第2部 第2話『刻まれた傷、語られる夜』
【前回のあらすじ】
研究員エルザとポルクを仲間に加えた魔王たちは、打倒ジャスティスフェイス、そしてライガ奪還のための準備を始める。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
地下水道のアジト。
即席の研究ラボと化した一角で、エルザとポルクが端末に向かっていた。
「すごい……。魔力の波長を数式に変換できるなんて」
「ネビュロスさんの理論、完璧です! これなら、ジャスティスの対魔力装甲を『貫通』する術式も組めるかもしれません!」
ポルクが興奮気味に叫ぶ。
その横で、ネビュロスは淡々と魔導書のページをめくっていた。
「騒ぐな。理論は理論だ。実戦で使えなければゴミと同じだ」
「は、はい! すみません!」
「……意外と面倒見がいいんですね」
エルザが、コーヒー(泥水に近い代物だが)を差し出しながら微笑む。
「もっと冷酷な方かと思っていました。『魔王』なんて呼ばれているから」
「……フン。心外だな」
ネビュロスは片眼鏡を直し、コーヒーを受け取った。
「私は無駄が嫌いなだけだ。それに……」
彼はふと、遠くを見る目をした。
「かつて私の故郷には、多くの弟子たちがいた。彼らも、お前たちのように目を輝かせて知識を求めていたよ」
「故郷……ですか?」
「ああ。北の果てにある、氷と書物の村だ」
ネビュロスが語り始める。10年前の記憶を。
当時、ジャスティスフェイスの前身となる組織が、彼の村を訪れた。
目的は「知識層の排除」と「子供たちの徴用」。
魔力適性の高い子供をさらい、兵器として洗脳するためだ。
「奴らは、我々が守ってきた書物を焼き払い、抵抗する大人たちを次々と処刑した。
そして残った子供たちに、『教育』を施したのだ」
ネビュロスの声が震える。
「『親は反逆者だった。正義の兵士として生まれ変われ』とな。
……たった数日で、子供たちの目は死んだ。
親の死体の前で、奴らの教義を復唱させられる姿を……私は見ていた」
「酷すぎる……」
エルザが口元を覆う。
「私は、残された数人の弟子だけでも助けようとした。
だが、逃げ場はなかった。村は包囲され、炎が迫っていた」
ネビュロスは、自身の手を見つめた。
白く、冷たい手。
「だから私は、彼らごと村を『凍らせた』のだ」
「えっ……?」
ポルクが目を見開く。
「殺したのではない。絶対零度の氷で時間を止め、仮死状態にしたのだ。
……奴らに連れ去られ、心を殺されるくらいなら、氷の中で永遠に眠っている方がマシだと判断した」
それは、守るための封印。
だが、傍から見れば、自らの手で故郷を滅ぼした「氷の魔王」の所業だ。
「その日からだ。私が『魔王』と呼ばれるようになったのは。
……私は、この氷が溶けるその日まで、世界を許さない。
知性を踏みにじり、子供の未来を奪った『正義』を、根絶やしにするまでは」
重い沈黙。
それは狂気ではなく、あまりにも深すぎる愛情の裏返しだった。
その話を聞いていたポルクが、ハッとしたように端末を操作した。
「……まさか。
セイジレッドのスーツの演算パターン……これ、ネビュロスさんの魔力波長と、酷似しています」
「何?」
「いえ、正確には『反転』しているんです。
あなたの『時間を止める(保存する)』魔力を解析して、逆に『超高速で時間を先読みする』システムに組み替えているような……」
「……なるほどな」
ネビュロスは片眼鏡を押し上げ、冷ややかに呟いた。
「私の『守るための氷』すらも、奴らは兵器のデータとして利用したというわけか。
セイジレッド……。あの男が私に執着する理由が、わかった気がする」
奪われた過去が、敵の力となっている皮肉。
その因縁が、ネビュロスの瞳に冷たい闘志を宿らせる。
その時、天井の梁から拍手が聞こえた。
「いやぁ、重いねぇ。空気が凍りそうだ」
「ヴェルミリオンか」
ネビュロスが見上げると、紫の影がひらりと舞い降りた。
「盗み聞きとは趣味が悪い」
「人聞きの悪い。僕はただ、次の演目の参考にしたかっただけさ」
ヴェルミリオンは妖艶に微笑み、エルザたちの前に立った。
「堅物の話は退屈だったかい?
なら次は、僕の話を聞かせてあげようか。
……この世界で一番美しくて、一番残酷な『嘘』の話をね」
夜はまだ長い。
それぞれが抱える傷跡が、地下の闇の中で交錯していく。
(第3話へ続く)




