第15話『沈黙の仮面、吠える獣』
【前回のあらすじ】
ヴェルミリオンの毒に倒れたブレイズを救ったのは、ジャッジレッド(レクス)だった。彼の無慈悲な大剣が、魔王たちを追い詰めていく。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
「判決。――執行する」
レクスが大剣を振り下ろす。
単純な一撃。だが、そこには回避不可能な質量と圧力が込められていた。
ヴェルミリオンは幻術で姿を眩ませるが、衝撃波だけで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ぐっ……! 芸がないねぇ、無粋な男だ!」
レクスは倒れたアシュレイを一瞥もせず、ただ邪魔な障害物として瓦礫の陰へと蹴り飛ばした(実際には守るための配慮だが、行動は冷徹に見える)。
「退がっていろ。足手まといだ」
「テメェ……! 俺の手柄を!」
アシュレイが呻くが、毒のせいで指一本動かせない。
邪魔者を排除したレクスは、再び大剣を構え、ヴェルミリオンへと歩み寄る。
その鉄仮面は、一切の感情を通さない。
まるで、自分自身を機械に変えてしまったかのように。
「終わりだ、道化師」
大剣が振り上げられる。
「まだだよ。……君のその仮面の下、随分と脆そうだねぇ」
ヴェルミリオンが妖艶に笑い、紫の鱗粉を撒き散らす。
視界が歪む。レクスの目の前に、突如として「過去の光景」が浮かび上がった。
薄暗い法廷。木槌の音。
『証拠不十分につき、無罪とする』
裁判官の冷淡な声。嘲笑う被告人席の男。そして、泣き崩れる被害者の家族――レクス自身の大切な人たち。
「ぐ、ぁ……!?」
レクスが頭を抱えてよろめく。
法は無力だった。悪を守り、善を切り捨てた。
あの日の絶望が、鮮明に蘇る。
「違う……私は、正義のために……!」
「君は『正しさ』が欲しかったんじゃない」
ヴェルミリオンの声が、幻聴のように脳内に響く。
「君はただ、『迷わなくて済むルール』が欲しかっただけだろ?
自分で考えると傷つくから。誰かに決めてほしかったんだ」
レクスは大剣を闇雲に振り回し、幻影を切り裂く。
「黙れ! 黙れ黙れ!! 私情は判断を鈍らせる! だから私は捨てたんだ!
法こそが秩序だ! 絶対的な法だけが、世界を救えるんだ!」
その狂乱を、屋上から見下ろす影があった。
ネビュロスだ。セイジとの戦闘を一時離脱し、ここまで辿り着いたのだ。
彼は冷静に眼鏡の位置を直し、眼下の男を分析する。
「なるほど。……あの男、堅牢なのは鎧だけか」
ネビュロスが飛び降り、氷の礫を放つ。
「思考することを放棄し、誰かが決めたルールに逃げ込んでいるだけ。……それがお前の正体か」
「貴様ら……!!」
図星を突かれた動揺を、レクスは怒りで塗りつぶす。
全身の装甲から蒸気を噴き出し、暴走気味に力を高める。
「法は絶対だ! 私の迷いなど、圧倒的な正義の前には無意味だ!」
大剣が黄金の光を帯び、巨大な断頭台の刃のように煌めく。
理屈も幻術も通じない、暴走した断罪の力が、二人を飲み込もうとする。
「終わりだ、悪党共!」
その時だった。
「オラァァァッ!!」
真上から降ってきた黒い影が、レクスの大剣を素手で殴りつけた。
凄まじい金属音が響き、黄金の光が霧散する。
「なッ!?」
レクスがよろめく。
その目の前に着地したのは、包帯だらけの男。
グリムだ。
「よォ、堅物。随分と楽しそうやないか」
グリムは火傷だらけの拳を鳴らし、ニカっと笑った。
その瞳は、以前よりも澄んだ赤色に輝いている。
「グリム! 身体はいいのか!?」
「へっ、寝てたら治ったわ。
……それより、こいつの相手は俺に譲れ。なんかムカつくんや、そのツラが」
グリムはレクスを指差した。
「お前、何を守っとるつもりや」
「……何?」
「お前は『法』を守っとるんちゃう。『自分』を守っとるだけや!
傷つくのが怖くて、責任取るのが怖くて、鉄仮面被って耳塞いどるだけやろが!」
レクスの手が震えた。
かつて、法の無力さに絶望し、最強の法にすがった。
だが、その結果がこれだ。無実の者を斬り、思考を止め、ただの処刑マシーンになり下がった自分。
その矛盾を、この男は土足で踏み荒らす。
「貴様に……私の何がわかる!!」
レクスが激昂し、大剣を振り回す。冷静さを欠いた、ただの暴力。
「わからん! けどな、俺は自分のことは自分で決める!
間違っても、失敗しても、全部背負って生きていく!
それが――俺の『意地』や!!」
グリムの拳に、赤黒い炎ではない、白熱した輝きが混じり始める。
信念の炎。
「行くぞ、鉄仮面! 思考停止して楽になんかならせへんぞ!
そのメッキ、俺が剥がしたる!!」
魔王と断罪者。
信念と逃避。
魂のぶつかり合いが、戦場を焦がしていく。
(第16話へ続く)




