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七  M

 「美佐枝さんのM?」

そう彼女に尋ねた。

「美佐枝さんって、あそこの立派な苗字の?さっき卵サンドを食べたお店でも聞いた名前なんだけど。」

私は、そのまま伝えた。だって、隠すことは何もないから。後ろめてく思っちゃうのはPの事だし。

「由緒正しいって感じでしょ!『ひがしかたかみ』って読むんですよ。」

「ひがしかたかみ!なんかすごいですね。」

アイドルとは全然違った。

「ね、すごいでしょ!それに卵サンドも美味しかったでしょ!」

「ええ、とっても。しっかりゆで卵と、半熟卵。黄身がまとわりつくようでマヨネーズのコクがアップされて引き立てコショウも良い仕事してるし。」

「半熟って、卵サンドに詳しいんですか?サンドウィッチ屋さん、とか?」

「いえいえ、好きなだけです。」

「にしても。私なんて考えて食べたことないですよ。」

買うより自分で作った方が安上がりだからいつも気にしてるんです、とは、言えなかった。

「卵サンド、美佐枝さんのレシピって聞きました。」

「そうなんですよ。っていうか、プラスしてくれるっていうか。」

「プラス?」

「そう。プラス。元々卵サンド出してたのかな?そこに美佐枝さんのアイディアが加わって、すごく繁盛したんです。その、チーズケーキ屋さんも。」

彼女は、私の持っている紙袋を指差してそう言った。私は袋を顔の前まで持ち上げて、

「チーズケーキには何をプラス?」

「レシピじゃなくて、お店。チーズケーキを作る腕も味も確か。定年退職したお仲間で始めたらしいんですけど、知名度がなくてね。おじいちゃん達売れなくてもって定年後の楽しみが出来たから良いんだって思ってたみたいで。だけど美佐枝さんが、やるなら儲けなさいって。」

「そりょ、そうよね。」

「ね。そこで、のぞき窓つけたり、可愛い看板やおじいちゃん達に似合うユニホーム着せたり。帽子も可愛かったでしょ!」

「ええ。良かった!」

「それと、換気扇からケーキの焼ける匂いを店先に漂わせたり。」

「私、まんまとその作戦に釣られて、お店の中に入りました!」

「今は、わざわざ遠方からお客さんが来るまでになったのよ。美佐枝さんってすごいでしょ!」

「それで、この巾着のMも美佐枝さんのアイディア?」

「いいえ。これは私が勝手にしてるの。美佐枝さんがね、このアクセサリーを売り物にしたらって勧めてくれたから。」

「以前は趣味で作ってたとか?」

「そういう訳じゃなくて。美佐枝さん、思い出の詰まったフラワーベースを割っちゃった事があったの。割れた破片を捨てられないくらいガッカリして。だから、食器とかの金継ぎじゃないけど、割れた破片をステンドグラスを作る要領で小物とか置ける小皿と、指輪を作って渡したの。そしたら、とっても喜んでくれてね。」

「へー。」

「ステンドグラスは、母が趣味で作ってたから道具が揃ってたし、見よう見まねだったけど、意外と可愛く出来たの。指輪は少し破片を削ったんだけど、その道具はマコトさんが勧めてくれて。」

思いもよらず待っていたキーワード『マコト』が出てきたので、勢いで

「そういえば、卵サンドを食べている時、マコトさんって方が、美佐枝さんの卵サンド取りに来てたんですけど。」

「ああ、美佐枝さん、最近調子が思わしくないみたいで。」

「マコトさんって美佐枝さんの娘さんですか?」

その質問にクスッと笑って

「違いますよ。マコトさんって綺麗ですもんね。この並びに事務所があるんですよ。」

「えっと、、、。なんのお仕事?」

「何だろう?よく知らないけど、尋ねてくる人はいますよ。私も場所聞かれるし。あ、あなたもそうなの?」

「や、ち、違います。」

急に後ろめたさが顔を出し、慌てて否定した。

「そうよね。何をやってるの聞いたんだものね。この先の白い三階建てで、事務所はニ階。一階は電気とかの設備の会社かな?まあそんな会社が入っていて、横の細い階段を上がった所がマコトさんの事務所よ。」

「へー。」

気の無い返事を返した。だって、何してるのか結局わからなかったから。

そう思ってたら、彼女が急に顔を近づけてきて、

「今、後ろを通った車。あれが一階の会社の車なの。電気とかの設備にしてはちょっとね。」

「ちょっとって?」

しぼみかけていた期待値が急に上がった。

「うーん。私の勘としか言えないんだけど、、、。調査とかしてるんじゃないかと思う時もあるの。」

「え、調査!」

ワクワクしている自分がいる。声を抑えて返事をしたけど大きかったかも。

「そう、調査。たまーに、マコトさん探偵なんじゃないかと。」

キター。待ってました、怪しい仕事の裏付け!彼女は私の顔をまじまじと見て、

「何だか、楽しそうだけど、、、。」

しまった、顔に丸々出ちゃってた。

「あ、だって、ほら、調査、、、なんて言うから、何だかドキドキしちゃって。探偵とか、、、って、ね。」

しどろもどろだけど、どうにもならない。誤魔化しきれてないのは、自分でもわかったし、顔はきっと真っ赤かだ。

「確かに。探偵なんて見た事ないものね。」

彼女の言葉に鞭打ちになりそうなほど頷いて。

「マコトさんて、探偵事務所をしてる方って事?」

そう聞き返した。そうだって言って欲しい自分がいるのは納得できなかったけど、あの風貌なら、探偵がピッタリとどこかで思っていたから。

「わからない。ただ、場所を尋ねてくる人は訳ありって感じの人ばかりだから。可能性としては、ありと思うな。」

良い答えだ。そう思って頷いていると。

「エントリーシート、持って来たの。」

背後からそう話しかける声が、頭の上から聞こえてきた。


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