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五十一  カマキリアンド岩

 モニターに映る駒井は、相変わらず呑気な笑顔。しかし駒井が立っている階段の後ろにはあの黒服の男が二人、迫ってきていた。

「まずい。駒井の後ろに!」

「うん?祝、どうしたの?」

マコトさんは、卵かけご飯を食べているリコちゃんの隣の椅子から立ち上がって、モニターを見ている私にそう問いかけた。

「駒井の後ろに、あの男たちが!マコトさん。リコちゃんをお願いします!」

「えっ。ちょっと、祝!」

このままでは、まずい。絶対にまずい!

早く駒井を部屋に入れないと、いくら駒井だって危険な目に遭ってしまう。

でもドアを開けたら、あの男たちが入って来る。

そうなったらリコちゃんが、またあの絶望の世界に戻される。

そんなの、絶対にヤダ!

だけど、危険は駒井の後ろに迫っている。迷ってる時間はない。

ドアを開けると同時に駒井を押しのけ、体当たりでラリアットを喰らわす。

そのまま階段をころげ落ちれば、二人同時にやっつけられる。

それしかない。私がやるしかない。

となりの相談者を迎入れる部屋を走りぬけながら、

「ふー、うん。」

おでこに力を入れ、2センチ浮き上がる。そして、スマウォでドアを開け、

「駒井、どいて!」

「なっ、い、祝ちゃん?」

ドアが開くと同時に、駒井に叫んで、後ろの壁を蹴り、ラリアットの体制に入る。だけど、まさにその時、

『はふり、止まりなさい。』

頭の中で、マコトさんの声がした。

すると、

(な、ナニ?あーーーっ。)

地球の引力が十倍になったのか、私は、その場に押しつぶされた。

床に埋まるのかと思うほど叩きつけられた。

「うーっ。痛ったー。」

「おっおー、おー。い、祝ちゃん!だっ大丈夫?ど、どうした?」

めっちゃ痛かったけど、でも、今はそれどころじゃない!

「駒井!危ない!早く、入って!早く!」

押しつぶされたまま、そう叫んだ時、マコトさんが私の後ろに立っていた。

「まったくー。観察力あるのに、慌てるとその目は曇りますか?」

「、、、へ?」

(あれ?マコトさんはまったく慌ててない。なんで?危機がすぐそこに迫ってるんですよ!)

そう思っていると、

「マコトさん。この方ですか。」

「ええ。うちの新人。祝です。」

「素晴らしく血の気の多いお嬢さんのようですな。なんと頼もしい。ははは。」

黒服の一人はそう言い、嫌味な笑い方をしながら、私の横をスッと通りすぎていった。

当たり前に部屋の奥に入って行く。その背中を見ていると、

「ほー。この子かい?隣の庭で大男にラリアット喰らわせたの。いやー素晴らしいねー。コマが惚れるわけだ。いやー、良い。マコトちゃん、良いのみっけたなー。」

もう一人の黒服もそう言って部屋の奥に進んで行った。

 「、、、なに?なんで?」

気持ちも体も置いてきぼり。玄関に埋まっている自分がものすごくちっちゃく感じる。

「祝ちゃん、だ、大丈夫?」

駒井が私を覗き込んで、手を差し出してくれている。

「あ、ああ。」

マコトさんが呆れ顔で、

「さ、いらっしゃい。紹介するわよ。」

そう言って、リコちゃんが卵かけご飯を食べている、リビングに行ってしまった。

「祝ちゃん、行こう。」

「うん。」

駒井に手を貸してもらって立ち上がったけど、体のあっちこちがめちゃめちゃ痛い。

リビングに行くとリコちゃんが少し不安そうに黒服たちを見ていた。

「リコちゃん。」

私が声をかけると、リコちゃんは、私のところに飛んで来て、ギュッとしがみついた。

「なるほど。威勢が良いだけじゃなく、信頼を得てる。」

先にリビングに入って行った黒服が金縁のメガネの奥から、品定めでもするようにこちらを見ていた。

背は、マコトさんと同じくらいだけど、骨っぽく痩せた顔。細い目は神経質そう。まるでカマキリだな。

「ええ。私もとっても信頼しているのよ。」

マコトさんが、カマキリにコーヒーを出しながら、微笑んでいる。

「祝。こちらは、弁護士の王紋源次郎おうもんげんじろうさん。」

「え、弁護士?」

カマキリは、落ち着いた声で、

「はい。弁護士の王紋です。よろしく、祝さん。」

「あ、よ、よろしくお願いします。」

ぺこりと頭を下げると、リコちゃんが私の手を引っ張って、小さな声で、

「弁護士って?」

そう聞いてきた。すると、王紋さんが、

「法律で、リコちゃんをお守りする仕事ですよ。」

微笑んでそう言ったけど、カマキリ顔で微笑まれてもね、そりゃ怖い。

リコちんは私の後ろに、サッと隠れてしまった。

「ちなみに、祝さん、私をカマキリのようだと思っていませんか?」

「え、あ、い、いや、その、、。」

「正直ですね。顔が真っ赤ですよ。」

「あー、、、。少しだけ、、思いました。、、、すみません。」

私がそういうと、私の陰からカマキリを見ていたリコちゃんがクスっと笑った。

「見た目よりも優秀です。どうぞご安心を。」

マコトさんは、見た目も優秀よって笑っている。そして、背は大きくないけど、ガッチリとした、顔と体のおじさんを見て、

「こちらは、鑑識課の岩渕岩いわぶちがんさん。警察では、コマちゃんの大大先輩ね。」

「はい。大、大、大先輩です。」

駒井は、ガッチリおじさんに向かって敬礼をしている。本当に、名は体を表すだな、岩みたいなおじさんだ。

「岩渕です。ガンさんて呼んでくれ。」

「あ、はい。ガンさん、祝です。よろしくお願いします。」

「お。少し落ち着きを取り戻したかな。」

「はい。あの、、。」

私は、背筋を伸ばし、そして直角に体を曲げて、

「すみませんでした。勘違いして。ラリアットしてしまうところでした。ごめんなさい。」

ガンさんは、ガッハッハッハと大きな口を開けて漫画みたいに笑いながら、

「いやいや、本当にまっすぐな人だな。コマも真っ直ぐで、真っ正直な人間だ。祝ちゃん、よろしくお願いするよ。いやー、コマ良かったな。祝ちゃんはなー、お前さんを必死で守ろうとしくれたんだぞ。いやー頼もしい。」

「え?ち、違います。駒井じゃなくてリコちゃんを守ろうと、、。」

「いやいや、わかってるよ。わかってる、わかってる。照れなさんな。な。」

駒井は、いやいや勘弁してくださいって、ガンさんに意味不明にまとわりついている。

「祝、ゲンちゃんとガンさんは、私たちの強い味方。さ、仕事するわよ。」

「はい。」

気持ちが、グッと引き締まった。リコちゃんを守り抜くんだ!

それにしても、あの頭の中でしたマコトさんの声。

そして、凄まじい引力で床に私を縛りつけたあの力。

マコトさんは、あんなに優しい顔で微笑んでいるけど、

やっぱり。神様。東方神様なんだと、改めて実感した。


 

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