第16話『砕かれた鉄槌』
【前回のあらすじ】
法の番人レクス(ジャッジ)の仮面の下にある「思考停止」を見抜いたグリム。
「自分を守るために法に逃げるな」という一喝と共に、魔王と断罪者の正面衝突が始まる。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
「排除する! 秩序の敵を、例外なく!」
レクスが大剣を振るう。
技術も戦略もない、ただ質量に任せた暴風のような連撃。
だが、その一撃一撃が地面を割り、建物を粉砕するほどの威力を持っていた。
「重いなァ、おい!」
グリムは回避に専念せざるを得ない。
拳を叩き込んでも、黄金の装甲には傷一つ付かない。
スペックの差は歴然だった。
「なぜ避ける! なぜ耐える!
悪ならば大人しく裁かれろ! 私が楽にしてやる!」
「楽になんかなってたまるかよ!」
グリムがカウンターを狙うが、大剣の腹で弾き飛ばされる。
「がはッ……!」
壁に激突し、血を吐くグリム。
だが、その目は死んでいない。
「……頑丈なだけが取り柄か、このポンコツ」
レクスが大剣を振り上げる。
「終わりだ。法に仇なす害虫め」
その時、グリムがニヤリと笑った。
「なぁ、堅物。お前、その仮面の下で何考えてるんや?」
「……何?」
「『これでいいのか』『間違ってないか』……そんな迷いが、剣先からボロボロ零れとるぞ」
レクスの動きが止まる。
ヴェルミリオンに見せられた「法の無力さ」の幻影が、脳裏をよぎる。
(迷い? 私が? 馬鹿な、私はシステムだ。法そのものだ!)
「黙れェェッ!!」
レクスが叫び、力任せに剣を振り下ろした。
だが、そこには焦りがあった。精密さを欠いた大振り。
「隙だらけやぞ、能無し!」
グリムはその一瞬を待っていた。
振り下ろされる大剣の軌道を読み切り、紙一重で懐に飛び込む。
赤黒い炎を、一点に集中させる。
「寝言はあの世でほざけ!
お前のそのツマらん仮面ごと、へし折ったるわ!!」
渾身の右ストレート。
それが、レクスの大剣の「側面」――力の乗っていない一点を捉えた。
ガギィィィィン!!
金属が悲鳴を上げる。
体勢を崩していたレクスは、自分の剣が弾かれた反動を殺しきれない。
巨体がよろめき、無防備な胴体が晒される。
「オラァァァッ!!」
追撃の左。
みぞおちに突き刺さる衝撃。
装甲は貫けない。だが、衝撃は内部に響く。
「ぐ、ぁ……ッ!?」
レクスが膝をついた。
たった一度の隙。だが、それは「絶対強者」の膝を折るには十分だった。
「ハァ……ハァ……」
グリムもまた、限界だった。拳は砕け散りそうだ。
だが、見下ろす視線だけは鋭い。
「……どうした。立てよ、正義の味方」
レクスは動けない。
物理的なダメージではない。
「迷いを見抜かれ、隙を突かれた」という事実が、彼の心を縛り付けていた。
「……なぜだ。なぜ、貴様のような無法者が……」
「俺には迷いがないからや。
自分のやりたいことやって、泥水啜ってでも生き残る。
……お前みたいに、誰かのルールに逃げ込んでる奴には負けへん」
遠くから、サイレンの音が聞こえる。増援だ。
「行くぞ、グリム。長居は無用だ」
ネビュロスが促す。
「だね。これ以上は分が悪い」
ヴェルミリオンが肩を貸す。
「……次はねぇぞ、鉄仮面」
グリムは唾を吐き捨て、背を向けた。
残されたレクスは、震える手で自身の仮面に触れた。
ヒビが入っている。
鉄壁の防御が、たった一人の「悪」に砕かれた。
(私は……負けたのか? 法が、悪に?)
その問いが、彼の思考停止した心に、小さな波紋を広げていた。
(第17話へ続く)




