第2話:魔王軍が来たので、対魔導結界を適当に作ったら退散した
「セイルさん! や、やばいです!」
「また水壺貸してって? 今日は在庫ないんだけど……」
「い、いえっ! 魔王軍が、こっちに向かってきてるらしいんです!」
村人の少年の言葉に、俺は壺を持ったまま固まった。
「……魔王軍って、あの?」
「はい。西の砦がやられたらしくて、辺境の村も危ないって!」
「えぇ……」
俺は研究者であって、戦闘職じゃない。
ただの魔導具オタクだ。
でも、この村を追い出されるのは嫌だった。
ようやく落ち着ける場所を見つけたんだ。壊されたくなんかない。
「……仕方ない。少しだけ本気出すか」
俺は、倉庫の奥から試作中の結界装置を引っ張り出した。
名付けて――
「《反転結界》試作零号機》」
簡単に言えば、“攻撃魔法を相手側に反射する結界”。
まだ完成品ではないけど、村を覆う範囲くらいなら試験運用できる。
「魔力供給装置は……あった。これでいける」
村の中心に据えて、魔法陣を展開。
青白く輝く魔法のドームが、ふわりと村全体を包み込む。
「ふむ。安定してる。……これで、様子を見よう」
――そして夜。
魔王軍の斥候が、村の外れに現れた。
「クク……こんな田舎、数人で落とせるだろ」
「先に“魔法障壁”だけでも壊しておくか。──《爆炎》!」
バゴォンッ!!
……が、その魔法は反転し――
轟音とともに、術者自身を吹っ飛ばした。
「ぐええええええええッ!?」
「な、なにっ!? なんで俺たちが吹っ飛んでる!?」
魔王軍、撤退。
翌朝、村長が俺のもとへ。
「セイル様! 昨夜のこと、ご存知ですか!?」
「あー、結界張って寝てました。なんかあった?」
「魔王軍が攻めてきたのに、何もできずに撤退したそうです! こんなこと初めてじゃ!」
「へぇー、不思議なこともあるんですね(棒)」
「セイル様……あなた、いったい何者なんですか……?」
俺はただの研究者。
戦いたいわけでも、国を守りたいわけでもない。
でも、自分の技術で誰かが救われるなら、それは――
「ま、研究の副産物ってやつだよ」
村人たちに囲まれて、俺は少し照れながら笑った。
こうして、俺の“魔導具のある辺境スローライフ”は、今日も静かに続いていく――
(世界的騒動が、また一つ迫っているとも知らずに)