第1話:水が出るだけの壺、世界を救う
追放されて数日後、俺は辺境の小さな村――フィアの森の外れ村に移住した。
古民家を借りて、畑の隅に小屋を建てて、こつこつ研究。これが本来の俺の理想だ。
「さて。まずは、例の“水壺”から作るか」
これは、俺の代表作(自称)である魔導具【自動給水壺】。
魔力で壺の底に付けた魔陣が周囲の空気中の水分を圧縮・変換し、一定量を壺に蓄える。つまり、無限に水が出る。
「実験っと……よし、出る。味も問題なし。魔力消費も低い。完成度100点だな」
俺は満足して、それを村の長老に持っていった。
「おぉぉ……これが、セイル様の“水壺”ですかの……?」
「うん。使ってみて」
長老が壺の注ぎ口に手を当てると――
ザバーッ!
透き通った水が流れ出た。しかも冷たい。
「ひゃあぁあああ!! 神の技術じゃ!!」
「ちょ、言い過ぎだって」
「いやいやいや、これは……この村、井戸が枯れてて困っておったんじゃ! これがあれば、助かる!」
村中に壺の噂が広まり、翌日には老若男女が“水ください”と列をなした。
「セイル様! 壺をもう一つ! わしの家にも!」
「なぁ! ちょっとでいいから貸してくれ!」
……こうして俺の“スローライフ”は、一瞬にしてバタバタと賑やかになった。
だが、この“水壺”の噂は、やがて王都へも届くことになる。
「……は? “無限水供給壺”? バカな、そんなものが作れるはずが――」
こうして世界は、少しずつ俺の魔導具によって“変わり始めていた”。