第7話:学園の元同僚が“弟子にしてくれ”と土下座してきた
「……あれ?」
朝。ギルドの前に、どこか見覚えのある青年が立っていた。
焦げ茶の髪、細身の体つき。目元にある三本の傷跡。見間違えるはずもない。
「……フォルト?」
「セイル……っ!! 本物か!? 本当に、お前なのか!?」
彼の名はフォルト=ジアード。
魔導学園の元研究員で、俺と同じく“魔導具開発室”に所属していた男だ。
ただし、彼は“現実的”な方向へ進み、実用的な魔道武具の量産設計でそれなりの評価を得ていた……はずだった。
「どうしてここに?」
「……学園を、辞めた。いや、正確には、潰されたんだよ」
「潰された?」
「お前が追放された直後、学園の研究成果は全く上がらなくなった。周囲に媚び売ってた連中ばかり残って、何も生まれない。オレは、“使えないやつ”扱いされてな」
フォルトは肩を落とし、ポツリと呟いた。
「……俺、お前のこと、ずっと見下してた。意味のない実験ばかりして、夢物語ばかり語って。なのに――」
彼はポケットから取り出した。
それは、俺が昔こっそり渡した【温度調節機能付き手袋】だった。
「これだけは、なんか捨てられなかったんだ。冬でも手が冷えなくて……便利すぎてさ」
「……お前、それずっと使ってたのか」
「気づいたら、俺が使ってる魔導具の半分は、お前の開発品だった」
フォルトは、地面にひれ伏すように頭を下げた。
「セイル! 頼む、俺を弟子にしてくれ!! また一からやり直したいんだ!」
静まり返る広場。
ギルドにいた村人たちやルシア、エルナまでもが、言葉を失って彼を見ていた。
「……いいよ」
「えっ!?」
「どうせ作業多くて人手欲しかったし。今なら時給は出ないけど、飯と寝床はある」
「マジで……!? 俺、マジで何でもするから!」
こうして、また一人、追放された研究者が仲間になった。
彼はすぐに俺の指示を理解し、設計図を引き、部材の分類までこなす。やっぱり基礎はある。
「お前、やればできんじゃん」
「……今さらだけど、お前ってすげぇな。なんであの時、見抜けなかったんだろ」
「そりゃお前、“役立たず”を見る目しかなかったからだろ」
「ぐうの音も出ねぇ……」
それでも、フォルトの加入によってギルドの作業効率は格段にアップ。
ついには、王都の方から正式に“製品化の申し出”が届くまでになる。
俺は今日も、変わらず研究室の片隅で新しい魔導具をいじっている。
だけど、いつの間にか――一人じゃなくなっていた。