第23話『赤と銀、交錯する正義(後編)』
【前回のあらすじ】
互いの信じる「約束」が食い違ったまま、ライガとカイは激突する。言葉では届かない想いを拳に乗せ、二人の戦いは熾烈を極めていく。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
「うおおおおおおッ!!」
「はぁぁぁぁぁッ!!」
司令室の壁が砕け散り、二つの光が夜空へと飛び出した。
赤と銀。
流星のように交錯しながら、互いに致命的な一撃を放ち合う。
「逃がさんぞ、カイ!」
ライガがスラスターを全開にする。右腕のヒート・ガントレットが、過熱で白く発光している。
「爆熱剛拳!!」
「単純だと言っている!」
カイが空中で静止し、背中の光翼を展開する。
「重力崩壊!」
見えない巨大な圧力が、ライガを空中で押し潰そうとする。
ミシミシと装甲が悲鳴を上げる。骨が軋む音が、スーツ内にも響く。
だが、ライガは止まらない。
「重い……! だが、俺が背負ってきた『想い』に比べれば……こんなもんッ!!」
炎の推進力で、重力の檻を食い破る。
カイの目が驚愕に見開かれる。
「馬鹿な……物理法則を無視しているだと!?」
「理屈じゃねぇ! これが……俺の選んだ『自由』だぁぁッ!!」
ドガァッ!!
ライガの拳が、カイの重力障壁ごと、その顔面を打ち抜いた。
銀色の仮面が砕け散り、素顔が露わになる。
そのまま二人は絡み合い、螺旋を描きながら地上へと墜落していった。
ズガガガガ……!
広場に巨大なクレーターが穿たれる。
土煙の向こう、駆けつけたグリムたちが息を呑んで見守る中、二つの影がゆらりと立ち上がった。
「……ハァ、ハァ……」
カイが口元の血を拭う。その端整な顔は歪み、余裕は消え失せていた。
「なぜだ……ライガ。
お前はただの兵士だ。私のシステムの一部だ。
なぜ、管理者を上回る力が出せる……!」
「……俺が強いんじゃない」
ライガはふらつきながらも、一歩踏み出す。
「俺は弱いから、迷うから、誰かのために強くなろうとした。
お前は……一人で完璧になろうとして、他人の痛みを切り捨てた。
その違いだ!」
ライガが拳を構える。
「目を覚ませ、カイ! 俺たちが守りたかったのは、システムなんかじゃない!
泥だらけになっても、笑って生きようとする『人間』だったはずだろ!」
その言葉が、カイの胸に刺さる。
かつての記憶。
『俺たちは、誰も泣かない世界を作るんだ』
あの日、泥だらけで語り合った夢。それが今、目の前の男の拳に宿っている。
(……眩しいな、お前は)
カイは、自嘲気味に笑った。
(ああ、そうだ。私はお前に憧れていたんだ。
その真っ直ぐな強さが欲しくて……だから私は、悪魔に魂を売った)
「……ライガ。お前の言う通りかもしれないな」
カイが、ふっと力を抜いた。
「カイ……!」
ライガが表情を緩め、手を差し伸べる。
「帰ろう。もう一度、やり直そう。俺たちなら……」
「ああ。やり直そう」
カイもまた、手を伸ばす。
その指先が触れ合う寸前。
「――ただし、私の『理想』の中でな」
カイの瞳が、冷徹な光を宿す。
彼はライガの手を取ると同時に、もう片方の手で自身のデバイスを操作した。
「システム、強制執行。
対象:バーニングレッド・接続ポート。
思考制御コード『傀儡』――インストール」
バチバチバチッ!!
ライガの腕の変身ブレスから、どす黒い電流が逆流した。
神経接続を通じて、脳髄を直接焼かれるような激痛が走る。
「が、あ……ああああああッ!?」
「ライガ!」
グリムが叫び、飛び出そうとする。
だが、カイが視線だけで重力波を放ち、魔王たちを弾き飛ばした。
「ぐ、う……カイ、何を……!」
ライガが膝をつき、頭を抱えて悶え苦しむ。
視界がノイズに覆われ、自分の記憶、感情、意志が、黒いデータに塗りつぶされていく。
「抵抗するな。楽になれ」
カイが、倒れたライガを見下ろして告げる。
「お前のその強さ、その輝き……捨てるには惜しい。
私の『計画』のための、最強の剣となれ」
「や、め……俺は……俺は……!」
(俺は……誰かの、盾に……)
最後の抵抗も虚しく、ライガの瞳から光が消えていく。
燃え盛っていた瞳の炎が、冷たく、無機質な赤へと凍りつく。
数秒後。
そこには、直立不動で佇むバーニングレッドの姿があった。
その瞳は虚ろで、何の感情も映していない。
「……システム、掌握完了。
コマンド待機中」
ライガの口から出たのは、機械のような音声だった。
カイは満足げに頷き、魔王たちの方を指差した。
「よく戻った、バーニング。
……テストだ。目の前の障害を排除せよ」
「了解」
バーニングが、ゆっくりとグリムたちの方を向く。
その拳に宿るのは、かつての温かい炎ではない。
ただ敵を殲滅するためだけの、冷酷な業火。
「嘘やろ……おい、正義の味方!」
グリムが叫ぶが、届かない。
「撤退だ!」
ネビュロスが叫ぶ。
「今のあいつは、我々の知る男ではない! 殺されるぞ!」
魔王たちは、血の涙を流す思いで背を向けた。
最強の戦士が、最悪の敵となって立ちはだかる。
希望の灯火が消え、絶望がノクタリアの夜を塗り潰していく。
カイは、去りゆく魔王たちを見送りながら、静かに空を見上げた。
「これでいい。
……約束は果たすぞ、レヴェリオ」
銀色の仮面の下で、一筋の涙が伝うのを、誰も見ることはなかった。
(第1部 完)




