の未来を映す鏡のように見えた。
「……落ち着け、アシュレイ」
レクス(ジャッジ)が重々しく口を開く。
その声は低く、そしてどこか自信なげだった。
「これは『決定事項』だ。我々に拒否権はない。
組織の秩序を守るため、逸脱者は修正される。……それが法だ」
「法だ? 秩序だ? 笑わせんなよ!」
アシュレイがレクスの胸倉を掴み、壁に押し付ける。
普段なら力で勝るはずのレクスが、無抵抗のまま揺さぶられる。
「お前はそれでいいのかよ! あいつは仲間だぞ!?
俺たちを一番引っ張ってくれた、頼れるリーダーだったじゃねぇか!
法だの秩序だの偉そうに言って、結局は言いなりか!?」
「ッ……!」
レクスは言葉を詰まらせる。
グリムに言われた「思考停止」という言葉が、呪いのように蘇る。
『お前は、自分の頭で考えていない』
(私は……また、見ないふりをするのか? 友が壊されていくのを、ただ黙って……)
彼の握りしめた拳が、小刻みに震えていた。
法を守るはずの盾が、仲間を守れていないという矛盾。その罪悪感が、彼の巨体を内側から蝕んでいく。
その横で、セイジは感情を押し殺すように、無言で端末を操作していた。
「……感情野の活動、ほぼ停止。戦闘ロジックのみが上書きされている。
記憶領域への干渉レベル、深度9。……人格の再構築が完了しつつある。」
淡々とした報告。だが、その指先はキーボードを叩くリズムを乱していた。
彼は論理で世界を見てきた。だが、目の前の光景はあまりにも非論理的で、残酷すぎた。
「非効率だ。個人の判断能力を奪えば、不測の事態に対応できない。
イレギュラーな事象に対して、マニュアル通りの反応しかできなくなる……。
カイのやり方は、あまりに焦りすぎている。これは組織の弱体化を招く愚策だ」
セイジは「効率」という言葉で武装しているが、その本音は恐怖だった。
自分の誇りである知性が、他人に書き換えられる恐怖。
自分が積み上げてきた計算が、強制的にリセットされる恐怖。
ライガのように、自分もただの「処理装置」にされる日が来るのではないか。
彼らは気づいていた。
この組織が、そして自分たちが信じてきた「正義」が、狂い始めていることに。
だが、誰もそれを止める勇気を持てなかった。
反逆すれば、自分もあのカプセルの中だ。
恐怖という鎖が、彼らの足首に重く絡みついていた。
「――議論は終わりか」
背後から、冷徹な声が響く。
三人が弾かれたように振り返る。
カイ(ユナイト)だ。
無表情で彼らを見下ろしている。
その瞳は、かつての親友であるライガを見ても、一片の揺らぎも見せない。
まるで、壊れた部品を検品する工場長のような目だ。
「彼は生まれ変わる。
私情を捨て、完璧な正義を執行する『システム』としてな。
……君たちも、彼を見習うといい」
その言葉に、三人は戦慄した。
「見習え」という言葉は、「従わなければ次は自分たちの番だ」という無言の宣告だった。
カイはもう、仲間ではない。彼らを管理し、使い潰す独裁者なのだ。
「出撃だ。魔王たちの居場所が割れた。
地下水道エリアだ。ネズミ狩りの時間だぞ」
その背中は、かつて共に夢を語った親友のものではなく、冷酷な支配者のそれだった。
「新生バーニングレッドの初陣だ。……遅れるなよ」
プシュウゥ……。
カプセルの液体が排出され、ガラスが開く音が響く。
拘束具が外れ、ライガがゆっくりと目を開く。
その瞳は、深淵のように暗く、何も映していなかった。
かつての熱い光は消え失せ、ただ命令を待つだけの機械の目がそこにあった。
彼は感情のない動作で、差し出された真紅のヘルメットを手に取る。
「……了解」
ライガの口から漏れた、無機質な声。
それは、かつての「頼れる兄貴分」の死を告げる弔鐘のようだった。
アシュレイは吐き気を堪えて口元を覆い、レクスは拳を握りしめて俯き、セイジは耐えきれずに目を逸らした。
誰も、ライガに声をかけることができなかった。
バラバラになりかけた歯車が、恐怖という油で無理やり回され始める。
彼らは空母を飛び立つ。
その背中には、かつてのような誇りはなく、ただ重い「鎖」だけが絡みついていた。
(第6話へ続く)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、ライガの悲劇的な変貌と、それを見せつけられるアシュレイ、レクス、セイジたちの葛藤を中心に描きました。かつての仲間が「システム」として生まれ変わる様は、彼らにとって何よりも恐ろしい「正義」の執行だったのではないでしょうか。
「正義」の名の下に個人の意思が奪われることの恐怖、そしてそれに抗えない無力感。組織の狂気が加速していく中で、それぞれのキャラクターが何を思い、どう行動していくのか、今後の展開にご期待いただければ幸いです。カイの冷酷な変化も、物語の重要なポイントとなります。
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