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五十四  もう頭の中パンパンです

 春吉さんとリコちゃん、ガンさんに見送られてPを後にした。

みんな驚くほど話が通じていたのに、私だけは、置いてきぼり。全然理解できてない。

しかも寝坊しバタバタ起きて、お腹がパンパンになるほど卵かけご飯を食べちゃったから、起きたてなのに若干眠気が再燃している。頭の中の整理整頓には、全く向いていない状況だよね。

その上予想外に「行くわよ。」とマコトさんに言われるまま出掛けることになったから、きっと後頭部には寝癖が踊ってるだろうし、マコトさんとゲンさんの後ろをオドオド着いて行く姿は、連行される犯人見えるかも。

 颯爽と歩くマコトさんに吊られるようにPの階段を降りて通りに出ると、いきなりクラシックカーが目に飛び込んできた。

「わあ。」

目が覚めた。素敵すぎる車のホルムにバッチリ目が覚めた。

私は車に全く詳しくない。でも目の前にあるクラシックカーの凄さも美しさも、とてもよくわかる。それくらい素敵な車が、P の前の路上で朝の澄んだ光の中、キラキラの輝いていた。

もっと私の目を覚まさせたのは、その車に当然のように手をかけるゲンさんの行動だった。

「ゲ、ゲンさん!こ、この車、ゲンさんのですか?」

「ええ。そうです。」

私は、車から目が離せなくなって、その美しさにため息が出た。

「えー。あ、そうなんですか。ゲンさんの車、、。なんか凄いです。凄い綺麗で、芸術品。あ、え、ちょっと、ゲンさん、乗っていい車なんですか?」

ゲンさんの車は、少しグレーがかった薄水色で曲線が艶やかで美しい。

シートはネイビーのレザーシート。白のステッチが施されているのがなんとも愛らし。

「もちろんですよ。さあ、どうぞ。」

基本、二人乗りなのだろう。後ろのシートは座りやすさには少しかける。

でも、そんなこと、どうでもよくなるほどに美しい車。

「オースチンのヒーレーBJ7 3000でございます。」

「ヒーレーブルーが、美しいでしょ。」

マコトさんが助手席に座りながらそういった。

マコトさんの美しさになんてピッタリなんだろう。助手席にマコトさんが座ることで、車の美しさが一段と増している。カマキリっぽいゲンさんだけど、背がスラリと高いからかな?後ろの席から見るマコトさんと並んでいる姿は、とてもお似合いの二人。

そんな二人に比べたら、部屋着に毛が生えたくらいの服を着ているチビの私なんて、惨めに見えると落ち込みそうだけど、そんな自分の姿に気がつけないほど異次元の美しい世界が、目の前に広がっていた。興奮せずにはいられない。

 超美しいオースチンでどれくらい走っただろう。私はふわふわと異次元に浸っていたからなのか、距離も時間もどれくらい経ったのか全くわからなかった。

西洋風の立派な門の前で車が止まり、マコトさんを見るとスマホで誰かと会話している。

(あれ、いつから電話してたの?)

オースチンに見惚れていたからか、全く気が付かなかった。マコトさんがスマホを切ると、奥から一人の女性が、小走りに近づいてきた。彼女が近づいてくると、門が自動でゆっくりと開いた。

「どうぞ、こちらへ。」

そう促され門をくぐると、左手に5台ほど駐車できっるスペースがあり、そこから、整えられた小道が、これまた立派な屋敷の門へと続いている。

「すごい。お屋敷ですね。」

「ええ。」

カマキリのゲンさんが、マコトさんの助手席のドアを開けながらそういった。オースチンから

「ありがとう。」

そう言って降りる姿は、まるでプリンセスか女優のようで、私の頭の中では『ティファニーで朝食』の『ムーンリバー』が流れていた。

(マコトさんは女性じゃないけどね。)

心の中で、一人ツッコミをしていると、

「ふーん。これはガッツリ、いただけそうね。」

ってマコトさんが。

(えーーーー。)

きっと、私の目はマコトさんを凝視し、目の玉が落ちそうな程見開いていたに違いない。美しい容姿に柔らかい物腰、しかも神様であるマコトさんの口から「ガッツリ」なんて言葉が飛び出してきたんだ。驚かない方がどうかしている。

「そうでございますね。思った以上にガッツリといけそうです。」

(えー。カマキリ、お前もかー。)

と思ったけど、ゲンさんはなんとなくその言葉が似合いそう。

 駒井が今朝Pに来て、ゲンさんやガンさんと初めて会って、春吉さんが退院してよかったと思ったら、すぐに出かけることになって。頭の中が整理整頓できないまま、どんどんと新しい状況が足されていく。というか数日前に、マコトさんに会ってから人生初めての事ばっかり起きているんだ。

新しい事が多すぎ、頭の中はパンパン。脳疲労と言う言葉がピッタリな状況で、もう考えるのやめようか、そう思いながら、マコトさん達の後について屋敷のドアをくぐった。

 ふと、私達を案内してくれる女性の後ろ姿を見ていると、思わず

「ショウコさんですね。リコちゃん元気ですよ。今朝は、卵かけご飯をしかっり食べました。自分からおかわりするって言って、小丼で二杯も食べたんですよ。」

そう話しかけたけど、自分でもなんでそんなことを口走ったのかわかんなかった。

大体初めて見る女性が、リコちゃんの言っていたショウコさんなのかすらわからないのに。私、どうかしちゃったの?

私の言葉に、ショウコさんだけでなく、ゲンさんも振り返った。

ゲンさんは凄い形相で、顔から「なんてことを言うんだー。」って言葉が、飛び出してきそうだったけど、ショウコさんは、

「はっ、、そうですか。あ、、良かった、、、。ありがとうございます。」

と。目に涙がスーッと浮かび、少し声は震えていたが、安心した優しい笑顔を見せ、深々とお辞儀をした。

ショウコさんの表情になんだか嬉しくなって、私は、「はい。」と、微笑みながら短く返事をした。

ゲンさんはこれ以上何も言わないようにと口に人差し指を当てて、私を睨んでいたけど、マコトさんの顔を見たら、

「あ。」

美佐枝さんの家で、私を『はふり』と呼んだ東方神様のあの厳しくも優しい、慈愛に満ちた顔をされていた。


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