五十 卵かけご飯
翌朝、ふと目が覚めるとリコちゃんが私を見ていた。
「祝ちゃん、おはよ。」
「んーー。おはよう。リコちゃん目が覚めてたんだ。」
思いっきり伸びをして、リコちゃんを見た。
「祝ちゃん。本当に一緒にいてくれた。」
昨夜、マコトさんの宿題を考えて、すぐに寝付けないでいると、リコちゃんが、「やだ、一緒に行く」と、うなされていた。「大丈夫、大丈夫。」と声をかけると、また眠りについた。そんなリコちゃんが可哀想で、眠れないと思っていたけど、いつの間にかぐっすり寝ていたんだ。
私は、横にいるリコちゃんを見て、
「うん、いたよ。あーよく寝たーー。」
「リコもよく寝たー。」
二人でもう一度大きく伸びをして、そしたら急におかしくなって、笑いが止まらなくなった。
ゲラゲラ笑っていたら、マコトさんがまた、ヒョイとクローゼットのところから、顔を出して、
「二人とも、おはよ。よく眠れたみたいね。」
「あ、マコトさん。ぐっすり寝ちゃいました。」
クローゼットのところからマコトさんが顔を出したのが面白かったのだろう、リコちゃんは起き上がると、私を飛び越えてマコトさんの所に走っていき、クローゼットを押している。
「さあ、顔洗って。もうすぐ9時よ。お腹空いたんじゃない。」
「えー。もうそんな時間ですか!やば。すみません、朝ごはん作らないと。」
「ははは。もうできてるよ。夏乃さんはもう出勤したしね。」
「あー。そうだ。あれ、夏乃さん今日休みって?すみません、仕事でしたか。」
「もう一つのね。」
そう言うとウインクをして、マコトさんは先に行くと、クローゼットを戻し階段を降りていった。
私とリコちゃんは、顔を洗って身支度を済ませると、手を繋いで階段を降りた。
「あー。いい匂い。」
2階に降りると、お味噌汁と、ご飯の炊けた良い匂いがした。
「リコ、卵かけご飯が、、。あ、なんでもない。」
炊き立てのご飯の香りで、リコちゃんの口から自然と出た素直な気持ちだったのだろう。それで良いのに、またリコちゃんは自分の気持ちに蓋をした。
「卵かけご飯が好きなの?」
「、、、うん。」
「じゃあ、食べよう!」
「え、怒らないの?」
「なんで?卵かけ御飯美味しいじゃん。私も大好き!」
「わあ〜。やったー。」
そう言ったリコちゃんの顔が可愛すぎて、ほっぺをムギュと両手で挟んでいると、マコトさんが、
「私も大好きよ。さ、リコちゃんも朝ごはんの支度、手伝って。」
「リコもいいの?」
お手伝いすらも遠慮するんだ。
「もちろん。まずは、テーブルを拭いてください。」
「はい。」
マコトさんがリコちゃんに布巾を渡すと、椅子の上に飛び乗り、テーブルの隅々まで一生懸命に拭いている。まるでボールが飛び跳ねているように楽しそうに、支度を手伝うリコちゃん。そんなリコちゃんを見ていると、自由ってこんなにも楽しいものなのだと実感する。
卵かけご飯が好きと言ったのに、リコちゃんは卵を持ったまま、固まってしまった。
「うん?どうしたの?」
「どうやって食べるの?」
「あ、卵割るんだよ。」
「どうやって?」
えっわからないのって言いそうになったけど、リコちゃんは否定されることに誰よりも敏感だとわかったから、
「えー。リコちゃんは、卵かけご飯の卵は、どっち派でしょうか?」
「どっち派?」
「そう。マコトさんは卵を別の器に割って、お醤油とといて、ご飯にかける派。」
マコトさんが不思議そうに私を見て、
「みんなそうでしょ?」
「ふふん。私は違います。ご飯に少し窪みを作って、ここに卵を、えい、割ります。そして、出汁醤油をかけて、食べます。」
「あら。」
「こうすると、黄身の濃いところも、白身のテュルンとした感じも、混ぜたところも。3回美味しいです!洗い物も少なくて済むしね。」
「本当ね。便利。でも別の器で混ぜて、半分くらいかけて、2度楽しむのもおすすめよ。」
「リコちゃん、どっちにする?」
私とマコトさんでリコちゃんに、どっち?どっち?って詰め寄った顔が面白かったらしく。
「どっちもー。リコ、おかわりして、どっちも食べたい!」
あー、なんて子供らしくて良い表情なんだろう。
「朝からいっぱい食べるね。すごいよ!」
「なんか、お腹空いちゃった。」
卵かけご飯に、ワカメと豆腐のお味噌汁。海苔と佃煮。シンプルな朝ごはんだけど、リコちゃんはとってもおいしそうに食べていた。
卵も、器に割って。二個目はおかわりしたご飯の上に割って。ちょっとこぼれちゃったけど、それもたのしそうに拭いていた。私にとっても最高の朝ごはん。
そうだったんだけど、呼び鈴が鳴って、モニターに映る駒井を見た瞬間に、緊張が走った。
駒井が立っている階段の下には、あの黒服の男たちが迫っていた。




