第19話『砕け散る仮面』
【前回のあらすじ】
兵器開発局に潜入した魔王たちは、魔族を生体部品として利用する非道な実験を目撃する。そこに駆けつけたライガ(バーニング)もまた、組織の闇を目の当たりにし、動揺を隠せずにいた。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
「答えろや!!」
グリムの怒号と共に、赤黒い炎が実験室を焼く。
ライガは咄嗟に防御姿勢を取るが、反撃する気力が湧かない。
目の前にある「事実」が、彼の正義感を根底から揺さぶっていたからだ。
「俺たちは……こんなことのために戦っていたのか……?」
「今さら何言うてんねん!」
グリムが間合いを詰め、拳を叩き込む。
ドゴォッ!!
ライガは防御の上から殴り飛ばされ、培養カプセルの一つに激突した。
ガラスが割れ、中から防腐液と共に、機械化された魔族の腕が転がり落ちる。
「見ろ! これが、お前らが守ろうとした『平和』の礎や!
誰かの命を踏み台にして、効率だの秩序だの……反吐が出るわ!!」
「違う……! 俺は知らなかった!
俺はただ、多くの人々を守りたくて……!」
「知らんかったら許されるんか!?
お前が『全体の利益』とか言って切り捨ててきた弱者の中に、俺たちの家族も、こいつらの命も入っとったんやぞ!!」
グリムの言葉が、鋭い刃となってライガを貫く。
『少数の犠牲で多数を救う』。それが組織の、そして自分自身が信じ込もうとしてきた論理だった。
だが、その「少数」には顔があり、名前があり、人生があったのだ。
「……それでも!」
ライガが叫び、拳を地面に叩きつける。
「秩序がなければ、世界は崩壊する!
強い力で管理しなければ、弱肉強食の地獄に戻るだけだ!
俺は……悲劇を繰り返さないために、心を鬼にしてきたんだ!」
「それが欺瞞やって言うてんねん!!」
グリムがさらに踏み込む。
「管理された平和の中で、窒息しそうな奴らの声が聞こえんのか!?
お前らは『世界』を守ってるつもりかもしれんが、そこに住んでる『人間』を見てへんのや!!」
「黙れェェッ!!」
ライガの全身から、爆発的な熱気が噴き出した。
スーツの安全リミッターが解除され、排熱ダクトが真紅に輝く。
迷いも、後悔も、全てを熱量に変えて。
彼は自身の信じてきた正義を証明するために、拳を振るう。
そうしなければ、自分が崩れてしまうからだ。
「俺の正義は……間違っていないはずだ!!」
「ほな、証明してみせろや!
その拳で、俺の『怒り』をねじ伏せてみろ!!」
激突。
赤黒い魔力の炎と、真紅の科学の炎。
二つの熱量が正面からぶつかり合い、実験室の空気を灼熱に変える。
「オラアアアッ!!」
「うおおおおッ!!」
技術も装備も関係ない。ただの殴り合い。
互いの顔面を、腹を、信念を殴りつける。
(なんでだ……なんで、こいつはこんなに真っ直ぐなんだ!)
ライガは叫びながら拳を振るう。
組織の中で、妥協し、飲み込み、諦めてきた自分。
それに対し、この男はただ己の感情に従い、傷つくことを恐れずに叫んでいる。
その眩しさが、妬ましく、そして憎い。
(なんでだ……なんで、こいつはこんなに悲しい目をする!)
グリムもまた、歯を食いしばる。
組織の犬だと思っていた。だが、この男の拳には、迷いながらも何かを守ろうとする必死さがある。
「全体」を守るために、自分の心を殺してまで戦う悲しい強さ。
分かり合えるはずがない。立場が、背負うものが違いすぎる。
だからこそ、拳で語るしかない。
ドガァァァン!!
最後の一撃が交差し、二人は同時に吹き飛んだ。
床に倒れ込み、荒い息を吐く。
全身が痛む。だが、心の靄は晴れていない。泥のように重い澱が、胸の底に残っている。
「……ハァ、ハァ……。クソが……」
ライガがふらりと立ち上がる。
スーツがボロボロだ。
だが、その瞳の奥にある迷いは、より深く、暗くなっていた。
「俺は行く。……カイに、問いたださなきゃならない。
この実験のこと、そして……俺自身が、これから何を守るべきなのかを」
「……行けや」
グリムは倒れたまま、天井を睨みつけた。
「けどな、覚えとけ。
お前が組織に戻っても、もう前の『正義の味方』には戻れへんぞ。
……その泥にまみれた手が、お前の本性や」
「……ああ。わかっている」
ライガは背を向け、出口へと歩き出す。
決して交わることのない二つの道。
だが、その背中は、確かに何かを受け取っていた。
その時。
施設全体が激しく振動し、赤い警報ランプが点滅を始めた。
『自爆シーケンス起動。爆発まで、あと3分』
「なッ……!?」
証拠隠滅。
侵入者ごと施設を葬り去る、ジャスティスフェイスの冷酷な判断。
それは、ライガという「不確定要素」をも切り捨てるという、組織からの絶縁状だった。
「最後まで腐ってやがる……!」
グリムが毒づく。
炎と崩壊が迫る中、彼らの脱出劇が始まる。
(第20話へ続く)




